表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/112

第26話避難しますか?

 Now Loading…


「そうだ。小野寺、怪我は?」


 ふと、袈刃音は、終えていなかった確認を思い出した。

 尋ねたのは負傷の有無。とはいえ、本当に気になっているのは、ゾンビに噛まれていないかだ。

 見たところ目立った傷は見当たらない。


 舞はやっと落ち着いたのか、赤くなった目元に残る涙を人差し指で拭うと、鼻声のまま問い掛けに答えた。


「ううん、大丈夫」


「そうか。あと、ゾンビに……あっ、外の奴らみたいなのには、噛まれてないよな?」


「噛まれてないよ。多分、全員大丈夫だと思う」


「本当か」


 周りに視線を送る。皆、一様に無言で首を縦に振った。

 袈刃音はホッと一息ついた。


 当然ながら、負傷を隠している者がいる可能性は否定出来ない。

 何せ、ゾンビ映画が現実になったような状況で、舞達はそれなりの時間を過ごしたはずだ。

 勘の良い人間なら、袈刃音の質問の意図に気付いてもおかしくない。


 しかし、舞と周囲の反応を見る限りだと、嘘は言っていなさそうだ。

 最初に傷がないのも確認した。


 一応は安心して問題ないか。


「っし、なら、次はどこに逃げるかだな。ここにずっといる訳にもいかないし。けど……」


 袈刃音は窓際に近付いて外の様子を見た。三階から見えた下の景色に交じって、二体の不死者が音を頼りに生者を求め彷徨(さまよ)っている。

 校門の反対側に位置する、校舎と外壁の間に敷かれた通路でさえコレだ。校庭の方はもう逃げ場がほとんどないだろう。

 ならば、この下に降りて、壁を越えた先にある体育館へ向かった方がまだ安全だ。それにあそこなら、ゾンビ達も侵入が難しいはずだから。


 隣に舞が立って、袈刃音を見た。


「私達、本当は体育館に向かおうとしてたんだ。そっちに逃げってった人多かったから。けど、それじゃ一階に降りないと駄目でさ。試そうとしたんだけど、二階にあのゾンビみたいなのが溜まってて……」


「それでここまで逃げて来たのか」


「うん、結局あいつらに見つかっちゃたけど」


「たまたま綺麗に逃げ道塞がれた……ってのは、多分ないな。やったなら、その三人組な気がする」


 いや、現時点ではそうとしか考えられない。

 とはいえ、今は考えても仕方のない事だ。


「取り敢えずここ出るぞ」


「出るって……出られないから困ってるんだよ?カバネっち」



「だな、その子の言うとーりじゃねぇの」


「「?」」


 後ろからの声に、二人がそちらへ振り向くと、微かに見覚えのある男子生徒の姿があった。


 袈刃音よりも高い身長。天然なのか作っているのかは知らないが、パーマをかけたような髪。

 色は明るい茶色だ。(だいだい)色が表現として近いだろうか。


 陽気な印象を与える容姿の少年だった。


「えっと、確か……」


綾辻(あやつじ)先輩だよ、サッカー部の」


 舞から出た名字を聞いて、どこで見たのかやっと思い出せた。


 ――この人、インハイ前の結団式出てたよな……部長だっけ?


 そもそも、帰宅部の袈刃音にはほとんど関係ない学校行事だ。

 体育館に集まって式の様子をぼんやり眺めていたのもある。

 うっすらとした記憶しか残っていなかったのは、仕方がなかった。


「先輩が皆集めながら、ここまで連れて来てくれたんだよ」


「まぁ、あのヤベェ奴らも集まって来たけどな。で、話し戻すけどさ。外はあんなだし、ここ出てったらヤバいだろ」


 綾辻を言葉を受け、もう一度舞を見ると、彼の指摘に同意するようにコクコクと首を小さく縦に振った。


「大丈夫。ゾンビに見つからないように降りる方法、思い付いたから」


「えっ?そうなの、袈刃音っち」


「この人数で、あの数のゾンビから逃げながら動くのは難しいし、危ないからな。――窓から降りる。まず俺から降りて、下のゾンビ殺して……」


「待って。待って待って、カバネっち何言ってんの!?ここ三階だよ、降りるってどうやってッ。落ちたら大怪我じゃん!」


梯子(はしご)使えば何とかなる。それに、落ちても俺が拾うし大丈夫だよ、小野寺」


 袈刃音は視線を虚空に移しつつ呟く。


「三階分ってなると結構デカい梯子だから……必要ポイントは、二百くらいか?――ビンゴ」


 眼前に漆黒の表示板が浮かぶ。

 宙に固定されたような極めて薄いその板に、消費ポイントが白い文字で表示されたが、予想通りだった。

 ポイントは可能な限り使いたくない。しかし、二百ポイントならば許容範囲だ。


「……えっ。な、何その黒いの」


(あと)でな」


 驚きと当惑に満ちた表情の小野寺を置き去りに、袈刃音は、意識を避難経路の確保へ向けた。

 クレセント(じょう)を下に回転させて、窓を横に滑らせる。


「梯子かぁ……確かに、それがあったら直ぐ降りられるな!」


 綾辻の陽気な声が聞こえた。

 小野寺だけでなく、周囲の生徒達も、表示板の存在に戸惑っているというのに、何故か一人だけ。


 ――何だ、この人……


 状況を呑み込むのが早過ぎる気がした。


 他の者と比較して落ち着いていた千華にでさえ、色々と訊かれた。

 いくら平静を保っているとはいえ……。

 いいやむしろ、そうであるからこそ、さっきのように、こちらへ何か尋ねて来るかと思っていたのだが。


 まぁ、些細な事だ。

 胸の中で微かに感じた違和感を、袈刃音はそう片付けた。


 丁度良いではないか。冷静な綾辻を最初に降りさせれば、後に続く者も精神的な意味で降りやすくなるはずだ。


「綾辻先ぱ――」






 振り返って彼の名を呼ぼうとした時だった、綾辻が刃物で袈刃音を襲ったのは。





文月です。

本日の投稿はここまでとさせて頂きます。


お知らせを。


明日が最後の連続投稿となりますっ。

お楽しみに!


【・ご案内】

 本作の読後、『面白い』など感じられましたら、下の★★★★★の部分をタップかクリックして評価していただけると嬉しく思います。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ