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プロローグ

 高校2年二学期期末テストは昨日で終わり、僕は放課後、自習室で大学入試に向け勉強している一人の同級生に思いの丈を伝えようと近づいた。

 彼女は、山口遥。

 僕と同じクラスの女子で、可愛い系の少し美人といった感じ。それだけじゃない。自分の目標に向け頑張る芯の強さが魅力的なんだ。

 僕については、一言で言って至って普通。

 他と比べて変わらない普通。

 釣り合わないかもしれないけど、付き合って欲しい。

 「遥さん、期末も終わったのにまだ勉強しているの。」

 反応はない。

 「勉強熱心だね。ちょっといいかな。」

 全く無反応。僕は、彼女の席の前に立ち再度、声を掛けようとした。

 「うっざー。」

 彼女が小さく呟いた。

 「えっ?」

 僕は、口を半開きにして惚けた感じで言葉が漏れた。

 「うっざー、うっざー、うっざーい!」

 「私の前をうろつくな。あんた、うざい。」

 「今、勉強しているのが見えないの。」

 「キモいし、うざいし。あんたあっちにいけ。」

 僕を見ず、ペンを持った右手で、「シッ、シッ」と追い払う仕草をした。

 そして僕の10人連続の失恋記録が更新された。

 酷い、辛い。なんで僕は駄目なのかな?

 僕には、決してあんな扱いを受けていい覚えは、これっぽっちもないのに。

 幼稚園のとき香奈ちゃんと一緒にお絵描きをしていて、僕が香奈ちゃんに「すきっ」と笑顔で言ったら、「嫌い、キモ」って言われた。

 子供なりに、すごく傷ついた。

 それからは、好きになった女の子に告白したが、全てのセリフが同じ「嫌い、キモ」って。

 あんまりにも酷いと思う。

 僕のハートは、傷つきまくっている。

 だけど好きになると告白しないといけない熱い思いが僕の背中を押してくる。

 だからと言って僕に友達がいない訳ではない。

 どちらかというと多い方だと思う。

 顔も運動も成績も普通、中の中が僕の自己評価だ。

 帰り道、僕は打ち拉がれ、赤信号に気付かず道路に飛び出してしまった。

 通行量の多い時間帯の国道。

 トラックに跳ねられしまった。

 薄れていく意識、僕は、『あっ、死んだ。』と呟やき死を覚悟した。


 無機質な電子音が脳内に流れてきた。

 『自己防護障壁作動』

 『衝撃を99.9999パーセント遮断成功』

 『これより第二撃に備え自己防護膜を展開』

 『衝撃を99.9993パーセント遮断』

 『想定より0.0006パーセントのダメージ増』

 『顔面表皮、右手甲に擦過傷』

 『自己修復開始』

 『自己修復終了』

 人は、死ぬ直前、自分の人生を走馬灯のように振り返ると言うが、『これは何?』って思った途端、僕の意思は完全に途絶えた。


 僕は、いつもと違う違和感を感じながら目を覚ました。

 柔らかい風が半分開いた窓から入っている。外はよく手入れされた樹々に囲まれていて小鳥達の鳴き声が聞こえてくる。

 僕は、ベッドに寝かされいて、腕には点滴の針が刺さっている。個室なのか僕以外誰もいないようだ。病室は一人部屋にしては広く感じられ、綺麗な花が飾られている。

 『僕は、死んだんじゃないの?』

 『じゃここはどこ?』

 はっきりとトラックに轢かれたことは覚えていた。

 あれで無事なはずはない。

 どこも痛くない。

 これは夢?だけどここは自分の部屋じゃない。

 僕の思考は混乱に落ち入りかけていた。


 無機質な電子音が流れてきた。

 『精神異常耐性発動』

 『精神正常化終了』

 気持ちが落ち着いてきた。と同時にこの声何?疑問が生まれた。

 『僕、壊れたのか?』

 『でも誰にも相談できない。』

 『別な意味で病院に入れられる。』

 そんな事を考えていた。


 すると足先のカーテンが開き、おばちゃんの看護士さんと目が合った。

 「意識戻ったの?」

 僕は、うなずく。

 「大丈夫?」

 また、僕はうなずく。

 声が出ないのではなく、ただ単に返事が返せなかった。

 「先生を呼んでくるから。」

 そう言うとカーテンを閉め、足早に出て行く足音が聞こえた。

 しばらくすると若い女医さんがやって来た。

 「目が覚めた?」

 「どこか痛いところはない?」

 心配そうに尋ねてきた。どことなく頼り無いお医者さんだなとは思った。

 「大丈夫です。ここはどこですか?」

 「僕は、死んでないの?」

 そう小さな声で返す。

 「よかったね。目が覚めたんだね。どこか痛いところはない。」

 安心した様子で僕の様子を診ている。

 「先生、少し頭がボーッとしてるけど、痛くはない。だけど僕は、本当に死んでないの。恥ずかしいけど女の子に振られて、落ち込んで、道路に飛び出してしまってトラックにはねられたはず。どこも悪いとこないんだけど。」

 「まだ意識混濁しているね。君がこの病院に搬送されたのは、魔力大爆破事件に巻き込まれたから。回復呪文で治療されたけど意識が戻らなくて、今日で1か月眠り続けてたの。それに君はとてもモテるのよ。この1か月間、色んな女の子が見舞いに来てるのよ。その君が振られるなんて考えられないな。」

 お医者さんは、心配そうに僕の事を見ている。

 「さっき家には連絡を入れたから安静に寝ていなさい。」

 そう言って病室を出て行った。

 僕は、このお医者さん大丈夫なの?何言っているの?そう混乱した。

 また無機質な電子音が流れてきた。

 『精神異常耐性発動』

 『精神正常化終了』

 僕は気分が落ち着いてきたのに気付いた。

 しかし新たな疑問が生まれた。

 僕は本当に大丈夫なの?

 これはまだ夢に違いない。

 また寝よう。

 おやすみなさい。

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