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第20話【想焔】を使用しますか?

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「はぁ?どうなって……!」


 後退りながら、目の前で起きている状況に混乱する袈刃音。

 彼の瞳に映っていたのは、絶命させたはずの不死者の姿。

 殺し損ねたのだと思いたい。けれど、そうは思えないのだ。

 相手は不死者だが、完全な意味で不死という訳ではない。プレイヤーが【ギフト】として得た武器で、通常の人間であれば致命傷となる傷を与えると、それだけでゾンビが二度と起き上がる事はなくなる。

 神にとって、あるいは袈刃音達プレイヤーにとって、これはそういう設定のゲーム。今のように、ゾンビの後頭部でも潰せば経験値の代わりに【ポイント】が入って来ると考えていい。


 無論、例外は存在する――【死霊術(ネクロマンシー)】だ。

 藍刃愛羅が所持していたあの能力ならば、この異常事態に説明が付く。

 しかし、有り得ない。


「違う、藍刃さんな訳ない……」


死霊術(ネクロマンシー)】は【ギフト】システムで得られる強力な能力だ。何せ上手くすれば、不死者の軍隊だって作れてしまうのだから。

 その反面、貴重な力であるがために大量の【ポイント】を必要とするはずだ。

 無論、具体的な数値までは分からない。


 とはいえ、ゲームが始まって直ぐのこの時期では、到底集められないはずの量であるのは間違いない。

 だからこそ袈刃音は余計に混乱した。

 何故一度死を迎えた不死者が、己の前で未だに動いているのかと。


「皆家の中に入って。真白さんも」


「えっ?」


「早くッ。あと、俺がいいって言うまで出て来ないよう、あの二人に伝えといてください」


 ゾンビへ視線は固定させたまま、可能な限り簡潔に指示を後ろの真白に飛ばす。

 直後に、袈刃音は自身の近くに黒い長方形の画面を表示させた。そうして、ゾンビの姿を視界に収めながら、画面に映し出された自分に関する情報を瞬時に読み取る。

【ポイント】が前に見た時よりも三百増えている。つまりは、あの老人二人に加えて、今袈刃音の前に立っているゾンビもしっかりと殺せていた。

 やはりこの異常事態は外的要因による物。


 袈刃音はバールを握る手に力を籠め、腰を低くし地面を強く蹴った。

 爆発的な初動を見せた袈刃音が不死者の直ぐ横へと瞬時に迫る。

 直後、空気を巻き込むようにして振るわれたバールが、ゾンビの側面へと捻じ込まれた。


「どうだ?」


 吹き飛び、地面を転がったゾンビの様子を見つつ呟く。

 感触からして骨を数本――恐らく左腕と肋骨を――粉砕した。

 内蔵も幾つか破裂しただろう。

 明らかなオーバーキルだ。

 しかし、


「んなッ……!?」


 再び立ち上がったゾンビが袈刃音に襲い掛かった。砕けた腕も無視し、両腕を乱暴に広げて。

 痛みがどうこうの話ではない。それ以前に、あの腕では動くはずがないのだ。

 ――落ち着けッ。

 心にそう言い聞かせ、襲い来る生ける屍の魔手を回避する。

 袈刃音は眼前の敵から距離を取りつつ、冷静な思考で現状を分析し始めた。


 取っ掛かりとなるのは、やはり今目にした大きな謎。

 一度死んで筋肉が硬直した所為か、元々ゾンビは動きが鈍い。というより、一挙手一投足がぎこちないのだ。

 今この目に映っている不死者のそれも同様だが、どこか違和感がある。そう、違和感だ。

 例えるなら藍刃愛羅に操られていた者達のような、あり得ない動き。


 ショッピングモールで、彼女が使役していた大量のゾンビに追われていた時、袈刃音は何体かに動けなくなるような傷を負わせた。それにも関わらず、奴らは動いたのだ。

 足が折れようが、首が千切れかけようが、【死霊術(ネクロマンシー)】の力が働きゾンビ達は動いたのだと思う。断定こそ出来ないが、この状況も外部から何らかの力が働いている所為で起こっている可能性が高い。

 だから、恐らくだが。

 ――コイツ、もしかしなくても操られてるよな。

 それこそ、藍刃愛羅のような能力の保持者がこの事態の裏にいるのではないか。


「いや、それがどうしたってんだよ……」


 異常事態の正体に仮説が立っても、それだとゾンビを操っている者が見つからなければ意味がない。どこかに隠れているのか分からないが、能力者本人が見つからない今、有効な手段はゾンビの体を跡形もなく消し去るかするくらいだ。

 だが、過去に手に入れた能力の中にそんな物があっただろうか。

【想焔】ならばあるいは……とも思うが。

 ――ちょっと不安か。手榴弾だな。

 少し勿体ない気もするが【ポイント】を使ってそれを投げた方が一瞬だし、何より確実だ。

 幸いというべきか、何度もやり直してきた過去の世界で使用経験は幾らかある。


「申請……」


 袈刃音の思念を受け取ったゲームシステムが、薄く黒い板を少年の近くに顕現させる。

 ただ、敵を警戒しつつも、その漆黒の画面へ意識を向け過ぎたのが不味かった。


「ひっ!?こ、こっち来たッ」


「?――何やってんですか、隠れてください!」


 袈刃音は確かに真白達に外へ出るなとは伝えた。しかし、声や物音を出すなとは言っていなかった。だからだろう、真白が何かの音を発してしまい、それにゾンビが反応して彼女達の元へ鈍い足を運び始めた。

 反応に遅れた袈刃音が苛立ち交じりに叫ぶ。

 ゾンビの中で生きる五感は聴覚だけ。意図せず大きくなった袈刃音の声にゾンビが立ち止まっ――


「ん……?」


 血の気のない皮膚を大量の血で染める不死者のうなじに、袈刃音の視線が集中した。極めて細い何かが、その辺りで光ったのだ。いや、太陽の光を反射したという方が正確か。

 ――針?

 詳細は分からないが、袈刃音にはそれに似た物がゾンビのうなじに刺さっているように見えた。

 まるで糸のように細い。細くて、注意してみなければ見逃してしまいそうで――けれど半分確信した。

 ――アレが原因かよッ……!

 明確な証拠があった訳ではない。ただ、あの針のような物が今起きている異常事態に関する物だと怪しむには十分過ぎた。

 おもむろにこちらへ振り向いたゾンビ男の元に、袈刃音は一気に肉薄する。


「んのッ…!」


 そうして背後に回り込み、ゾンビの首を掴んで地面に顔面を叩き付けた。

 袈刃音は取り押さえたゾンビのうなじに手を伸ばす。しかし、糸のように細い例の針は抜けなかった。

 指で掴もうとして()()()()()のだ。


「はぁ?何で――」


「ヴォガッ、ヴァァァァァアッ!」


 袈刃音に困惑している暇はなかった。

 己の拘束から抜け出そうとして暴れるのだ。

 動いているとはいえ死者に、それも血に塗れた死した他人の体に触れている。挙句、状況が思っていた方へ進展しない事に、苛立ちが、不快感が、袈刃音の中で大きな物となっていく。

 ゾンビを拘束する力を必要以上に強める。面倒だ、いっそのこと【想炎】で燃やしてやろうか。少しだけそう思って。

 ――いや、待て……燃やす?

 袈刃音の脳裏にある考えが過った。そう、燃やせばいい。

 手で触れられないのだ、このゾンビに刺さった針のような何かは。普通の炎ならば不可能かもしれない。

 けれど。


「そうだ、【想焔(この火)】だったら……ッ」


 ゾンビのうなじに右手を(かざ)し、袈刃音は【想焔】の炎をそれへ放った。

 敵の拘束を解き一定の距離を取る。


「すげぇ、燃えてるのに、燃えてない…」


 袈刃音の口からそんな声が漏れる。

【想焔】はただの火ではない。袈刃音の想像した、想像力を糧に燃える火だ。

 故にゾンビの体や周囲の物ではなく、少年の炎は、あの不可解な細い針だけを――彼がそう想像したように――燃やした。


 数秒もしない内に針は高温の光と共に消え、男の不死者はピクリとも動かなくなった。


「えっと、もう、大丈夫だと思います」


 脅威が去ったと判断した袈刃音は、身を隠しているよう指示した真白達のいる玄関へ向かうと言った。

 突然声が聞こえた事に少々驚いた様子の彼女達だったが、その言葉に安堵する。


「あの、袈刃音君、さっきはありが――」


「アイツ等、声とか物音に反応するんです。それと、【ポイント】っていうのを使ったらもらえる武器じゃないと死にません」


「え?」


「ゾンビの特徴です。すみません、心配なんで他にも隠れてないか見て来ます。準備終わったら教えてください」


 真白が何かを言おうとするのを遮って袈刃音は言うと、玄関を去る。

 胸騒ぎがしていた。荒山千華を含め大勢がいたあの場所での異変で生まれ、この兎祁神神社での異変で膨らんだ強烈な不安。

 遊戯神による、策略。その二文字が袈刃音の頭から離れない。

 ――大丈夫だよな?旭……ッ。


 袈刃音は、真白を説得して、朝比奈旭がいるであろう高校へ向かおうと密かに決めたのだった。












文月です。


本日の投稿はここまでとさせて頂きます。

明日も、引き続き連続投稿を行います。


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 《完了》





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