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第31話廃工場に向かいますか?

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 網状のフェンスの先に、(さび)れた鼠色の建物が見える。

 それなりの大きさはあるようだが、所々で汚れが目立っていた。


「ここか」


「うん、私が中学上がった時くらいに潰れた工場」


 袈刃音の呟くような確認の声に千華が応じた。

 国道を離れた道を何度か曲がった先にあったのがこの場所である。

 住宅街や商店街からも距離を置き、丁度孤立した状態で建っていた。

 とはいえ、地元だというのに、こんな場所があるとは……。


 千華を横目で見ると、続いて袈刃音は背後へ注意を向ける。

 霞雅阿久弥から引き出した情報からここに向かったのは、自分を含め五人。


 片腕に抱える時花、千華、真白、そして舞だ。


 真白に車を飛ばしてもらっての移動であるため、乗車人数を気にしてこの人数に絞った。

 集団で行動するのを考えても、妥当な人選だろう。


 いや、実を言えば舞については少し事情が違った。

 彼女が行きたがるのを半ば利用して、霞雅の同行を阻止したのだ。

 無論、本人にはそのことを伝えなかったが。


「?どうしたの、カバネっち。難しい顔してさ」


「いや、何でも。ちょっと考えごと」


「……ヒナっちのこと?」


「この向こうに、いるかもだしな。それと、小野寺の言ってた三人組も」


 袈刃音は振り返って、廃工場へ眼差しを送った。


 イートスレイトと他の二人。

 見上げるほどの筋骨隆々な巨漢と、逆立った黒髪の男だったか。


 状況を楽観視しないなら、全員が何らかの能力の使い手であると想定して行動すべきだろう。


「俺が先に中の様子見て来るから、皆は一旦ここで待機。時花ちゃんは俺と一緒に」


「は、はいっ」


 慎重に行こう。

 現在いるこの建物の影に身を潜めていれば、恐らく見つかることはない。

 周りにゾンビの姿は見当たらないし、イートスレイトの見張りの目はないだろう。


 そう予想を立てつつ、袈刃音は周囲に視線を巡らせてみる。


 人気はやはり皆無のようで静けさが漂うばかりだったが、一瞬、どこからか視線を感じた。

 どこだ?と探そうとした時。

 ふと、近くを猫が通り過ぎて行く様子が袈刃音の瞳に映った。


 ――何だ、猫か……。


 自然と目で動きを追って行くと、その小さな足が音もなくピタりと止まって、コンクリートの地面へしなやかに腰を下ろしこちらを見つめた。


 細くなっては太くなるを繰り返す猫の瞳孔。


 それがどこか不気味に感じた。


「袈刃音?」


 千華の声が聞こえ、袈刃音は我に返る。


「あ、えっと、何か言ったか」


「いや違くて、ぼーっとしてるからさ」


「ぁあ、悪い。猫が……」


「猫?も、もしかして、猫もゾンビになるとか?」


「何でそうなるんだよ千華。ルール上は人間だけだし、神の使徒だとかもいるのに、んなのまで敵になったら面倒過ぎるだ――」


 そこで、脳裏に何かが引っかかる感覚を覚えた。

 待て、冷静になれ、今自分は何と言った。


 ――神の使徒、敵になる、面倒……猫、が


「……ッ!」


 気付いた瞬間、袈刃音の全身から冷や汗がドッと湧いて出た。


 最悪だ、最悪過ぎる。

 まさか、こんな簡単なことも見落としていたなんてッ。


 人の気配がないから見張りがないだと?違う。

 イートスレイトの【隷属化の糸】は【死霊術(ネクロマンシー)】と似て非なるものだ。

 いわば【死霊術(ネクロマンシー)】の上位互換。

 奴の糸の効果対象は死者だけではなく、恐らく生者も含まれる。


 そして、それはきっと()()()()()()()()()


「クッソッ!」


 押し殺したような声で言葉を吐き捨て、袈刃音は眼前に腰を据える猫を睨み付けた。

 殺気すら孕んだ視線に晒されようとも、何食わぬ顔でいるこちらを見据える姿が腹立たしい。

 しかし、そんな少年の足元に新たな猫が寄って来た。


 その口には何かが書かれた一枚の紙を咥えていて、それを袈刃音に差し出すように上に向ける。


 僅かに躊躇うが、袈刃音は苦い顔をして猫から紙を奪った。

 用紙に記されたものの内容を読むと、その顔が一層険しくなった。


「か、袈刃音君その紙、何?」


「……真白さん、皆も。悪い、俺が不用心過ぎた。考えてみりゃそりゃそうだ、綾辻先輩だって人形みたいにされてたんだから。――イートスレイトの、あいつの糸なら猫ぐらい操るなんて訳なかったんだ」


「「「「――ッ!?」」」」


 おもむろに、袈刃音は右手の指で摘まんだ紙切れを全員へ見せた。

 恐らく、イートスレイトに脅されたのだろう、そこに書かれた文字の筆跡は旭のものに似ていた。

 随所に震えたような表記が見られる文章の内容は、実に簡潔だった。


『隠れてもムダ、出て来い』


 廃工場へ向かおうとした二匹の猫が一度立ち止まり、こちらに首だけ回して鳴いた。

 まるで、ついて来いと呼びかけるように。


 袈刃音達に出来たのは、覚悟を決めて敵陣へ進むことだけだった。






文月です。ブックマーク・★評価など、ありがとうございます。

31話でした。誤字脱字、話の矛盾点などございましたら、気軽に報告いただけますと対応できるかと思います。


それと、お知らせを。


【・重要】

本作第二章の執筆について、迷いに迷ったのですが、「様子見」ということで執筆を宣言させていただきます!

なお、余程のことがありません限り、第二章の完結も確約ということで進めていこうかとっ。


お知らせは以上です。


【・ご案内】

 本作の読後、『面白い』など感じられましたら、下の★★★★★の部分をタップかクリックして評価していただけると嬉しく思います。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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