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第35話【メモリー】内データを抽出します

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「ド、ドミエン様。しかしッ……」


「聞こえなかったか、下がれルシドラ。貴様は【盾】だろう、【(ほこ)】は私――」


「ッ!?後ろ!」


 前に立ったドミエンが目の端でルシドラを捉え、鋭い声で反論の芽を潰そうとしていたその時だった。

 言葉を遮って発せられたルシドラの声。


 咄嗟に正面に意識を戻した直後、ドミエンの眼前に影が迫っていた。

 敵へ急接近を果たした袈刃音が、拳に乗せて繰り出した【想焔】だ。


 ――統率者、とでも呼ぶのだろうか。

 ドミエン。仲間のイートスレイト、ルシドラに比べれば外見の特徴に乏しく、静かな言動の男だ。


 しかし、却ってそれが侮れないと袈刃音は危険視した。


 冷静な行動、指示。

 無論、先の不意打ちに動揺と焦燥の色は見られる。が、それがあまりに少ない。

 少年が真っ先に倒しておきたい存在だと直感したのは不思議な話ではなかった。


「ッ!?」


 脳裏に思い描いていた光景とは裏腹に、激しい衝突音と共に【想焔】が爆発四散する。

 ルシドラの寄越したシールドが邪魔をした。

 反撃を警戒し、袈刃音は間合いを取る。


 今の一撃で激しくひび割れた【盾】とやらは、やはり相当固いらしく、砕けるには至っていない。


「あと二、三発くらい要るか」


 ボソリと呟いた少年の一言に、神の【守護者】達は戦慄した。

 ドミエンの鋭利な双眸が袈刃音を威圧するように睨んだ。

 いや、袈刃音というよりは、「その手に纏うモノを」と表現する方が正確か。


「信じられん、人間がこのシールドに傷をつけるなど……。一体何だ、あの暗い焔はッ」


 理解不能な状況は敵の司令塔に静かな苛立ちを植え付けた。

 ルシドラが業を煮やして前に一歩踏み出す。


「ドミエン様、指示を。俺ぁどうすれば!」


 前のめりな構えが戦意の昂ぶりをありありと示していた。

 けれども、期待した返事は返ってこなかった。


「……撤退だ」


「!?な、何を言ってッ。本気で言ってんですか!逃げるなんてそんな」


「逃げるとは言っていない、一度態勢を立て直すと言ったのだ。風向きが悪く、おまけに私の配下がどちらも使い物にならんとあっては仕方あるまい。業腹だがここは一旦引き下がっ――」




「んな悠長にしてられっかァ!!」


 ルシドラは勢いよく飛び出し、その巨躯を袈刃音に向かわせた。

 敵が迫る眼前、袈刃音は降って来るだろう拳に備える。


 が、その寸前。


 ダンッ!とルシドラの左足がコンクリートの地面を踏み砕いた。

 予期せず足場を崩された袈刃音の体に、本命の殴打が巨漢から放たれ、文字通り少年を吹き飛ばした。


「愚か者!戻れルシドラ、命令だ」


「命令するなら「アイツを殺せ」って言ってくれ、ドミエン様ッ。俺は今、そうしたくてそうしたくて……堪らねぇんだよォ!!」


 制止を振り切って袈刃音に追撃を見舞おうと接近し、拳を振り上げるルシドラ。


「死にやがれェ。ッ!?」


 即座に起き上った三浦袈刃音が、繰り出した拳で、鉛のように重い一撃を一瞬にして弾き飛ばした。

 少年はそこに生まれた隙を見逃さない。

 素早く跳躍し、頬の辺りを狙って横からルシドラの顔面を蹴り飛ばす。


 ぐらりと体勢を崩した敵。

 それを視界に捉え、袈刃音は【想焔】を片手に(おこ)して放つが――


「ッ」


 暗い焔は、突如虚空に現れた大きなシールドに行く手を阻まれ散った。

 されど袈刃音は止まらず、着地と同時、【想焔】を身に纏わせた拳をそこへ叩き込む。


【盾】に亀裂が走った。


 ルシドラは苦し紛れに、五枚のシールドをその後ろへ顕現させる。


「俺は、【盾】だぁッ……!人間なんぞの、人間なんぞの気合ひとつで、このシールドが破られて――」


「気合いじゃねぇよ、溜め込んだ記憶だ。感情だ」


 少年の口が怒れる大男の声を遮って、訂正した。

 それは根性論でもなければ、感情論でもない。


 袈刃音の心が、【想焔】の火を激しく燃え上がらせ、さらに熱くする。


「嘘だと思うなら、見逃さないようにしっかり目ぇ開いとけよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――【メモリー】、抽出」


「ッ!?」





 その瞬間、袈刃音の手の焔が黒を宿して暴れた。

 影とは比べ物にならないほどに深い闇の色。

【想焔】の熱は敵を捉えると、眼前のシールドをいとも容易く溶かし、そして、一気にルシドラの胸元まで到達した。


 ドサッ、と巨漢が力なく、薄汚れた灰色の地面に背中から倒れた。

 巨体の胸に大きく開いた穴の縁を、黒々とした焔が燃やしている。


 袈刃音の目が残る敵を冷めた目で見つめた。


「人間が、第七【守護者】の力を破った……」


 味方の死よりも、ドミエンにとっては、目に映る光景の方が余程受け入れ難かったのだろう。

 呆けた面を晒して袈刃音を見つめていた。


「【想焔】はただの焔じゃない。神だろうが何だろうが全部を燃やす」


「何、【想焔】……?【想焔】だと?――まさか、【破炎(はえん)】のッ」


 途端、神の使徒が豹変する。

 眉間に皺を作り、敵意を強く眼光に。

 顕現し、槍に姿を変えた炎の柄を掴んだ時には駆け出していた。


 交差する赤々とした矛先と仄暗い光を纏う拳。

 攻撃は両者届かず、力と力が互いを押し潰すほどの勢いで(せめ)ぎ合う。


「ミウラ・カバネッ。貴様を殺せと命じられた訳が、今、ようやく真に理解出来た。だとするならば、いよいよ貴様をこの手で潰さねば――!」


 袈刃音は、背後に気配を感じ取り大きく横に跳んだ。

 遅れてやって来たのは衝撃音。見れば、死に絶えたはずのルシドラの体が、拳で硬い地面を陥没させていた。


 状況が吞み込めないまま【想焔】をドミエンに飛ばす。しかし、その手前でシールドが現れ攻撃を阻害した。


 ――死んだはずの奴が動いてる。まだ生きてるのか……?いや、


「そうか、お前か」


 他者を操る糸を使っていたイートスレイトはもういない。

 けれど、その能力が今の状況に関係しているとすれば。


 袈刃音は直感した、ルシドラを操っているのは恐らくドミエンだ。


 硬い足場を踏み締めると、弾き飛ばされるようにして、少年は巨漢の懐まで一気に迫る。

 その手には、あの黒い【想焔】。

 シールドの防御が入る前にルシドラの腹に掌が触れ、直後その巨躯が激しく燃え上がる。


「――動くな」


 敵の巨体が炎上しながら、糸の切れた操り人形のように倒れたと同時、背後から届いた声。

 いくつもの炎の槍が、袈刃音を取り囲んでいた。

 誰がやったのかは考えるまでもない。


「仲間の能力も使えるのか」


「元は私の能力だ。配下には力を貸していたに過ぎん」


「それで何十人、何百人死んだんだから世話ねぇよ。……ホントにッ」


「貴様が時を戻すなどしなければ、わざわざ殺す必要もなかったがな。配下もまた補充せねばならん」


「俺の、せいかよ」


 腹の中ではドミエンの指摘が正しいと理解しつつも、袈刃音の中で、納得できない自分が静かに怒りを持った。

 酷い嫌悪感に襲われる。


「安心しろ。そんなことを罪だと感じるというのなら、死が罰にもなる。楽にもなれる」


 ただ、その程度では袈刃音が止まるなどあり得ない。


「クロノは――」


「?」


「クロノは、俺に楽になれなんて言わなかった」


【想焔】が仄暗い色を伴って袈刃音の足元に熾る。


「自分の欲に従えって、言いもした」


 焔は、その色をより黒く染めていく。


 心の葛藤はわだかまったまま。

 渇望も、悪夢のような記憶を孕み胸に刻まれてから、強い疼きをずっと生んでいる。


 だからこそ、その全てをこの焔に()べよう。

 だからこそ、


「まだ死ぬつもりなんてねぇよ俺は」


 敵に顔を向け、袈刃音は短く静かに告げた。


「【メモリー】、抽出」


【想焔】に、一寸先すら見えないほどの闇が湧く。

 袈刃音の記憶に焼き付いたドス黒い感情を吸い取り、焔は爆ぜるように広がって、荒れ狂う。

 深い深い暗闇に染まっていく。


「なッ、ん……!?これではまるで、()()()とッ」


 火の手が、廃工場の天井にすら達しそうな炎上の規模。

 炎の槍など全て暗い灼熱に消え、強烈な熱波が神の使徒を襲う。


 本能的にか、巨大な【盾】を何重にも重ねたドミエン。


 しかし、そこで気付いた。

 ――この防御に、どれだけの意味があるだろうか?


 荒々しく渦巻くドス黒い焔の中、袈刃音は敵へ歩を進めながら口を開いた。


「今度はお前らの思い通りになると思うなよ」


「……私以外にも、必ず刺客は現れる。そう、言ったら?」


「同じ風に()るしかないだろ。どうせ、止めようなんて言っても、諦める奴はいないんだろうから。だから――」


 全てを燃やし尽くす純黒の焔が、ドミエンの肉体に終焉を告げる。

 後には灰すら残らず、静寂だけがその場に漂うだけ。


 小さく溜息を洩らし、袈刃音は鬱屈とした目で天を仰いだ。




「だから本当に、クソったれな気分だよ」






文月です。

投稿が遅れました、申し訳ございませんっ。

第1章はあと1、2話ほどで終了です。


引き続き、応援よろしくお願いします!


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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