第33話敵を撃破しますか?
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「なーんか。終わってみれば、意外と呆気なかったなぁ……」
少しばかり過剰に立つ炎を前にしゃがみ込むと、イートスレイトはその高熱の黄赤色の輝きを睨むようにして見つめた。
長い銀髪がコンクリートの地面を撫でるが、今はどうでもよかった。
イートスレイト、ルシドラ、そして二人を束ねるドミエン。
この三者が遊戯神から命令を受け、三浦袈刃音の抹殺に動いたのだ。
失敗などあり得ない。
事実、眼前で曖昧な輪郭すら見えないほどに激しく燃え続けているのがそれだったものだ。
しかし、だとしても拍子抜けというか、殺すのがあまりに簡単だったというのがイートスレイトが抱いた感想だった。
「んだよイートスレイト、つまんなそうな顔して。呆気ないだとか言って最後に抵抗されてたじゃねーかよ」
「黙れルシドラ。そういう話をしてるんじゃない」
いつもなら口論の発端になりそうな会話は、珍しく静かに打ち切られる。
抵抗されるのは当然だ。
しっくり来ないのは、抵抗された上でなお、計画通りにあの三浦袈刃音の始末が完了したこと。
イートスレイトとしては、計画はもっと予想外の展開が起きるのではないかという予感があったのだ。
妙な話、もう少し張り合いがあった方が自然だった。
もっとも、奴がまさか、命を対価にしてまで朝比奈旭を助け出すとは考えもしなかったが。
「人間ってのは、よく分かんないな。神に命令されたワケでもなしに、他人なんか庇って死ぬとか。いや、だからこそ……か。なるほどねぇ」
一層激しく揺らめく炎の中で炭化を進めているであろう少年の体。
イートスレイトは、それを足元に転がっていた針金を拾って突いた。
動く気配はやはりなく、こちらにあれだけ反抗的だったのが噓のように物言わぬ焦げた肉に成り果てている。
「はっ、馬鹿みてぇ」
立ち上がったイートスレイトが嘲笑交じりに呟いた。
人間とは異なる価値観がそうさせるのだろうか。
恐らくはそうなのだろう。
この冷笑も。
そして、全てにおいて神を優先するような言動の数々も、まさに神々の使徒と呼ぶべきもの。
それが、彼らに致命的な思い違いの種を植え付けた。
――炎が不自然なうねりを見せる。
「?――ッ!?」
しかし、気付いた時には、火炎の中から伸びて来たその手がイートスレイトの細い首を掴んでいた。
「ぁがッ、はッ、はッぅぐぁ……ッッ」
咄嗟にイートスレイトの両手が、首を握り潰さんとする勢いの手を激しく拒んだ。
だというのにその抵抗が意味をなしていない。
背中をゾクリと駆け抜ける悪寒。
冷や汗が止まらない、止まらないッ。
イートスレイトを襲う焦燥は、彼の心をじわりじわりと焦がしていく。
それとは裏腹に、靴裏が鼠色の地面から徐々に剝がれていく。
痛くて、息苦しくて、血走った目の端に涙が溜まって、ついに両手がその手に爪を立てて抉るように皮膚を引っ搔いた。
逃げなければ、一刻も早くこの手の拘束から逃れなければッ。
だが、そんな時――影色の焔が視界の端に現れ始めた。
「やめッ、がッ!あぁ、あぁッ、ぁ――」
それはやがて、イートスレイトの全身に纏わり付くように燃え広がっていく。
仄暗い焔の中、死の恐怖が最高潮に達した瞬間生まれかけた絶叫。
けれど、彼の断末魔の叫びは轟くまでもなく、勢い一気に増した焔に掻き消された。
直後、空気に溶けるようにして焔が消えた。
残されたのは僅かな灰。
ただそれも、空を舞いながら風に流され散ってなくなった。
「い、イートス、レイ、ト……?」
あまりに唐突で、何が起こったのか分からなかったルシドラの声。
違う。分からなかったのは、分かりたくなかったのは、それが到底受け入れ難い現実だったからだ。
「おい、返事……返事しろよッ。どこだ、どこ行った!イートスレ――」
「死んだよ。アイツは、今死んだ。俺が殺したんだ」
「!?」
激しく揺らめき立つ炎の中から、不意に届いた声。
驚愕に大きく目を見開くと同時、自身の体が岩のように硬直する感覚がルシドラに襲い掛かった。
肉体の強張りになす術もなく立ち尽くす巨漢は、今、自らがでくのぼうに成り下がったことさえ分からずにいた。
だが、その声を忘却するなど決してあり得ない。
――何故ならその声は、紛れもなく三浦袈刃音のものだったから。
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