第21話シナリオ改変を行いますか?
※今話は少々過激な表現が使われております。ご注意を。
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――同刻、富志ヶ峰高校にて。
蟬達が、校内に直立する木々の背に捕まり、短い命を削るように、忙しなく鳴いているのが聞こえる。
青空から降り注ぐ夏の日差しは、室外の蒸し暑い空気と共に浴びれば、きっと焼けるように熱い。
朝比奈旭が教室で授業を受けていたのは、そんな日の午前だった。
「……」
普段と変わらない授業態度。
変わらない授業風景。
この教室内の温度すら、冷房によって、きっといつも通りの室温まで冷やされている。
けれど、ただ一つだけ、いつもとは異なる事があった。
――袈刃音がいない。
授業は既に三限目に差し掛かっている。しかし、袈刃音は一向に教室に姿を現さない。
たったそれだけ。それだけなのに、周りが嫌に静かで、世界にぽっかり穴が開いたような感覚に襲われる。
蟬の声だけが、また、いっそう煩くなった気がした。
――どう、したんだろう……。
嘘だ。本当は原因など分かっている。
『誰の所為でこんなに目に遭ってると思ってんだッ……』
昨日の袈刃音の言葉が頭を過った。
学校に来てくれれば、来てくれれば、きっと幾らでも謝れるのに。そうしたら、多分……。そう思った。
もちろん、全てが元通りになるとは思えなかったけれど。
「!?」
と、不意に何かに右肘をつつかれ、旭はビクッと小さく両肩を上下させた。
「もう、驚かせないでよ舞ちゃん」
右を向くと、そこにいたのは隣の席の小野寺舞だった。
小柄な彼女は静かに悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「どしたの?元気ないじゃん、ヒナっち」
「そんな事、ないよ……」
「の、割には学校来てからカバネっちの席チラチラ見てたよね。ヒナっち分かりやす過ぎぃ。何、喧嘩でもした?」
ひそひそと会話する中、舞に図星を突かれた旭は苦笑いを浮かべた。
「うん、昨日ちょっとね……」
「え、ウソ、ホントにッ?何で」
「あぁっ、いや、私が無神経な事言っちゃってさ」
「無神経な事、ねぇ…どうせヒナっちは悪くないのに、カバネっちが後先考えないで思ってもない事言ったんじゃないの」
「それは……どう、かな」
違うと思った。非があったのは自分だと思った。あの時の袈刃音の言葉が本心でなかったとは、旭には到底思えなかった。
袈刃音が虐められていた理由を知った。それだけではない、袈刃音は想像していた以上に傷付いていた。
だというのに、家族以外で一番近くにいたはずの自分は、彼の事を何一つ分かっていなかったのだから。
「はぁ、ヒナっちって自分に厳しい癖に身内に甘過ぎるとこあるよね。何か結婚とかしたら大変そう。仕方ないねぇ、今日カバネっちが来たら私がガツンと言ってあげる」
「はは…ガツンは駄目だって、悪いの私なんだから」
「大丈夫大丈夫、向こうは向こうで今頃自分の言った事に後悔して、どうしたらいいか分かんない状態だろうから。こっちからアクション起こしたげないと。あ、カバネっちが学校来なかったら部活終わるまで待ってて。うちの顧問、放課後職員会議で今日部室に顔出さないし、曲合わせ数回終わったら直ぐ解散するから」
「う、うん」
旭は親友の勢いに逆らえぬまま頷く。
頼もしいような、この後の事を考えると少しだけ不安なような感覚を覚えながら。
――もしも世界が変わってしまったなら、彼女はこの日の記憶すら日常と呼んだだろうか。
「ねぇ、ここかな?ここだよねぇルシドラぁッ。よぅし、んじゃ――おっ邪魔しまぁーすッと!」
それは唐突にドアを蹴破り現われた。
瞬間、黒板を前に、白のチョークを持つ教師の手が止まった。声も止んだ。
そうして瞬く間に教室からほとんどの音が消えた。
視線が一つの場所に集まっていく。誰もが呆然とした表情で、依然として声すら出せぬまま。
「アハハハハ、皆おっどろいてやーんの。馬鹿みてぇ」
「馬鹿はお前だイートスレイト。埃やら硝子やらが飛び散んだよその開け方」
「黙れルシドラ、僕はお前がどうなろうと知ったこっちゃないんだよ。ちょっと考えたら分かることだろうが。図体ばっかデカくなりやがって、お頭の方が体に見合ってないんだよ大馬鹿野郎ッ」
「お前がな、このチビ助!」
「んだとぉッ!」
教室の入り口へ教師や生徒達の注目が集まる中、その前で突然口論を始めた小柄な少年と大柄な男。
しかし、
「やめろ貴様等」
「は~い」
「も、申し訳ありませんでした……ッ」
後ろに控えていた男の一言で二人は怒鳴り合いをやめた。
代わりに返事を返しつつ、少年と大男は無遠慮に教室内へ入っていく。
背後の男もそれに続く。
傲岸不遜という言葉が自然と頭に浮かぶような一行だった。
加えて、不気味なくらい異質だ。
少年の長い銀髪と鷲のような黄色い瞳が、巨漢の凡そ人とは思えない程がっしりとした体格が。そして、最後に教室へ悠然と入って来た、中肉中背の逆立った黒髪と鋭い目の持ち主が……。
三人全員がフード付きの白い外套に身を包んでいる。
漠然と、途轍もなく嫌な予感がした。少なくとも朝比奈旭はそう感じた。
授業を中断したままの教師もそれを感じ取ったのか、こちらに近付いて来る怪しい三人組に向かって警告を発する。
「な、何ですかあなた達、ここ学校ですよ?関係者以外立ち入り禁止です。今すぐ出ていかないと警察呼び――」
ガンッ!
次の瞬間、そんな音と共に、巨漢に鷲掴みにされた教師の顔面が教卓へ物凄い勢いで叩き付けられた。
数秒の静寂。
パンッ、パンッ、パンッ。長い銀髪の少年によって鳴らされたその鈍い手拍子に、生徒達の意識が少年へ向かう。
「やぁやぁ人間諸君、注目注目。……うん、良く出来ました。いやぁ、ハハッ、ズッコンバッコンと穴に棒突っ込んで、いたずらに繁殖するしか能のない馬鹿共だとか思ってたら大間違い。教育機関って素晴らしいよねぇ、そんな低能な連中もちゃあんと躾がなってる。ちょっと上下関係を分からせてやればこの通り、一気にお口チャックだ。実に良いよ。あぁ、まぁ、たまに頭の悪いサルが混じってるみたいだけどさぁ。それは良いじゃない、良い良い、構わない。それくらい僕が躾けてあげるよ」
少年は机に頭を押さえ付けられた教師を見て言うと、そのうなじに触れた。
「ほらぁ、いつまで寝てるのさ馬鹿ザル。起きろよ」
巨漢の拘束が緩むと、鮮血を口や鼻から垂れ流しながら、声に反応した教師が血の紅色に染まった顔を上げる。おもむろに。
「さてと――それで、どこにいるの?ミウラ・カバネはさぁ」
次話投稿は今日午後5時30分頃となります。
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