第22話ゲリライベントが発生しました
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「……ぇ?」
旭の乾いた唇の隙間から、掠れたような、そんな疑問の声が小さく漏れた。
周囲にも動揺の波が広がっていく。
「ここ確か、ミウラ・カバネの教室だったよね?なのに見当たらないんだけど。ねぇ馬鹿ザル」
「あばッ、ばばばばいぃッ。みみ、みみ三浦、は!今日、は、やす、休みなのですですですぅぅう!!」
「っという訳なのさ。困ったもんだよね、せっかくこうして僕達が来てやったっていうのに本人がいないだなんて。まぁ、だからさ、訊きたいんだよねぇアイツの居場所」
問いに対し、叫ぶように答えた教師の声を長い銀色の髪の少年が受け取って、生徒達にそう事情を説明した。
――と、そこまで喋ったところで、不意に少年と旭の目が合った。
「ん?あぁ、そっかそっか!そりゃそうだよね、ははは。当然いるよね」
言って、少年がずかずかと無遠慮にこちらへ歩いて来る。
そうして、旭の目の前で立ち止まると、不健康に見える程色白な手を満面の笑みでこちらに差し出して来た。
「ねぇ君、アサヒナ・アサヒだよね。そうだよね?うわぁ、感動だなぁ。君みたいなレアキャラに会えるなんてさぁ。良い良い、最高じゃん。握手してよ、ほら、ほらっ」
「え、っと……」
「うんうんっ、ありがと。流石レアキャラ、礼儀がなってるね。分かってるじゃない?あっ、僕イートスレイト。神々の使徒なんだぁ、凄いでしょ。凄いよねぇ?ははっ」
言われるがままに、旭はその手を取って握手に応じた。
少年の――イートスレイトの手を握る彼女の右手は、汗でぐっしょりと濡れていた。
この少年を不機嫌にしては、きっと駄目だと思った。そうしないと、彼が何をしでかすのか分からなくて、旭は怖かった。
「……おいッ」
そんな時だった、霞雅阿久弥がイートスレイトの腕を掴んだのは。
そして、
「朝比奈から、は、離れろよ!あんま調子に乗ってっと――」
「あぁ、そういう脅しはいいから」
霞雅の声を遮って、イートスレイトは彼を見もせずに言った。
イートスレイトが視線をおもむろに移動させ、流し目に霞雅を見た。
「一つ、教えといてやるよ。脅迫はそうやって行う物じゃない。そういうのは、強い奴が弱い奴に使ってこそ意味があるワケだ。生意気な犬が吠えて来たってイライラするだけなんだよ。ねぇ、僕の言ってる事分かるかな?分かるよねぇ?――お前みたいな雑魚キャラには、それは分不相応な代物なんだよ、カスガ・アクヤ」
「ッ!?なっ、何で、お前、俺の名前……」
「さぁ、何でだろうね。ミウラ・カバネにでも訊いてみたら分かるかもよ?」
――どう、いう事?何で、さっきから袈刃音の話ばっかり……。
旭の思考は混乱に陥っていた。けれど、そんな彼女の心情など置き去りに、事態は悪化の道を進んでいく。
「イートスレイト、遊戯神様からの通達だ。ミウラ・カバネはここにも、自分の家にもいない」
「ホントですか、ドミエン様。じゃあ、遊戯神様にアイツの居場所教えて頂いてますよねぇ。そうですよねぇ?」
「例の【審判】を控えているのだ、あの御方にそこまでは求められん」
「えぇ~、めんどくさいなぁ。めんどくさいよぉ。はぁ……時空神様だよね、今回の問題の発端って。あぁやだやだ、下手したら神界の規定に触れるっていうのに、何だって僕達が下界でこんな雑用――ん?あれっ、僕の操り人形が……。何でだろ」
「どうした」
ドミエンと呼ばれた件の中肉中背の男に尋ねられ、イートスレイトはふと我に返ったような顔をした。そして、その表情は悪戯を思い付いた子どものものへと変貌を遂げる。
「そっか。そっか、そっか、なるほどねぇ。良い良い、やるじゃんさぁミウラ・カバネ。……ふふっ、僕、イイコト思い付いちゃったかも。ねぇドミエン様ぁ、このあとの事、僕に任せてよ」
「策があるのか?」
「下界に降りた言い訳も出来る最高のが、一つだけ」
「ふむ……いいだろう」
数秒の思考。その後、静かに発せられたその言葉が全ての始まりだった。
「んじゃあルシドラ、やれ」
「へいへい、わーったよ。……ったく、毎度毎度、俺を顎で使いやがって」
筋骨隆々の男――ルシドラが、溜息交じりにのっそりと巨体を動かせ、こちらへ歩を進めて来る。
何をするつもりなのか分からぬまま、旭はその様子を警戒心を高めながら見ているしか出来なかった。
ルシドラの丸太のような両脚が、自分の目の前で止まるまでは。
「えつ……?」
呆然とした。
ガタンッ、と旭の机と椅子が乱暴な音を立てて床に倒れる。
気が付けば、彼女はルシドラの左肩に担がれていた。
「ひ、ヒナっち――」
「はぁい、静かに」
「ひッ!?」
思わず席から立ち上がり、叫んだ小野寺舞を制す声。イートスレイトだ。
同時に、その人差し指の指先は、舞の額に触れていた。
「何を出しゃばってんのさ君。駄目駄目、駄目じゃないの。レアキャラは目立つものだからいい、雑魚キャラも演出には必要だから許せる。けど、モブは駄目だ。君だってゲームの一つや二つ、した事くらいあるだろう?だからさぁ、モブはモブらしく静かにしてないと。違う?そうでしょ、そうだよねぇ?」
「ぇ、ぁ、ぁあ……」
動けなくなる舞を他所に、イートスレイトは人差し指に込める力を徐々に強めていく。
「僕は、ねぇ、思うんだ。立場を、わきまえない奴にはさぁ、教えてあげないと、駄目だって」
「……ッ」
「でも安心してよ。僕優しいんだ。暴力で直接わからせるなんて、そんな酷い事はしない。代わりに、次に同じ事したらどうなるか見せてあげるよ。丁度良いし、馬鹿ザルでその末路を演出してみようか」
「……ぇ、え?」
舞は、いや、教室内にいる生徒の誰もが、イートスレイトの言葉を理解出来なかった。
イートスレイトが教師の方へ戻っていき、その肩をポンっと軽く叩いた。
「先、生?」
舞が疑問の声を零す。
その直後、教師と目が合う。
不意に、嫌な予感がした。
「誰……から、だッ、うご、動がない、だれかぁ…………お、小野、寺ぁ」
「やッ、嫌、止め……!」
「体、動かぜ、だいんだ。いッ、いだ、い……。病院、助げ、小野寺……た、助け、て――」
言い終える直前、教師は両手で自分の首の骨を折り、絶命した。
「「――……ッ!!」」
舞も、旭も、目を見開いたまま言葉を失った。
周囲から聞こえる悲鳴。
けれど、この事態を引き起こした張本人であろうイートスレイトは嘲るように笑った。
「――まぁでもっ、君達とは、もう会う事ないんだけどね?」
狂っている。少年の皮を被ったこの怪物は、どこまでも狂っていて、醜悪だ。
しかし、そんな感情を抱く暇など、どこにもなかった。
「泣き叫ぶのは、まだ少し早い。けれど、それ以上のモノを見せてくれれば問題はないよ。ふふっ、不死者となった俗物に刺した【隷属化の糸】は抜いておいた。僕の制御を離れたというべきかな。どちらでもいい、さぁて……楽しい楽しいゲリライベントの始まりだ」
イートスレイトの言葉の、その直後。
――教師の死体が動き出す。
そう。それが、恐怖の合図だった。
次話の投稿は、今日午後8時中に行う予定です。
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