第26話避難しますか?
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「そうだ。小野寺、怪我は?」
ふと、袈刃音は、終えていなかった確認を思い出した。
尋ねたのは負傷の有無。とはいえ、本当に気になっているのは、ゾンビに噛まれていないかだ。
見たところ目立った傷は見当たらない。
舞はやっと落ち着いたのか、赤くなった目元に残る涙を人差し指で拭うと、鼻声のまま問い掛けに答えた。
「ううん、大丈夫」
「そうか。あと、ゾンビに……あっ、外の奴らみたいなのには、噛まれてないよな?」
「噛まれてないよ。多分、全員大丈夫だと思う」
「本当か」
周りに視線を送る。皆、一様に無言で首を縦に振った。
袈刃音はホッと一息ついた。
当然ながら、負傷を隠している者がいる可能性は否定出来ない。
何せ、ゾンビ映画が現実になったような状況で、舞達はそれなりの時間を過ごしたはずだ。
勘の良い人間なら、袈刃音の質問の意図に気付いてもおかしくない。
しかし、舞と周囲の反応を見る限りだと、嘘は言っていなさそうだ。
最初に傷がないのも確認した。
一応は安心して問題ないか。
「っし、なら、次はどこに逃げるかだな。ここにずっといる訳にもいかないし。けど……」
袈刃音は窓際に近付いて外の様子を見た。三階から見えた下の景色に交じって、二体の不死者が音を頼りに生者を求め彷徨っている。
校門の反対側に位置する、校舎と外壁の間に敷かれた通路でさえコレだ。校庭の方はもう逃げ場がほとんどないだろう。
ならば、この下に降りて、壁を越えた先にある体育館へ向かった方がまだ安全だ。それにあそこなら、ゾンビ達も侵入が難しいはずだから。
隣に舞が立って、袈刃音を見た。
「私達、本当は体育館に向かおうとしてたんだ。そっちに逃げってった人多かったから。けど、それじゃ一階に降りないと駄目でさ。試そうとしたんだけど、二階にあのゾンビみたいなのが溜まってて……」
「それでここまで逃げて来たのか」
「うん、結局あいつらに見つかっちゃたけど」
「たまたま綺麗に逃げ道塞がれた……ってのは、多分ないな。やったなら、その三人組な気がする」
いや、現時点ではそうとしか考えられない。
とはいえ、今は考えても仕方のない事だ。
「取り敢えずここ出るぞ」
「出るって……出られないから困ってるんだよ?カバネっち」
「だな、その子の言うとーりじゃねぇの」
「「?」」
後ろからの声に、二人がそちらへ振り向くと、微かに見覚えのある男子生徒の姿があった。
袈刃音よりも高い身長。天然なのか作っているのかは知らないが、パーマをかけたような髪。
色は明るい茶色だ。橙色が表現として近いだろうか。
陽気な印象を与える容姿の少年だった。
「えっと、確か……」
「綾辻先輩だよ、サッカー部の」
舞から出た名字を聞いて、どこで見たのかやっと思い出せた。
――この人、インハイ前の結団式出てたよな……部長だっけ?
そもそも、帰宅部の袈刃音にはほとんど関係ない学校行事だ。
体育館に集まって式の様子をぼんやり眺めていたのもある。
うっすらとした記憶しか残っていなかったのは、仕方がなかった。
「先輩が皆集めながら、ここまで連れて来てくれたんだよ」
「まぁ、あのヤベェ奴らも集まって来たけどな。で、話し戻すけどさ。外はあんなだし、ここ出てったらヤバいだろ」
綾辻を言葉を受け、もう一度舞を見ると、彼の指摘に同意するようにコクコクと首を小さく縦に振った。
「大丈夫。ゾンビに見つからないように降りる方法、思い付いたから」
「えっ?そうなの、袈刃音っち」
「この人数で、あの数のゾンビから逃げながら動くのは難しいし、危ないからな。――窓から降りる。まず俺から降りて、下のゾンビ殺して……」
「待って。待って待って、カバネっち何言ってんの!?ここ三階だよ、降りるってどうやってッ。落ちたら大怪我じゃん!」
「梯子使えば何とかなる。それに、落ちても俺が拾うし大丈夫だよ、小野寺」
袈刃音は視線を虚空に移しつつ呟く。
「三階分ってなると結構デカい梯子だから……必要ポイントは、二百くらいか?――ビンゴ」
眼前に漆黒の表示板が浮かぶ。
宙に固定されたような極めて薄いその板に、消費ポイントが白い文字で表示されたが、予想通りだった。
ポイントは可能な限り使いたくない。しかし、二百ポイントならば許容範囲だ。
「……えっ。な、何その黒いの」
「後でな」
驚きと当惑に満ちた表情の小野寺を置き去りに、袈刃音は、意識を避難経路の確保へ向けた。
クレセント錠を下に回転させて、窓を横に滑らせる。
「梯子かぁ……確かに、それがあったら直ぐ降りられるな!」
綾辻の陽気な声が聞こえた。
小野寺だけでなく、周囲の生徒達も、表示板の存在に戸惑っているというのに、何故か一人だけ。
――何だ、この人……
状況を呑み込むのが早過ぎる気がした。
他の者と比較して落ち着いていた千華にでさえ、色々と訊かれた。
いくら平静を保っているとはいえ……。
いいやむしろ、そうであるからこそ、さっきのように、こちらへ何か尋ねて来るかと思っていたのだが。
まぁ、些細な事だ。
胸の中で微かに感じた違和感を、袈刃音はそう片付けた。
丁度良いではないか。冷静な綾辻を最初に降りさせれば、後に続く者も精神的な意味で降りやすくなるはずだ。
「綾辻先ぱ――」
振り返って彼の名を呼ぼうとした時だった、綾辻が刃物で袈刃音を襲ったのは。
文月です。
本日の投稿はここまでとさせて頂きます。
お知らせを。
明日が最後の連続投稿となりますっ。
お楽しみに!
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