第34話敵を圧倒しますか?
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炎の勢いが静まっていく。
その中に生まれた朧げな影が、徐々に鮮明さを増して人の影になる。
ついには火の膜の大半が剥がれ、人影の正体が暴かれた。
「ミウラ、カバネ……ッ」
ルシドラの低い声が、掠れ気味に少年の名を口にする。
対する袈刃音は、油断の気配を露程も見せず彼の様子に意識を傾けていた。
袈刃音が読み取ったのは、何故だ、と混乱している敵の表情。
「さっきまでお前らが見てたのは俺の焔だ。焼かれる前に焼き切ったんだよ、俺の焔がお前らの仲間の炎を。今死んだアイツみたいに」
胸の前に持って来た右手に袈刃音は【想焔】の赤い火を灯して淡々と告げた。
咄嗟に思い付いた策だった。
【想焔】が望み通りの働きをしてくれるかは、ほとんど博打だったと言ってもいい。
しかし、その賭けに勝った。
短剣に刺され負った傷も、自らの焔に紛れている間に【ポイント】の消費によって完治させた。
「詰めが甘かったな」
「――ッ。テメェ、よくもォォォォォォオッ!」
頭に血が上ったルシドラが、獣の咆哮の如き怒号を喉から吐き散らした。
同時、虚空に突如現れた何かが、左右から袈刃音に鋭く挟み撃ちを仕掛けて来た。
咄嗟に耳の近くで両腕を構え、体が潰されるのを防ぐ。
袈刃音は視界の端に半透明の硝子のような分厚い板を見た。
攻撃の正体が判明した。
――頭上から拳の強烈な一撃が降って来たのはその直後だった。
「ふざッ、けんなァア!!」
岩石が激突したような衝撃で巻き上げられる土煙。
コンクリートの地面へ稲妻状に走った亀裂。
ルシドラにとって、それは怒りに任せ振るった渾身の殴打。
人など容易く叩き潰されて、足元を血で染めた瓦礫に変えるはずだ。
そのはずなのに、振り降ろした拳が止まった。
「なッ……!?」
袈刃音の額が受け止めたのだ。
何のことはない。
ただ、降ってきた拳に頭突きをぶつけただけ。
「……お前ら、こそ」
熱のない声が、袈刃音の口からぽつりと出る。
「観客気取って見てたんだろ、俺達を」
左右からの圧殺を妨げ続ける両腕の先に、仄暗い焔を纏わせる。
「笑って見てたんだろ」
ぐぐぅッ、と腕で硝子板に似た二枚のそれを徐々に押し退けながら、焔が表面を溶かし始めた。
影のような焔は、袈刃音の感情を糧に激しく燃え、より暗く染まっていく。
許せなかった。
こんな最悪なゲームに巻き込まれて、人殺しを迫られて、希望を打ち砕かれて。
袈刃音の鋭い眼差しがルシドラを突き刺す。
最早、それは憎悪だった。
そして今、こいつらを、もっと許せなくなった。
「覚えてるか、この世界でお前らが殺した人の数を?散々殺して、殺して、殺してッ……。なのに、仲間が殺される覚悟もしてねぇなんて。――お前らこそ、ふざけんなよッ」
その瞬間、一気に火力を増した暗い焔。
袈刃音は両手に浮遊する硝子板もどきを拳で叩き割った。
「お、俺の、シールドが……!?――ッ」
ルシドラにそれ以上の驚愕する時間は与えられなかった。
あの焔を纏った袈刃音の拳が眼前に迫る。
バリィィィッ、と虚空へ裂け目が稲光のように広がった。
否、ひび割れたのは、ルシドラの鼻先に滑り込むようにして現れた、例の半透明の異物。
なるほど、本人がシールドと言い張るだけはある。
攻撃を防ぎ切った。
――猛火が空を裂いて、猛烈な勢いで右手に迫った。
妨害の炎に気付いた袈刃音は、すぐさま後ろへ跳んで回避した。
「下がれルシドラ!」
鋭い指示を飛ばした者は確認するまでもなかった。
ドミエン、あの黒髪の男だ。
評価、ブックマーク感謝です。
そろそろ10万字。まずは第一章の完結をっ。
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《完了》
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