第113話虚無へ向かいますか?
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ドサっ、と足元に何かが転がった。
地べたを這いずり回る訳でもなく、それは無造作に投げ捨てられたまま動く気配がない。
視線を、恐る恐る落とす。
そこに横たわっていたのは、朝比奈旭だった。
「………………は?」
紙に垂らしたインクのように広がっていく血溜まり。
中心に沈む旭の体は、やはりピクリとも動かない。
「死んでるわよ?ソレ。さっき殺したもの」
おもむろにトゥラヌアを見つめた。
見つめて、しかし、それより先の言葉も動きも何一つ出来ない。
それどころか目の前の現実すら袈刃音は受け入れられてはいなかった。
荒い息遣い。妙に強張った体。
時折霞む視界に、「これは夢なのだ」という考えが浮かぶ。
けれど、視線を戻し膝を地につけると、そこには地に伏した幼馴染の姿が確かに見えた。
死んでいる旭の姿が。
「――ッ……」
固く握られていた少年の拳が静かに解かれ、一筋の涙が頬を伝った。
「感謝して欲しいわぁ。貴方にこれを見せるために今の今まで生かしておいてあげたんだから」
戦わなければならない。
それなのに、力が入らない。
「けど、惨めよねぇ。ミウラ・カバネ、貴方が生きてるって言ったらその娘、目を輝かせて……会わせてあげるワケないのに」
立ち上がる気力が湧かない。
声を上げる気力が湧かない。
「けど、何にも知らないまま浮かれててぇ。だから。ウフ、背中から心臓を貫いてやったの♪」
目の前でゲラゲラと嗤うこの神の【守護者】に燃やしていた闘志も殺意も、全て消え去った。
これ以上、戦う意味がどこにある?
恨む理由なら確実にある、体だって動く。
しかし、ここからまだ足掻いたとして、敵を倒せたとしてそれが何になる?
だってもう、袈刃音には守りたいものが――生きる理由が何一つないのに。
焔が灰色の光に転じた。
「ぁあ、やっぱりこの方法にして正解ね。孤立させ、その間に仲間を殺し、生き残った者に貴方を裏切らせて。最後に寝返っちゃったけど――でも、概ね計画通り。絶望、したんでしょ?呆気なく唯一の希望まで斬り捨てられたものね。分かるわぁ。だって、【虚焔】が完成したもの」
袈刃音には、もはやトゥラヌアの言葉など届いていなかった。
全てが燃え尽きたように景色が色褪せ、視界も、思考も霞んで行く。
「ありがとう、抵抗しないでくれるから簡単に奪えるわ。貴方のその焔。――これで、私は神に……フフ、フフフ」
【想焔】が勢いを増しながら少年を包む。
傷付いた肉体も、衰弱し切った魂も、心すら灰へ帰すように。
そして――
「ばーいばい、ミウラ・カバネ」
袈刃音の存在はそこで完全に消失した。
【END2・虚無感】




