第14話合流しますか?
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――頭が、妙に痛くて、少しくらくらする。
「起きてからずっとだな、これ……」
左手で軽くこめかみに触れた後、そう言って、袈刃音は家で食べ損なったメロンパンを齧った。
徐々に症状は緩和してきている為、この頭痛と眩暈もしばらくすればおさらば出来そうだ。
とはいえ、それを待っている訳にはいかない。
「ゾンビ増え出す前に、早く兎祁神神社行かねぇと。つっても、見た感じこの辺りはまだ大丈夫そうだな。まっ、ゲームの序盤じゃ当たり前か」
咀嚼したメロンパンを飲み込むと、袈刃音は顔を下へ向け呟く。
彼が今いる場所は、兎祁神神社へ行く途中に立ち寄ったデパートの屋上だ。
そこから見下ろしてみれば、道路を走る多くの車と歩道を歩く人々の姿が、少年の瞳には映っていた。
あまり見ない角度からの何気ない日常風景。
けれど、周囲の様子がよく見える。
「――油断はせぬ方が良いぞ、袈刃音」
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くとそこにいたのは予想した通りクロノだった。
「何だ、来たのかクロノ。てっきり、神社で待ってると思ってた」
「神社にはいた。時花の様子も見ておきたかったしなぁ。じゃが、其方を待っている時間もそこまでない故、妾自らここへ来た」
「そうか。……ん、時花って?」
「宮司の娘の名じゃ、覚えておけ。――時に袈刃音よ、その右手に持っておるのは何じゃ」
「何って、メロンパンだけど……半分食うか?」
言って、袈刃音はメロンパンを手で半分千切り、口を付けていない方をクロノへ渡した。
「ほう、この『めろんぱん』とやら、中々美味であるな。気に入った、誉めて遣わす」
どうやら余程口にあったようで、スーパーで売っている程度の物だというのに、クロノの手にはもうメロンパンが残っていなかった。
「そりゃどうも」と、袈刃音は気のない返事を返す。
「んで、待ってる暇がないってクロノお前、まだしばらく何も起こる気配ねぇだろ。どうした」
「そうでもない。言うたであろう、『油断はせぬ方が良い』と」
「どういう意味だよ?」
「うむ、予見しておった通り、この下らん遊戯を始めた愚か者に――遊戯神に妾達の企みの一部が露見した。恐らくじゃがな。であれば、向こうも何らかの形で行動を起こしてくるかもしれぬ、と考えるのが自然よな。何が起こるか分からぬ故、用心しておくに越したことはない。……それと、余計な事を考えておる暇もないぞ」
「えっ……」
唐突に、クロノがそんな事を言って来た。
「其方、両親に嘘を付き学校とやらには行かず、一人で神社へ向かっていたな。何故じゃ?後になってあれこれ考えるくらいであれば、多少強引にでも、あの朝比奈旭とかいう女子と其方の両親も連れて行けば良かったであろう」
「見て、たのかよ」
「妾は時と空間を司る神、それくらい造作もない。不快であったならば謝る、じゃが、話を終わらせるつもりはない。妾の質問に答えよ」
「……」
袈刃音は俯き、押し黙った。
しかし、そんな彼にクロノは含み笑いを浮かべながらこう告げた。
「では、代わりに答えてやろうか。大方、怖かったのであろう?過去に人を殺し、人であった者を殺した。その事実を告げる事を。そして、その事実を告げられぬ故に、告げずに罪なき者達と過ごす事を――其方は恐れたのであろう?」
「……ッ!」
その言葉に、心臓が一瞬強く鼓動し、袈刃音は呼吸が上手く出来なくなった。
図星だった。怖くなったのだ、袈刃音は。
必要だったとはいえ、藍刃愛羅を殺した。
激しい怒りに任せ、霞雅阿久弥を殺した。
そんな外道に堕ちた上、袈刃音は【ポイント】を得て過去に戻ろうと、何体ものゾンビを何の躊躇もなく殺した。その過程で障害となった人間も幾度となく殺した。
それを両親や旭に知られれば、彼等はどんな顔をするだろう、どんな事を思うのだろう。
もしばれなくても、彼等と共にいるのなら袈刃音は知られたくない過去を抱え続けなければならない。
何時か知られてしまうかもしれないと怯えながら、こんな自分が本当にこの人達といても良いのかと葛藤しながら。
そう思ったら、怖くなって逃げ出して、こうして一人になったのだ。
けれど、
「そんな事、お前に関係ないだろ」
声を詰まらせながら、小さな声で袈刃音はクロノへ反論した。
だが、彼女はその言葉を否定した。
「関係ならばある、無視出来ぬ程度にはな。覚えておるか袈刃音よ、妾は其方に『救いたい人間がいれば救えばよい』と言った。何故か分かるか?」
「それは、その条件じゃないと俺が時花って子を助けないから――」
「違う、あの言葉は其方に約束を守らせる為だけに言った物ではない。そも、其方を妾の計画に巻き込んだ理由の一つは、其方が一番信頼出来ると妾が思ったからじゃ。そして、その其方が救うと決めた存在ならば、ある程度信用しても構わんと考えた。その者等がもし其方について来るというのであれば、時花の味方になるからなぁ」
神妙な面持ちでこちらを見て言ったクロノは、しかし、溜息を付いた。
「まぁ、かような事を幾ら言おうと、其方は考えを変えぬ故大して意味はない。なれば、こう言った方が良さそうじゃの。――袈刃音、其方一度失った者達をまた無様に失いたいのか?」
「なッ……そんな訳、ないだろ!」
朱音達が死んだ時に悲しみに暮れて、旭が死んだ時、絶望して死にたくなった。
だから戻って来た。
戻って来たから、この世界で出来る事をしようと思った。
そう思ったからこそ――
「だからこそ、家族も好いた女子も己から遠ざけたと?あぁ確かに、其方の過去を見たが、あの者等の死は其方が側にいなければなかったものよなぁ。おまけに、共にいるのも辛いと来た」
「……」
「だが、その考えはちと浅はか過ぎるぞ」
クロノは低い声で言った。
「先程も言ったであろう、遊戯神は何を仕掛けて来るか分からぬ。時花の事はまだ知られておらぬ故、妾は多少安心出来る。しかし、其方の弱点は――其方にとって殺されたくない者達が誰なのかは、遊戯神は熟知しておる。狙われる可能性は高いであろうな」
そして、彼女は袈刃音にずいと近づき、言葉を続けた。
「袈刃音よ、これは遊戯の体を成した戦じゃ。無論悩むなとは言わぬ、だが失いたくないのであれば我欲に従え、弱点となる者達は己が元に置いておけ。――でなければ、後悔するのは其方の方じゃぞ?」
言われた後、袈刃音はその語気の強さに押され尻餅を付いた。
「……」
少年の胸に渦巻いていたのは、恐怖。
己の過去を親しい誰かに知られるのとは違う、喪失の恐怖だ。
「何やってんだ、俺……」
パチンッ、と自分の顔を大きく乾いた音が出る程強く、両手で挟むように叩く。
そうだ、三浦袈刃音は、やり直す為にここへ戻って来たのだ。
『アンデッド・ゲーム』をではない、それが始まる前までのあの日々の続きを、何も失わないままやり直す為に戻って来たのだ。
だが、それを成すには――
「ワンミスでゲームオーバー、セーブ機能も残機もない。製作者はPK許してるし、気に入らねぇプレイヤーがいたら妨害する……。忘れてた、このゲーム、クソゲー過ぎるんだった。あぁチックショ、馬鹿かよ俺ッ」
立ち上がりながら、袈刃音は声を押し殺して言った。
自分で自分に腹が立つ。
確かに、いざ過去へ戻って来てみれば平穏そのものだった。だが、このゲームであれだけの辛酸を嘗めて来たというのに、どうしてそれを忘れられるだろうか。
ましてや、もう既にゲームは始まっているのだ。
ならば、迷いがあろうと、わだかまりが心にあろうと、後悔する羽目になるのならそんなモノは二の次だ。
「ふん、分かったのならよい。が、ここからだと神社が近い」
「分かってる、旭達とは後で合流する。だから――」
袈刃音が言葉を続けようとした時だった。
――パリ―ンッ。
「え……?」
背後から、硝子が割れる音が聞こえた。
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