第24話校内を探索しますか?
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鮮血が宙を走り、校舎の廊下に撒き散らされる。
袈刃音が武器として使うバールにより、致死の一撃を与えられた不死者がまた一体、膝から崩れ地面に倒れた。
後ろを振り返り、袈刃音は時花に視線を向ける。
「時花ちゃん。終わったよ」
「はい、今行きます」
互いに近寄り、時花を抱きかかえた。
そんな彼の方に、先程まで背後で後方の警戒を行っていた千華と真白が歩み寄って来る。
【ポイント】を消費して取得し、千華に槍を、真白にライオットシールドを渡したのだが、2人ともぎこちなさを覚える持ち方だ。
密かに感じたその違和感を知る事なく、千華の目がじっと袈刃音を見つめた。
「……ずっと思ってたけどさ、色々慣れてるよね、袈刃音は」
「えっ。ぁあ、まぁその、昨日の経験ってのかな。それでちょっと慣れたっていうか」
「それより、早く行こう」と彼女の意識を逸らして話を誤魔化す。
無論、立ち話をしている暇がないのも事実だ。
二階まで上がって来たが、ここまで生存者を一人も見ていない。厳密には、見つけた時には既にゾンビ達に襲われていたというべきか。
一階は不死者で溢れていたのだ。自分達は別としても、これでは逃げようにも、誰も下に降りられない。
仮に、どうにかして降りられたとしても、階下のゾンビ達の餌食になる可能性が高い。
そして、ここにも相当の数のゾンビがいる。
袈刃音の教室のある、この階に。
半ば焦燥に突き動かされながら、時花を抱えて走る。
「止まって」
唐突に立ち止まり、静かに、しかし鋭い声と言葉で後ろの千華達を制止した。
目的の教室へ辿り着いた。その事実が袈刃音の逸る心に拍車をかける。
冷や汗が額に生まれる感覚を覚えた。
いつでもすぐに部屋へ突入出来るよう、小窓付きの引き戸に手をかける。
そうして、室内の様子をその陰に隠れて、小窓からそっと覗く。
「――ッ」
「袈刃音?」
「……行こう。誰も、いなかった」
千華がどうかしたのか訊くと、袈刃音は低い声で答えた。そうして、時花の顔を胸に抱き寄せ無言で歩いて行く。
「え、あ、ちょっ。――ぇ?」
戸惑いつつも、千華は慌ててついて行こうと数歩踏み出し、そこで立ち止まった。
教室の窓の向こう側。硝子一枚を隔てたその先に、血に塗れた十人近くの不死者達の姿があった。
見た限りでは生存者は見られない。袈刃音の言った通り、誰もいなかった。
体を硬直させ、動揺を隠せないでいる千華の背中に、真白の手が優しく添えられた。
「行こう、千華ちゃん」
「……うん」
校内での探索は予想以上に難航した。
かなりの数のゾンビが廊下、室内を問わず徘徊している所為で、上手く身動きが取れない。
それに歯痒さを覚えながらも、袈刃音は慎重に動く。
不死者の多い場所では、特に。
もし奴らに見つかれば、敵を迎え撃とうが逃げようが、騒ぎが起きる。建物内では音が反響しやすいのだ。もたもたしている内に、それに釣られて不死者達がわらわらと集まって来る。
少ない物陰に隠れつつ、静かにやり過ごしす。もしくは、わざと何もない場所に大きな音を発生させて、そちらに不死者達の意識を向けさせる。
結局の所、そんな風に動く方が一番効率がいい。実際、自分達はそうやってここまで上がってきた。
無論、袈刃音一人で動くならその限りではない。
とはいえ。
――人捜しながらじゃ、どのみち派手に動けねぇ。やっぱ、ちょっとのミスで皆巻き込む、か。
袈刃音は行動方法の変更を再度考えるが、結局同じ結論に至った。
いつの間にか、手汗が掌に滲んでいた。
「ここも、違う……」
三階。初めに通りがかった教室の様子を、引き戸に取り付けられた小窓から覗くも、人の気配はなかった。人が隠れられそうな物も、中にほとんどない。
次の場所へ移動しようと後ろを振り返る。
そこで袈刃音は、一体の不死者の人影が、こちらに接近しつつあるのを見た。
上の階に進むにつれ、目に見えて数が減っていってはいるが……。
――何か、思ったより少ない?まぁ、いいか。
距離は十分に開いている。向こうはまだ、自分達の存在に気付いていない。
この状況なら、見つかる前に叩きに行った方がいい。
しかし、袈刃音が動くよりも先に、真白が大楯を構えて前に出た。恐る恐る。
そうして、覚悟を決めたように背後の千華に視線を送った。
静かな合図に応じ、頷いた千華も彼女の隣に並んだ。
「――ッ!」
ゾンビが間合いに入る直前、真白が斜めに飛び出した。
その勢いとライオットシールドの重みを利用して、不死者を、透明の盾で壁に押し込んだ。
無意識に盾へ体重をかけ、真白は歯を食い縛る。
「ぅくッ……!」
動きを封じ込まれた不死者。その首に向かって、横から千華の槍の刃が突き出された。
刀身は大きく首の肉を裂く。飛び散った血が、無色の盾に荒々しく紅色を差した。
即死とはいかない。けれど、数十秒もしない内にゾンビは真の意味で死を迎えた。
「……袈刃音に、こんな事、袈刃音ばっかりに任せてたら、だ、駄目だと思ったから…………」
青くなった顔をこちらに向けた千華は、震えた声で、しかし、その奥に強い意思を含ませ言った。
袈刃音は時花を抱えたまま、真白の方を見た。
恐怖から来る緊張と興奮で呼吸が荒くなっている。徐々にだが、冷静さを取り戻そうとしている。
不意に目が合うと、彼女は千華の言葉を肯定するように無言で頷いた。
「……ありがとうっ」
丁度良い機会だったのかもしれない。
デスゲームが現実となった世界で生きていくならば、きっと、いずれ通る道だったから。
短く礼を言うと、「行こう」と袈刃音は先に進むよう全員に促した。
今は非常事態だ。これ以上この場所にいると、あの二人に、自分達が一線を超えた事実について深く考える時間を与えてしまう、というのもある。
それは危険だ――躊躇いは、『アンデッド・ゲーム』では死に直結する。
「何だ?」
三階に設けられた渡り廊下の先。
旧校舎の方にゾンビの集団を見つけた。
見たところ、教室の入り口付近に集まっている。否、これはその途中。
ゾンビ達が騒ぎ立てる方向へ、新たな不死者が吸い寄せられて来ているのだ。
三階の新校舎が不自然に静かだったのも、きっとその所為だろう。
千華が、不死者達の群がる方を人差し指で差した。
「ねぇ、袈刃音、あれって……」
「多分、人がいるッ」
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