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第49話協力者を得ますか?

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「分かるに決まってるだろ、()()()()()()()()()()()()()()


 袈刃音の言葉を、愛羅はどう受け取っただろうか。

 一体いつから、どうやって、ひた隠しにしてきたその事実を知ったのか思いを駆け巡らせただろうか。


 分からない。


 ただ、愛羅の顔を染める恐怖と焦燥の色がより濃くなったのは、誰の目から見ても明らかだった。

 ――勝負を仕掛けるならば今だ。じりじりと、袈刃音は彼女の下へ詰め寄っていく。


「何で今まで、俺が藍刃さんを泳がせてたか分かるか?」


 わざわざ【メモリー】を見せて真実を教えてやるつもりはない。

 何故自分がやって来た悪行が(あば)かれてしまったのか、言ってやらなければ、どうせ愛羅は理解出来ないまま。


「止めて欲しかったんだよ。俺が今日まで黙ってたのは、藍刃さんから止めて欲しかったからだ」


「っ……」


 故に、愛羅の胸に刺さった虚言は彼女の中で真実となり苦しめる。


「ずっと待ってた。止めてくれるのを」


 後退る愛羅を逃すまいと、袈刃音は樹の幹に片手を突き出した。

 そうして、背後を樹の背に阻まれ退路を失った彼女へ、ずいと吐息がかかるほどに顔を近づけさせる。


「止めてくれたら、俺は許した」


「……」


 抵抗も(たばか)りも、愛羅に全てが無駄と思わせた。

 決して袈刃音を、その仲間を裏切らせないために。


「でも、そうならなかった」


 そしてもう一つ、彼女を味方へ引き入れるために、


「俺はもう――藍刃さんを許さない」


「――ッ!?」


 藍刃愛羅の行動原理は袈刃音への好意。

 袈刃音の事が誰よりも好きで、誰よりも愛していて、誰にも奪わせたくなくて、誰よりも自分が相手に好かれていたい。


 ならば、その相手に突き放されてしまったならどうか


 ――辛い、なんてもんじゃないよな……?藍刃さん。


 袈刃音も同じだ。己の一番醜い部分を見られた時を想像するだけで、心が竦む。


 今にもぐちゃぐちゃになってしまいそうな顔を堪えながらも、愛羅は膝から崩れ落ちた。

 彼女を支えていた『何か』が折れたのだ。




「…………ごめ……ッ、なさっ。ごめん、……なさぃ」



 掠れた声で、愛羅が赦しを乞う。

 こちらを見上げる目からは、涙が次々溢れて頬を伝っていった。


 あの日――愛羅を殺した日の場景と今が重なる。あの時も彼女は泣いていた。

 恐らくは、今とは別の思いを胸に抱きながら。


 ――赦す、か……。


 きっと無理だと思う、それはこの心がさせてくれない。

 怒りと嫌悪感と、少しばかりの恐怖が胸の奥から消えないから。


 けれど、


「チャンスを一回だけ、藍刃さんに」


「……ぇ?」


「まだ赦さない。けど、俺がこれから頼む事をやり遂げてくれたら、その時に藍刃さんを――」


「やる!わた、私ッ、何でもやるから。欲しいモノッ、欲しい物があるんだったら探すから、秘密にしてて欲しい事なら、し、死んでも黙ってるから、火の中に飛び込めって言ったら飛び込むから、代わりにやって欲しい事があったらやるから人殺しでもやるから何でもやるから絶対役に立って見せるから、私がんばるから……だから、袈刃音、くん…………」


 再び泣き出しそうな顔になる愛羅の肩に、片膝を地面につけた袈刃音はポンと軽く右手を置いた。


「あぁ、約束する」


 これで朝比奈旭の安全確保の目途は立った。


 立ち上がり膝の土を払い、袈刃音は、背後で愛羅とのやり取りを眺めていた響へ視線を向ける。

 異論を挟むでもなく、ただ見守られていたのだ。

 目と目が合っても、響は瞳を逸らさずじっとこちらを見て、沈黙の中で見つめ合う。


「良かったの?これでさ」


 近い距離まで歩み寄って来て、袈刃音にだけ聞こえる声で響が尋ねる。


「いいよ。鬼、外道は言われ慣れてる。色々含めて最良じゃなくても、これが一番安全だ」


「……そっか、ならいい。口出ししない」


 何か言いたげな表情を一瞬こちらに向けるが、響瞼を閉じつつ気持ちを呑み込み、代わりの言葉を袈刃音に送った。


 口にしようとした台詞はどういうものだったのか。

 ただ、それを考えている時間は少年に与えられなかった。




「――このクズ野郎が!」


「「!?」」


 唐突な叫び声に、袈刃音達の目がそちらへ即座に向かう。

 建物の物陰、そこから見覚えのある顔の少年が現れた。


 (れん)、響にそう呼ばれていた子だ。


「ずっと、変だって思ってたんだ。怪しいって」


「ちょっ、れん――」


「響は騙されてんだよ!今さっき見たろ?コイツが人を脅してんのを。それに響、二人でどっか行った後に倒れたじゃんか……。コイツが何かしたに決まってる。違うってんなら、何があったか俺に言ってみろ!」


「それは……」


 言葉に詰まる響。


 悪意があった訳ではなかったとはいえ、響が体調を崩したのは、紛れもなく袈刃音の所為だ。

 ただ、とても話せる内容じゃない。


 恋に睨まれつつ水を向けられた袈刃音自身も、口を閉ざすしかなかった。


「……出てけよ、こっから。お前怪し過ぎなんだよ」


「え、いや、待って恋。私騙されてなんかないよ。聞いて。だって袈刃音は、私の……」


 仲間だ、伝えたいのはそれだけなのに、どこまで説明しようか響はまた躊躇った。

 まさか自分がこの世界をやり直すために何をしたのかまでは話せない。


 それを()()()()に捉えてしまった恋は、歯嚙みした。


「何だよ……やっぱ、お前コイツの事…………ッ。クソ!」


「ぁっ」


 ついには、堪えきれなくなってその場から逃げるように去ってしまった。

 遠ざかっていく少年の背中を響の右手が追いそうになるが、途中で無駄だと分かって、虚空を掴む。


「響」


「……大丈夫。ちょっと勘違いして熱くなっただけだと思うから。しばらくしたら、多分また戻って来るよ」


「そう、か。悪い、響。俺が――」


「袈刃音は悪くないって。それより、やる事はまだあるでしょ」


「……分かった」


 この後、確実にゾンビ達の爆発的な増殖が起こり、拍車の掛かっていく混乱。

 それに備えるため、動かなくてはならない。


 藍刃愛羅を協力者としてこちら側に引き入れる事には成功した。

 準備項目は順調に埋まっていっているはず。


 ――嫌な予感がする。そんな不安が胸に圧し掛かるのは、だから、自分だけだと袈刃音は自らに言い聞かせた。










文月です。


投稿が遅れてしまいました。

先週ですが、インフルエンザに罹ってしまいまして……すみません、休ませて頂きました。


今度から、何かあった時は活動報告か最新話の後書きにて報告するようにします。

どっちがいいだろう。後者の方が分かりやすいですかね。


引き続き本作をお楽しみください。


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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