第17話時花と話しますか?
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「さてと、神社に着いたはいいけど……」
袈刃音は周囲を見渡した。
――時花、って子だっけ。あれ、見当たらねぇな…家か?
そういえば、クロノから具体的な待ち合わせ場所を知らされていなかった。というより尋ねる必要がないと思っていた。クロノの話から何となくだが、神社に行けば直ぐに見つかるだろうと楽観的な予想をしていたのが悪かった。
訊いていれば良かったな、と少し後悔した。
「ん?何探してんの」
「あぁ…いや、ちょっと人をな」
「人って、どんな」
「さぁ。小学五年生の女の子、ってアイツは言ってたけど」
「……え、探してる人の事、知らないの?」
隣にいた千華の疑問に答えると、そんな答えが返って来た。
「知らねぇけど、約束があって保護する予定」
「……え、それって」
言いながら後退り、千華は軽く身構えた。
袈刃音は溜め息を付く。何か恐ろしく嫌な勘違いをされた気がする。
説得は止めておこう。
袈刃音が時花との接触を急いでいる理由の一つとして、ゲームが既に始まっているという事実がある。まだ目に見えて状況は悪化していないが、あと一日か二日もすれば、多くの死体が彷徨う地獄絵図がそこかしこで広がっているだろう。
それまでに時花と合流を終えて、済ませておきたい準備がいくつかある。
見ず知らずの人間の説得に時間を割いている暇はないのだ。
もっとも、説明が面倒だ、という理由の方が大きいのだが。
「拝殿……は、まぁ普通に正面にあるけど、家が見当たらねぇな」
言いながら、袈刃音は拝殿の前に立つ。
宮司の住まいがどこにあるのか、少し探す必要があるようだった。
「何、神様に拝まないの?」
拝殿の前で袈刃音が突っ立たままいると、千華が今日何度目かの質問をこちらにしてきた。
「拝む、って……クロノの奴、今忙しいし、ぜってぇ聞いてないだろ。あっ、いや、ここの神ってクロノじゃないのか?」
彼女の言葉に、袈刃音はそう呟いた。
その独り言が聞こえていたのだろう、何を言っているのだコイツは、とでも言いたげな顔を千華がした。
もっとも、袈刃音はそれを知る由もない。何せ、拝殿の奥から唐突に物音がしたのだから。
――ゾンビか?
「え、何!?」と騒ぐ千華は放っておく。
袈刃音はすぐさま拳を胸の前に軽く構えた。
「ん?」
しかし、物音はそれきり聞こえなくなった。
代わりに、小さな少女の顔が、賽銭箱の後ろからひょこっと現れこちらを見つめていた。黒い髪の、恐らく長髪の少女だ。
そして、
「あの……お兄さん、カバネさんですか?」
少女がそんな風に尋ねて来た。
数舜考える。
「もしかして、時花ちゃん?」
「あっ、は、はい。時花は時花です、兎祁神時花です。えと、本物のカバネさんか確認してもいいですか?」
「確認…いいよ」
「じゃあ――時花は何時死にますか?」
時花は若干の警戒を残したまま、賽銭箱の影から出て来ると神妙な面持ちで言った。
これはクロノと時花、袈刃音しか知らない情報だ。確認するにはなるほど、丁度いい質問だろう。
とはいえ、そんな自分にとって酷な情報をわざわざ訊くとは想像しなかった。
「……三日後、夕方に。それを防ぎに来たんだ、クロノに頼まれてな」
「そう、ですか。本当だったんですね、全部。…あの、よろしくお願いします袈刃音さん」
「こっちこそよろしくな」
「はい!……それで、そっちのお姉さんはどなたなのでしょうか?」
初めから気にはなっていたのだろう、時花が千華の方へ視線を移して言う。
そういえば、彼女が千華の存在を知っているはずもなかった。袈刃音は今になってそれに気付いた。
「えっと、このお姉さんは――」
と、説明し始めた矢先。
「あっ、もしかして、クロノ様の言ってた彼女さんだったり」
「は、はぁ!?バッ、私、彼女とかじゃ……!」
時花の早とちりに慌てる千華。
話が拗れてしまった。しかし、これは流石に訂正が必要だろう。
「違うって時花ちゃん、このお姉さんは今知り合ったばっか。千華っていうんだ、荒山千華って」
「へぇ、そうなんですか?こんなに美人さんなのに」
「そうだね時花ちゃん、でも違うんだよ」
「び、美人って……」
「いや、何で今更面食らってんだよ。んだけ可愛きゃ言われ慣れてるだろ」
顔を赤くする千華に対し、袈刃音は呆れたように指摘した。
「でもいいんですか、袈刃音さん。これ浮気になると時花は思います」
「浮気にはならないって、どっかのふざけた神様の所為で、まだ付き合ってもないし」
自分で言いながら現実を思い出す。自分はあくまで過去へ戻って来ただけ。そして、失った物を、奪われた物を取り返す為にやっと動き出した。今は、たったそれだけなのだ。
「……そうでしたね、早とちりしてしまいました。振り出しに戻っただけですもんね」
「うん。じゃ、早めに済ませときたい事もあるし、そろそろ行こっか時花ちゃん」
そう言って、袈刃音は時花に手を差し伸べる。
その手を時花が握ると、未だに顔を林檎色にし思考を硬直させている千華を放って、袈刃音は拝殿から移動を開始する。
もっとも千華は、二人が自分を放置して動き出した事に気付き、小走りでこちらへ着いて来たが。
「あっ、保護者の人もいるんだっけ。どうすっかなぁ」
「わ、忘れてました。袈刃音さんどうしましょう、時花はシロ姉様に何も説明していないのです。その、信じてもらえないと思ったので」
聞けば、時花は袈刃音と合流する為に学校をサボっていたらしい。しかし、叔母がそれを黙っているはずもなく、彼女は学校に行った振りをして拝殿にある賽銭箱の裏で隠れていたのだ。
「えッ、時花ちゃん…だっけ、それってヤバいんじゃない?」
千華が会話に入り込んで来て、思った事を口にした。
「は、はい……」
「だよねぇ…よく分かんないけど、どうすんの袈刃音」
「うーん、そうだな。そういや千華、さっきゾンビ携帯で映してたろ。動画あるよな、それ使お――」
「あれ、時花!?アンタ何やってんのこんなトコで、学校は?」
「「「……ッ!!!」」」
その時、見知らぬ女性の声が時花の名を呼んだのだった。
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