第39話ゲームを続けますか?
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夏空に似合わない悲鳴が、街中の至る場所で上がった。
鋭い叫び声は、不死なる存在を呼びつける危険な餌。
声に釣られ、生ける屍は一人、二人三人と、その場に居合わせた人間を次々に襲っていく。
取り押さえようとする者は不死者に皮膚を食い破られ、逃走を図る者も人混みに紛れた不死者の牙の餌食となる。
そうして、その全てが新たな不死者へと変貌を遂げ、加速的に被害が広まっていく。
残った者は逃げるしか、いや、最早逃げ惑うしかない。
「やばいな……」
道を走る車の中。
暴動の中心地の様子を視界の先に収めた三浦袈刃音は、若干の焦りを声に滲ませ呟いた。
「……ッ」
「真白さん、駄目ですスピード上げて」
袈刃音は車の速度が僅かに下がったのを見逃さない。
運転席に座る真白に顔を近づけて指示を出した。
「う、うんッ」
言われてアクセルペダルにかける足。
兎祁神真白は躊躇いつつも、次の瞬間、一気に踏み込んだ。
「袈刃音、外の人は……?」
車が速度を急激に上げていく中、尋ねて来たのは荒山千華だった。
袈刃音は隣の席の彼女をちらりと見る。
「何とかしたいのは山々だけど、一々助けてたらキリがない」
「そ、そうだよね。ごめん」
荒々しい蛇行運転で、真白が次々と前方の乗用車を抜き去って行く中、千華は小さくなって謝った。
「俺が勝手に急いでるだけだよ。本当は千華が正しくて、俺が間違ってる」
「まぁ、そもそも、この『げーむ』自体が間違いといえば間違いじゃがな」
「?クロノ様?」
助手席に座るクロノの声に、その膝の上に乗る兎祁神時花が彼女を見上げた。
クロノは車の激しい揺れを気にして、時花をそっと片腕で胸に引き寄せる。
窓際に頬杖を突き、紫紺の瞳がつまらなそうに窓の外に視線をやった。
「全員など救えん。神でもなければ、否、神であってもか……」
あの時空神にしては珍しく自嘲的な台詞だ。
慰めを言ってやるべきなのだろうか。それ程長い付き合いでないから、少年には判断が付かない。
今は非常時だと理由を付けて、袈刃音は喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ。
そうして、鮮血散る阿鼻叫喚の場景は、窓の端から端へ流れ消えて行った。
◆◇◆◇◆
車から降りたのはそれから少し経った頃。
選んだ場所は、公園。
朝の人通りが少ないここならば、必然的にゾンビに出会う確率も減る。
障害物も多くないから、ばったり奴らと出くわす危険もほとんどない。
とはいえ、
「多くなって来たな」
「不死者共のことか?」
ベンチに腰掛けていた袈刃音の隣で、クロノが尋ねた。
「人が集まりそうな所だと、もうほとんどさっきみたいになってる。けど、人気のない場所だと大抵まだこんなもん。ゲームの進行度で言ったら、どうだろう。多分、四日目くらいじゃねぇかな」
「今日は三日目。……やはり、遊戯神の【守護者】の行動が影響を与えたか」
「【守護者】って、昨日の……。どっちにしろ、ゲームの進行が前より早くなってるってのがやばいよ」
袈刃音は険しい表情を作って言う。
「再三言うが、妾は今、神界での取り決めで建前上は『ぷれいやー』じゃ。神ではない故、規制で大した力は使えんぞ」
「分かってる。もとからそのつもりで動いてる」
本音を言えばクロノの力で全てを解決できれば、と思っている。
けれど、子どものように駄々をこねたところで、何かが変わるわけでもない。
そうであれば、とっくの昔に袈刃音はこの地獄のような世界から抜け出せていた。
絶望の数々を見ずに済んだ。
そうしてきっと――
「袈刃音君、はい。水で良かった?」
「ぁあ、どうも」
首筋に冷たい感触が当たり振り向くと、真白がこちらに水の入ったペットボトルを差し出した。
受け取ると、近くの自販機から買って来たばかりだからよく冷えていて、それが心地よかった。
袈刃音は深呼吸をして立ち上がる。
「真白さん。ちょっと休憩したら、すぐ行けますか?」
「うん。近くの児童養護施設、だよね?確か、友達とそこで合流するって……」
「施設を拠点にしたいってのもあります。ずっと移動だと、ゾンビとの遭遇率が上がるし、何より疲れが溜まる。ので、俺としては早めに解決しておきたくて」
「任せて、道は分かるから」
文月です。
お知らせです。
7月は忙しくなりそうですので、次回か、次々回あたりに一度、投稿をお休みするかもです。
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