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第41話目的地へ急ぎますか?

 Now Loading…


――何だ、今の……ッ。


 人だった。

 不意のことで、さらに、一瞬だった所為でよく見えず、性別すら分からなかったけれど。

 でも――血塗れだったのが見えた。


「袈刃音?」


 千華が自分の名を呼んだのにも気付かずに、袈刃音は半身を座席の背もたれへ素早く回す。

 そうして、リアウィンドウの向こう側で遠くなっていく人影を睨むように見つめた。


 とある単語が、少年の頭を過った。


「不死者じゃな」


「見たのか、クロノ?」


「さっき血が滲んだ服を着て歩いとった女の死体のことか?まぁ、見たが何じゃ」


「……ぁあ、いや。何でもない」


 嘘だった。


 ある時、湖窓響と交わした会話で聞いたことを袈刃音は覚えていた。

 どんな話だったか、流石に【メモリー】を抽出しなければ具体的には思い出せないが。

 しかし、覚えていた。


 この辺りの人通りはそこまで多くないのだ。


 だから、いくらゾンビが増えて来ているといっても、この朝の時間に出るのはおかしい。


 響のいる施設の方で何かが起きたのか?

 そう思った。


 けれど、憶測はただの憶測でしかなくて、今さら施設へ向かうという選択を変えるつもりもないし、変えられない。

 ただ、妙な胸騒ぎは当然消えなくて……。

 ほんの僅かの焦りが雪のように少しずつ、袈刃音の心へ積もっていく。

 

「ん。袈刃音君」


 真白に言われて顔を上げ、袈刃音はフロントガラスの方を見た。

 少し先のところに確認できたのは、見覚えのある薄紅色の屋根。


 児童養護施設「さくらい」だ。


「もうすぐ着くけど、あの薄赤い屋根の施設だよね?」


「あっ、はい。そこで――前ッ!」


「ッ!?」


 正面。十字路の直前にある三叉路から、突然に飛び出して来た人影。

 袈刃音の言葉でそれに気付いた真白は、すぐさまブレーキペダルを思い切り踏む――が、停止が間に合わないッ。

 彼女が選んだのはハンドル操作による回避。


「んのッ……!」


 おかげで人との衝突は免れた。

 しかし、ハンドルを強引に切ったことで、タイヤが横滑りを起こした。

 道路とタイヤの強烈な摩擦音が生まれる中、回転する車は必死に止まろうと急く。

 車体の激しい揺れの中、真白は思った。このままでは不味い。


 ――近くのブロック塀に、激突してしまう。


 咄嗟にハンドルを逆へ切った。


「…………ぅ、ぅんっ」


 静まり返った車内で、真白が、いつの間にか閉じてしまっていた瞼を持ち上げる。

 そうして周囲を軽く見回し、ホッと息をつく。


 僅か数センチ程だった。

 十字路にあるブロック塀の角の手前で、ギリギリ車が停止できたのだ。


「あ、焦ったぁ。ごめん皆、よそ見して。怪我ない?」


「は、はい」


「何とか」


 後部座席から、袈刃音と千華の声が聞こえた。

 助手席の時花とクロノも見た限り問題なさそうだった。


「……袈刃音、近い」


「ぁあ、ごめん。離れる。ぶつかる感じで寄りかかったけど、頭打ってねーよな?」


「う、うん。別に……へーき」


「そっか、よかった」


 袈刃音は思考を切り替え、車外の様子の確認に移った。


「ッ!?ぞ、ゾンビっ」


「?」


 真白の声に反応して、ゾンビの姿を探すと――すぐに見つかった。

 首の付け根からの酷い出血で、明らかに死んでいるのがわかった。

 生ける屍は、車が発した先程の大きな音に釣られ、こちらに鈍い足を一歩ずつ進めている。

 その周りには他に人の姿は見当たらない。


 袈刃音の表情が険しいものへと変わった。


「真白さん、さっき飛び出して来たのって」


「あいつ、だよね?」


「多分」


 嫌な予感というのは、当たって欲しくないときにだけよく当たる。


 短時間で二体のゾンビを目撃した。

 ということは、少なくとも、起きると不味い「何か」がこの付近で起きたかもしれないということ。


「え、ちょ、袈刃音君?」


「先行って見て来ます」


 それだけ言い残して、袈刃音は車から降り、ドアを閉めると駆け出した。

 途中、真白の車へ向かおうとするゾンビとの距離が縮まる。

 そして、


「申請、バール」


 ゲームシステムにより呼び出された武器を掴み取り、一振り。

 血飛沫を撒き散らし、道路へ後頭部を打ち付けて動かなくなった不死者を置き去りに、袈刃音は十字路の先にある緩い上り坂を走る。


 曲線状に伸びた道を上って、曲がり切った場所には目的の施設があるはずだ。

 響も、恐らくはそこに……。


「ん?おい、マジかよッ」


 その最中、ゾンビを袈刃音の視界に飛び込んで来た。

 一体。いや、奥から二体目の姿が見えた。


 予感がいよいよ確信へと変わる。


 ――「何か」が、起きてしまったのだ。


「ッ!るぁッ!」


 連続で、鉄塊の重い一撃を不死者に浴びせて、道の端へ吹き飛ばす。

 これなら、あとで上って来る真白の運転の障害にならないはず。


 さらに一体、バールを振るい絶命させる。

 そうして、道を曲がり切ると――



「?」


 そこには何もなかった。

 予期していた光景と現実のズレに、袈刃音はその場で立ち止まってしまった。


 ――どういう、ことだ……?


 誰も。人も不死者も、誰の姿も見えない。

 人通りが少なかったから、たまたま被害があれだけで済んだ?

 いや、違う。


「声……!」


 怒鳴るような声が袈刃音の耳に届いた。

 何が起きているのかと、施設の近くへ駆け足で進むが、そこで気付く。

 少し先に見える施設の門が、片方だけ開いていたのだ。


 急いで門近くに辿り着くと、その陰に袈刃音は隠れる。

 そうして、物陰から静かに中の様子を覗く。


「――ぁっ」


 直後、袈刃音の瞳に見覚えのある少女の姿が映った。







文月です。

予定通り、次々回の方で休みました。

七月ちょっと忙しすぎる問題!


……は、さておき。そういう事情で、今週はちょっと早めの投稿でした。

次回は8月になります。


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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