第16話メインクエストを進めますか?
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時間遡行以前の袈刃音の記憶は遊戯神に消されたが、同時に複製もされていた。
二十回繰り返した世界の中、袈刃音が記憶を思い出せたのには、確かな理由が存在する。
遊戯神が保持したコピーの記憶を袈刃音の頭に流し込んだのである。
遊戯神が持つ力は、自らが設定した遊びのルールを世界に強制させる、というもの。
『アンデッド・ゲーム』における人間のゾンビ化などがそのいい例だろう。
そして、それと同様に、袈刃音が経験した膨大な量の記憶の流入も、脳への負担なしに行う事が可能だった。
しかし、その引継ぎの時期は、遊戯神によって意図的にずらされた。
袈刃音の身に起こったのは、ただそれだけの話だった。
とはいえ、
「ルールに縛られてるのは俺等プレイヤーだけ、って訳じゃなかったのは嬉しい誤算……か?」
そう、遊戯神もある程度自らの設定したルールを無視する事は可能だが、ルールーを廃止しない限り基本的にはそれに従った行動しか出来ない。
クロノによれば、以前遊戯神に言われたあの台詞は、袈刃音を更に絶望させる為のハッタリに過ぎなかったのだ。
「にしても――痛ぅッ……。頭痛、まだ治んねぇな」
言いながら、つい十数分程前にしたクロノとの会話を思い出す。
『先程も言うたが、妾は遊戯神とは別の手段で其方に記憶を取り戻させた。時を操ってな。……とはいえ、遊戯神のように、一気に記憶を復元させては無事では済まぬのでな、其方が寝ている間にゆっくりとその作業を行った』
『八年分をたかだか八時間やそこらで……中々に無茶したな、クロノ』
『仕方なかろう、神達の目を盗んで事を進めるには其方の就寝中を狙うしかなかった。妾の力で其方の脳への負荷を和らげながらなぁ。まぁ、しばらくその不調は続く故、それが治るまではあまり激しく動き過ぎるな袈刃音。それとじゃ、後で思い出した記憶を保存しておけ。遊戯神のいう【ぎふと】とやらでな』
袈刃音は眼前に浮かぶ黒い板を見る。
◆―――――――――◇―――――――――◆
【ギフト名:メモリー。プレイヤーである三浦袈刃音が、二十回繰り返した『アンデッド・ゲーム』の世界での記憶を一つに纏めた物。何時でも閲覧可能。なお、このメモリーは、当該プレイヤーが死亡するまで消失する事はない】
◆―――――――――◇―――――――――◆
「……よし、これで準備は一応整ったな――あっ、そういやクロノの奴に、取っとけって言われてたのがもう一個あったな」
袈刃音の願いは、単に時間遡行を果たすだけではなかった。
それまでの経験や知識などの記憶。
【剛力】を含めたあらゆる能力。
最後に、時間遡行実行後にもそれなりに余るよう溜めた【ポイント】。
それらを持ったまま時を超える事を望んだのだ。
無論、記憶の消去と同様に、全てが遊戯神に消された。――その消された全てを、クロノが取り戻してくれた。だからこそ、取り戻した【ポイント】で【メモリー】を取得出来た。
『それなりに余らせた【ポイント】』が、特殊だった前回分を差し引いて十九倍だ。二十一回目の世界ではとんでもない量になっている。
【ギフト】の一つや二つ、取得するなど訳はない。
「で、これで良いんだよな?何だよ【想焔】って……」
想像力によって性質が変化する焔。クロノ曰く、今後袈刃音にとって強力な武器となる力であるらしい。
特に高い【ポイント】を消費せずに取得出来たが、この能力のどこが強力なのか。
それならば、藍刃愛羅の死体を操る異能の方が余程脅威である気がする。
「つーか、【剛力】の効果も二十倍くらいになって、物理攻撃力が馬鹿みたいな数値になってんのに……火ぃ付けるくらいにしか役立たねぇだろ、これ」
武器として入手したバールは、先程の戦闘で乱暴に使い過ぎて使い物にならなくなっていた。出来れば火を出す能力よりも、そちらの方が欲しいのだが。
「…まぁ、今はそれより――行くか」
視線を正面奥へ移す。そこには、兎祁神神社へ続く長い階段があった。
地元の神社だが、久しく行っていない。『アンデッド・ゲーム』で繰り返し行った時間遡行の所為もあり、体感ではもう十年ぶりくらいだ。
「変わってないな、ここも。いや、実際に来るのは一年ぶりだし、当たり前っちゃ当たり前なんだけど……ん?」
――カサカサッ…。
そんな事を考えていると、背後で草か何かが騒めいたような音が聞こえた。
距離にすれば十メートル程離れた場所だろうか。袈刃音が振り向くと、そこに小さく広がる林の中で、少女が木の影に隠れながらこちらを見ていた。
金髪に染めた髪を背中まで伸ばした少女だ。よく見れば、両側面の髪の一部を三つ編みにして、後ろで括っている。
カラーコンタクトでも付けているのだろうか、瞳が赤紫色だ。
不意に、少女と目が合った。
しかし、途端、彼女は驚き、顔を木の影に隠した。そして、ちらりと再び顔を出し、こちらを警戒の眼差しで見る。
「……えっと、何か用?」
「――ッ!?」
「いや、話しかけただけなんだけど…。これ、放っておいていい奴だよな?」
プレイヤーを殺して【ポイント】を獲得しようしているのか、と一瞬考えたが、このゲーム開始直後の時期にそんな人間が現れるなど考えにくい。
そう判断して、袈刃音は神社の階段を登ろうとし、
「ま、待って!」
後ろの少女にそれを止められた。
少女の方を振り向く。すると、未だに警戒の色が強いが、彼女はゆっくりと袈刃音の元へと近づいて来た。
――って、あれ、この子小一時間前にゾンビ共に襲われてた子か。
一瞬だけしか顔を見ていないが、恐らくそうだ。
少女が立ち止まる。そして、数舜躊躇った後、意を決したように口を開いた。
「え、えぇっと!さっきはッ。あ、ありがと。助けて、くれたでしょ?だから、うん、ありがとう」
「は、はぁ……」
「それで、それで……その、私ら襲って来たアレって何?」
本題はそれか、と袈刃音は思った。
あの混乱した状況では、多くの者が袈刃音を異常者の無差別殺人鬼扱いしたのは仕方がなかった。
しかし、彼女は違った。
――結構冷静、だな。
袈刃音は数秒考えた後、少女に向かって喋り始める。
「ゾンビ。あとアンデッドとか。まぁ、呼び方は色々あるけど、アレは動く死体。昨日、夕方に頭に変な声が話しかけて来ただろ」
「えっ、私だけじゃなかったの?じゃあ、あのゲームがどうとかって、本当に……。や、でも、うーん、あり得なくもない?」
半信半疑、といった所か。少女の反応はそんな風だった。
「本当な、ワケ?えっと……」
「三浦袈刃音。そっちは?」
「荒山、千華。千華でいいよ、そっちの方が呼びやすいし」
「そっか、なら俺も袈刃音でいい。…で、話戻すけど――本当だよ、あの神の野郎の話は」
「……」
しかし、それでもまだ荒山千華は袈刃音を疑っていた。
袈刃音が先程ゾンビ達を殺した事実は、彼女の警戒心を煽るのには十分過ぎた。
たとえ頭では、相手が自分の命を救ってくれた人間だと理解していようとも、恐怖するなという方が難しいだろう。
「じゃあ俺、もう行くから」
「え?あっ、ちょッ…」
神やゲームの事はいずれ認めざるを得なくなる。今無理に彼女に言って聞かせる必要はない。
そう思い、袈刃音は千華の制止も聞かずに、兎祁神神社へと続く階段を上り始めた。
上り始めたのだが……。
「ちょっと、ねぇ、何で放って行くワケ!?私との話終わってないでしょ、死体が動くとか意味分かんないだけど。てか何でそんな簡単に受け入れてるの!ねぇ、聞いてるッ?」
荒山千華がこんな調子で着いて来る。
「あぁッもう、しつけぇな!別に俺の話は信じなくていいんだよ、そのうち嫌でも分からせられる事だし。それより、他校のだけどお前制服着てるし、学校あるんじゃねぇのか。行けよ!」
「はぁ!?そっちだって高校生でしょ、学校向かわないで神社行こうとしてる人に言われたくないんだけどッ」
「用事があるんだよ」
「用事って何」
「何でもいいだろ……着いて来るなら勝手にしてくれよ、ちょっと急いでんだ」
一応、時期的には時花という少女の死はまだだ。しかし、万が一、という事もある。袈刃音は可能な限り早く、彼女のいる神社へと向かっていた。
「っと、言ってるうちに着いたな」
眼前、階段を上り切った先に待っていたのは兎祁神神社だった。
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