第29話体育館へ向かいますか?
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綾辻を操っていたイートスレイトの糸を燃やした後からは早かった。
梯子を【ポイント】と交換して手に入れると、袈刃音達は教室から窓の外へ脱出を果たした。
意識を取り戻した綾辻も、無事に梯子を使って下へ降りた。
傀儡となっていたから後で何か影響が出るかとも思ったが、それも杞憂に終わったらしい。
一行は、旧校舎近くの塀を越え、袈刃音を先頭に予定通り体育館へ向かっていた。
その足取りは、やや重い。
「……大丈夫、袈刃音?」
「ぁあ、うん」
千華に尋ねられ曖昧に返す。
視線を、胸元まで持って来た左手へ落とす。
そうして袈刃音は、【想焔】の朱色を掌に小さく灯した。
皮膚は焦げず、しかし、自身の意思を糧に炎は燃えている。
ふと、クロノの助言を思い出す。
――俺の強力な武器になる、か。
袈刃音は半ば確信を持って、その言葉の意味を真に理解しようとしていた。
想像、想い、意思を炎にする力。
それがもし、自身が推測する通りの力ならば――。
そこまで考えて、手の上で燃える炎を拳で潰して消した。
どちらにしろ迂闊だった。あんな危険な力を生身の人間に向けたのだから。
敵前で感情の制御が利かなくなるなど論外だ。
過去の世界で、それは嫌と言うくらい思い知らされたではないか。
「カバネっち、その、これからどうするの?」
「言ったろ?取り敢えず、体育館に――」
「そうじゃなくてっ。ヒナっちの、ことだよ」
上目遣いでこちらに弱々しく旭の名を出した舞を見て、袈刃音は納得した。
話しかけて来た時にそわそわと落ち着かない様子だったのは、そういう理由からだろう。
「大丈夫、何とかする。絶対にな」
「何だか今日のカバネっち、頼もしいね」
「色々あったんだよ。それより」
そこで言葉を切り、焦げ茶色の瞳を正面に向ける。
目の前に見えるのは体育館の入り口だ。
回り道する形でここまで来たが、不死者達の姿はなかった。
「多分大丈夫だと思うけど、慎重に行くぞ」
後ろを一瞥し、全員に聞こえるように袈刃音は言った。
返事はない。しかし、その無言こそが了解の意。
――霞雅……。
イートスレイトの言う通りなら、奴だけが敵以外で旭の居場所を把握している。
無論、霞雅阿久弥が味方などと袈刃音は思えないが。
推測だが、イートスレイトの口ぶりからして、霞雅は生きている。
そもそも袈刃音を罠に嵌めたいのだろうから、そこに至るまでの道標を潰すとは考えにくい。
霞雅がこの体育館へ逃げ込んでいる可能性は高いと見るべきだ。
知らず、周囲の空気が一層重苦しくなった。
掌に汗が滲むのを感じながら、入り口の全面硝子張りのドアの奥に目を凝らす。
見張りだろうか、近くには教師の姿が二つ。
そのさらに奥の様子は、締め切られた扉の所為で見えない。
どうやら、教師達が袈刃音達に気付いたようで、こちらへ近寄って来た。
「……入ろう」
ドアの前に立つと、閉められていた鍵が解錠されて開いた。
教師達が心配と安堵の入り混じった声をかけて来るが、袈刃音はそれを振り切って奥へと進んで行く。
無駄なことに今は時間を割いていられない。
「舞!」
クラスメイトの女子が舞を見つけ、駆け寄って来た。
友人との再会に、舞の顔にも安堵の笑みが浮かぶ。
周囲を見てみれば、多くの生徒が体育館内にいた。
とはいえ、全校生徒数を思えば、ここの人数はその半分にも満たない。
つまり、逃げ切れたのは大方これだけで、あとは外で見て来た通りなのだろう。
皆、身体よりも、精神的に疲弊しているように見える。
霞雅はどこにいる?
袈刃音は止めていた足を再び動かそうとして――そこで、見つけた。
文月です。
ストーリーのストック分・全29話の連続投稿が終了いたしました。
次回からは一章部分完結に向けて投稿していきたいと思います。
第二章については、まだ執筆を迷っているところではございますが、引き続き応援いただけますと嬉しく思います。
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