第102話イベントを開始します
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聞き覚えのある幼い声が地面から聞こえた。
いや、正確には袈刃音の足元――影からだ。
正面に伸びるそれは、袈刃音の目の前で急激に膨張し始めた。
影が形作っていくのは人の姿、あるいは少年と呼ぶべきか。
「……シャーエイド、ロード!」
「また会えましたね、ミウラ・カバネ。今度はお一人ですか?」
「……お前、よくも」
「何か問題でも?アナタも殺そうとしていた。それに、彼女とは元々そうするお約束でしたから」
「藍刃さんを殺して、お前等に何の得があるってんだよ。響の時もそうだ、俺を殺したいならそれが出来たはずだ。なのに何でだ、何で俺の周りにばっかり手を出す!?」
「他の方についてでしたら、テラに訊く事です。アナタの抱えている彼女にはそうして欲しいと頼まれたのと、ワタシにも都合が良かったからしただけですので」
「どういう意味だ」
袈刃音は眉間に深い皺を作ってシャーエイドロードを睨んだ。
白い衣に身を包んだ神の遣いは、口の端を吊り上げ言った。
「そろそろ分かる頃合いでしょう」
「――ッ、表示システム!?」
極薄の黒いボードが、突如として袈刃音の眼前に出現した。
だが、それに表示されたのは文字の羅列などではなかった。
テレビのチャンネルが切り替わるようにして、ある映像が流れた。
一人の少年が、一人の少女へナイフを突き刺す映像だ。
少年がナイフを突き出した瞬間、画面が切り替わり、直後に見えるのは同じ少年の背中。その腕の中で抱えられた少女が息絶えているらしい様子。
その一場面が終了する度に、同じ映像が再生される。
「これって、さっきの……。何だコレ、これはお前が!」
そうだ、これはシャーエイドロードが愛羅を殺した映像であって犯人は袈刃音ではない。
明らかに悪意ある編集がされている。
だが、少年が憤りの声を上げた瞬間、それを遮るようにして神の遣いは次の行動に転じた。
「どうもこんにちは、プレイヤーの方々。ワタシは神の【守護者】・シャーエイドロードなのです」
「なッ!?」
「今聞こえている音声は、アナタ方にのみ聞こえるようになっているのです。身を潜めている方はそのままいて下さっても大丈夫かと。もっとも、話に気を取られ過ぎて、ふと周りを見るとゾンビに囲まれていたという事になる可能性は十分にあり得ますが」
袈刃音は【想焔】を拳に纏わせ構えようとするが、シャーエイドロードの剣が道路に突き立てられているのを見て直ぐに制止した。
下手に動けば、闇を纏った刃が影を介して襲って来る。
「さて、このゲームもあと少しすれば開始から一週間です。そろそろアナタ方もゲームに慣れて来た頃合いでしょう?そこでです、一つちょっとしたイベントをしようと思うのですよ」
シャーエイドロードが未だ流れ続ける例の映像へ目を向ける。
「今、アナタ方の目の前に映っている少年。見えますか?――彼を殺してください」
「なッ!?」
「標的の名前はミウラ・カバネ、彼はある特殊な方法でゲームのルールから逸脱した卑怯者なのです。彼には退場してもらいますが、このような違反は二度と起きて欲しくありません。ですので、今回は連帯責任として、彼を含めた百人に死んでもらう事にしました」
少年は動けないでいた。
影の刃を恐れてではなく、シャーエイドロードが始めようとしている悪辣なゲームへの怒りでだ。
「やめろ」
「九十九人はワタシの気分で選んで殺すつもりですが、アナタ方も死を回避するチャンスは欲しいですよね?」
「おい、やめろ……」
「ですから、彼を殺してください。そうすれば、その時点で粛清は終わりにしてあげましょう。ご覧のように彼は同級生の少女を残酷に殺す程の極悪人です、出来るだけ惨たらしく殺せば報酬も差し上げます」
「やめろって、言って――「ただ、注意点が一つ」――ッ?」
映像が切り替わり、十の視点から十人の人間が映し出された。
次の瞬間だった。
「制限時間は十日ですが、一日ごとに十人が殺されます。このようにね」
眼前の画面で、影の刃に突き刺され息絶えた十人。
袈刃音は言葉を怒りに奪われ、殺意の宿った目でシャーエイドロードを睨んだ。
「残り八十九人。それでは、ゲーム開始なのです」
今になってようやく気付いた自分が情けなくて仕方がない。
奴等【守護者】の狙いは、初めからこれだったのだ。
静寂の中、敵の声が聞こえた。
「さて、ミウラ・カバネ。今の映像は全プレイヤーが見ています。当然、アナタのお仲間も。これでアナタに味方する者は誰もいなくなった。それどころか、今はこのゲームフィールドの人間全員がアナタの敵なのです。どうしますか?」
「……響は?」
「さぁ、既にこの世にいないかと」
「だったら、お前を殺して終わりだ」
「生憎とそれは難しいのですよ。影を渡って移動出来るワタシに、容易に攻撃を当てられると思わない事です」
拳が奴の息の根を止めたがった。
しかし、袈刃音に残っていた冷静な思考が、今は無理だとそれを寸前の所で引き留める。
「くッ……」
自分でも分かっていた。
奴を倒すには力が足りない。
準備も足りない。
何より、時間が圧倒的に足りないのだと。
――そろそろ、転移のタイムリミットが……。
一時撤退の文字が脳裏にちらつく。
だが、それで一体何をする、何が出来る?
そもそも自分に戻る場所など、まだあるのだろうか。
袈刃音にはもう判断が付かなくなっていた。
「チク、ショウ……!」
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