ももたろう~異世界転生って、ここ昔話じゃん~
俺は梅野木凛太朗。いずれは日本いや世界を制する男だ。妄想するのは少年の特権だ。何も恥ずべきことではない。異世界チート小説を片手にいずれ俺もと夢を見る中学三年生だ。
今夜も愛読書「異世界世紀末伝説物語」を読みふけりながら、寝て・・・いや、闇落ちしてしまった。
目覚めると、そこは異世界だった。ただし想定外だったのは、古風な日本建築物。目の前には、じじいとばばあが驚いていた。
一章ももたろうなんなのさ
「あんれまあ、ばあさん。桃太郎があっちゅう間に大きくなったでよ」
「ほんにじいさん。さっきまで、赤ん坊だった桃太郎が」
「ようけ、食べよったもんな」
「んだ、んだ」
「誰が桃太郎だ!」
凛太朗は思わず叫んだ。
「おまえに決まっとろう」
おじいさんは言った。
「俺は凛太朗だ」
「あんたは、桃太郎でよ」
おばあさんは言った。
「だから、俺は中学生で、寝落ちしたら想定外の異世界に来てしまった。梅野木凛太朗だ」
「なに言っとるだ」
おじいさんは、顔を真っ赤にして怒っている。
「んだ、んだ」
おばあさんも激しく激昂している。
「・・・・・・ぼくは・・・ももたろうです」
凛太朗は完全にヘタレて、自らを桃太郎と認めて名乗った。
「それでこそ、我が桃太郎!」
おじいさんは凛太朗の背中を青あざがつくぐらい、思いっきり叩いた。
「あいたっ!」
「それでこそ、我が孫」
おばあさんも凛太朗の背を叩く。
「ぐはっ」
おじいさんより強烈な一撃、凛太朗は不覚にも気を失ってしまった。
朝になると、家には誰もいなかった。
凛太朗はすぐに察しがついた。昔話通りとするならば、どうせ、じじいは山へ芝刈りに、ばばあは川に洗濯でも行ったんだろうと納得した。
部屋をきょろきょろ見渡す。
すると、ある一か所に時空の亀裂で渦生じていて、その先に現代風のコンセントがあった。これはと凛太朗は素早くスマホを取り出すと充電器をつなぎ、そこへ差し込む。充電が開始される。凛太朗は満面の笑みを浮かべた。
凛太朗のエンジョイスマホライフがはじまった。おそらく現世とは隔絶した別世界。課金などいうものは存在しないだろう。凛太朗は容易にそれに気づいた。まずは「星のドラゴンクエスト」でひたすら課金、課金また課金で全国一位を狙う。
「ぐふふふ」
凛太朗は気色の悪い笑みを浮かべて、一心不乱にガチャっていた。
「ただいま」
おじいさんが帰ってきても、
「ただいま」
おばあさんが帰ってきても、
与えられた食事を食べる以外は、兎にも角にもスマホと睨めっこだった。
そんな毎日夏休み状態のある日・・・。
数々の課金ゲ―をこなし、禁断の「日替わり側室」に手をだそうかと、凛太朗が迷っていると、
「おい、桃太郎!」
おじいさんの呼ぶ声がした。
「へーい」
凛太朗は気のない返事をした。
「はー」
おじいさんの深い溜息が凛太朗の耳にも届いた。
「ちょっと、こちらにお座り」
おばあさんが、凛太朗の袖を引っ張る。彼はそれを払いのけようとするが、おばあさんが一方の手が空いてる右手で拳を固めて振りかざそうとしたので、肩をすくめて従う。
「お前、何をやっとんじゃ」
おじいさんが問いかける。
「これ?いいっしょ、スマホ。ゲームしてんの」
「すまほ?そんな名前、聞いたことないのう」
おばあさんは首を傾げる。
「そう、現代社会の必需品」
「ほう、その必需品でお前は何しとるんじゃ」
「だから、ゲームでブイブイいわしているわけ」
「なんか、それ生産性はあるのかのう」
「んなもん、ある訳ないじゃん。ただの自己満だよ自己満」
「はっ?」
おじいさんは、もはや怒髪天寸前だ。
「頼むから、昔のやさしい桃太郎に戻っておくれ」
おばあさんの懇願。
「は?知らんし、俺、凛太朗だし・・・」
「おんしは、桃太郎じゃい!」
おじいさんの怒りの鉄拳が、凛太朗の頬へヒットした。
「そ、そうでじだ・・・」
「桃太郎、お前!明日から村の寺小屋に行くんじゃ!」
「・・・なんで」
「家でぐうたらして、なんの役にも立つとらん」
「そんな非生産な村民はおらん」
ばあさんは、凛太朗の首根っこを掴み、頬を一閃、バシッ乾いた音が部屋に響く。
「よいか、桃太郎、目を覚ませ。今こそ覚醒じゃ」
「はあ」
凛太朗は伏し目がちに首をすくめた。
翌日から村の寺小屋へと行くこととなった凛太朗。小脇にはおばあさんがこしらえてくれたおにぎりと、おやつにマストアイテムきびだんごが入った袋、ジーパンの尻ボッケにはスマホが入っている。
道中、腹掛けに金の文字、まさかりを担いだ筋骨隆々の男と出会った。言わずがものがなである。
「おめえが桃太郎か」
「ああ」
「なぁ、オラと相撲とれ」
「なんで?」
「なんでって、勝負だよ、勝負!」
「わけわかめ」
凛太朗はそそくさと先へと進む。
「おい、勝負だ。桃太郎」
「俺は凛太朗だ!」
「りんたろー?なんて名だ!オラ、ワクワクすっぞ!」
「・・・・・・どっかで聞いたな、ソレ」
凛太朗は完全無視を決め込んだ。
寺小屋に入ると、そこは日本昔話状態だった。かぐや姫に浦島太郎、一寸法師に鉢かづき姫、力太郎。ビジュアルでも性格でもそれとすぐわかる。
まぁ、金太郎は置いといて、かぐやはすでにいけ好かない感じだ。セレブ感丸出しで、周りの生徒をさげずんだ目で見ている。しかし、凛太朗には「桃太郎」という一級ブランドの名もあってか、しつこく言い寄ってくる。
「わらわと添い遂げてたもれ」
「いや」
というやりとりが、毎日行われた。
浦島太郎は基本いい奴なのだが、自分の気持ちに素直というか直情すぎて、どうも苦手だ。一寸法師は小さくてよく見えない。耳をすませば聞こえてくる無視の声。
鉢かづき姫は、極度の対人恐怖症なのか、鉢を顔面隠れるまでかぶり、いつもキョドっている。時々悦に入って、デへへなど声が聞こえてくる。
力太郎はまあ、その匂いがキツイ。
そんな一癖も二癖もあるレジェンド達と凛太朗は寺小屋ライフを過ごすこととなる。
毎日の寺小屋と家での廃人ばりのスマホゲーム没頭を繰り返す毎日。
そして、あっという間に時は過ぎ、凛太朗は寺小屋を卒業。悠々自適の廃人ライフを満喫していた。
そんなイージーモードなエブリデイなある日。鬼の形相をしたおじいさんとおばあさんが目の前にいた。
「桃太郎!!いい加減にせんか!」
おじいさんのいきなりの平手、
「目を覚ましておくれ」
おばあさんの怒涛のナックルパート。
「ぐふっ」
凛太朗の意識は薄れかけた。
「お前のような奴は勘当だ!」
おじいさんの延髄切りから、おばあさんの卍固め、
「頼むから、鬼退治しておくれ鬼ヶ島にいっとくれ」
おばあさんの懇願するような声、凛太朗は消えかかる意識の中で、二人の頭に角が生えているように見えた。
おじいさんとおばあさんに離縁を言い渡された凛太朗、彼の命運や如何に。
二章鬼ヶ島に行かないといけませんか?
凛太朗は目を覚ました。瀕死の重傷でうなされること四日目、おばあさんが投げ捨てた、きび団子入りの袋から、団子で飢えをしのぎ、ようやく立ち上がれるまで、身体が回復した。
「こういう世界って、だいたい俺チートだろ」
凛太朗は呟き、思案を巡らす。この世界のクリア条件は、間違いなく鬼ヶ島で鬼退治をすること。彼は幾度となく脇道に逸れようとした日々(自身の欲望の為でもあるが)を思い出す。どうあがいても、この強制使用は変わりがないという結論にたどりついた。だけど・・。
(犬、猿、雉で鬼退治なんて正気の沙汰じゃない)そう思うのだ。
胡坐をかく、
「とりあえず、鬼ヶ島を目指せということか」
何をしたら・・・。
「修行か・・・やっぱり王道だな」
凛太朗はすくっと立ち上がり、身構えた。
(それから・・・)
拳を放つ。
(きた、きた!)
凛太朗は集中が極限まで高まるのを感じた。すると、走馬灯のように時間が巡る。
(異世界ならではってやつか、都合のいい世界だぜ)
そして、あっという間に半年の歳月が過ぎた。
(そろそろ、頃合いか)
おじいさんおばあさんが住む家へと向かった。
「じいさん、ばあさん、俺、鬼退治に行くよ」
家に着くと開口一番告げた。フラグを立てたのである。
「よう言うた。桃太郎!」
「それでこそ、桃太郎!」
それから、おじいさんとおばあさんが用意した羽織袴に鉢巻き、日本刀に日本一の旗、それから御腰のきび団子。桃太郎のフル装備となった。
「なにがあっても」
「本懐を遂げなさい」
と、おじいさんとおばあさんは温かく送り出してくれた。
「ちょっと、その前にスマホの充電を」
凛太朗は異空間のコンセントに充電器をつなごうとしたが、
「早よ。行け!」
「ぐふっ!」
おじいさんの激しい掌底により、凛太朗は送り出された。
軽い脳震盪から立ち直ると、ほこりを払い凛太朗は溜息をついた。
フラグを立てたものの、これからどう行動をしていけば、とりあえず三ペットはゲットしなくてはならないが、それだけでは心許ない。強力な援軍だ。思いつくのは、寺小屋の○○太郎達。銃火器などの現代兵器を備えれば、勝機は揺るがないだろうが、この世界のルールが許さないだろう。彼は思案を巡らす。
「とりあえず、スカウトするか」
凛太朗は、金太郎の元へと赴いた。
「オッス、凛太朗、相撲する気になったか、オラ、ワクワク・・・」
「相撲はしない」
「いげずう」
「単刀直入に言う仲間になってくれ」
「オラがか?」
「ああ」
金太郎はまさかりをその場に置くと、凛太朗に顔を近づける。
「で、いくらくれる?」
「きび団子で・・・」
「おめぇ、ブッ殺すぞ!」
金太郎は捨て台詞を吐いてその場をあとにした。意外にも熱血漢と思っていた男が、こうも金にうるさいとは、凛太朗はこの世界の無常を嘆いた。
次は浦島太郎である。彼は亀を助けるほどのお人好し、泣き落とせば容易に仲間になると踏んでいた。が、
「どうした桃太郎?」
「鬼退治に行くこととなった。どうか、仲間になってくれ」
「何故」
「なぜって?」
「お前は、鬼の気持ちを考えたことがあるのか?鬼にも家庭や生活があるんだぞ。お前はそれを奪おうというのか!」
「いや、鬼って悪いから」
「誰が決めた!お前か」
「いや、世間一般に・・・」
「大衆に流されるな。お前は見たのか」
「そう言われると」
凛太朗は舌鋒鋭い浦島に辟易した。
凛太朗は、力太郎の家へ向かった。しかしながら、真夏の暑い時期、蒸しかえる暑さで、異臭が増幅され、彼の家には近づけなかった。一歩でも足を進めたら確実にデス。
仕方なく、一寸法師の元へ。だが、小さすぎて発見出来なかった。
鉢かづき姫の所も行ってみたが、もとより鉢をかぶっているので、視界が悪く、あの性格なのでコミュニケーションもままならない。断念した。
それからかぐや姫の屋敷へ。凛太朗は思い出していた。確かあいつ月の姫だったなと。月の世界の軍隊が手に入ったらもう勝確じゃんと。そしてあいつは俺に気がある事はなったと確信した。が、
「それは無理な話じゃ」
「なんで」
「それは、そなたの案件じゃろ」
「そう言わず」
「竹取物語の話では月の使者の登場は、これより三年後となっておる」
「そこを」
「無理じゃ。月との連絡手段をわれは知らぬ」
「そうか・・・」
「じゃが・・・」
「何か手があるのか」
「桃太郎の物語通り進めれば、良いのではないか」
「ん?その通りじゃ心許ないんだよ」
「話通りに進めるが、一番と思うが・・・話は終いじゃ、早く鬼退治してわれを迎えに来てたも」
「誰が!」
「武運を祈るぞ。桃太郎」
凛太朗の算段はもろくも崩れ去ってしまった。
「そう甘くないか」
凛太朗は、スマホから地図アプリ「ナビタイプ」をクリックし、鬼ヶ島を検索する。すると、ナビは普通に場所を示し開始された。
「なんでも、アリってことか。電池が半分なのは気になるけど」
彼は鬼ヶ島へと歩きだした。
ほどなく歩くと、犬がやはり来た。
「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰のものはなんですか?」
「何故、俺の名を知っている?」
「それは、ねぇ言わない約束でしょ」
「何故、犬が喋れる」
「それもねぇ」
「何故、きび団子一つで命を投げだせる」
「そういう話だから、まあ、しょうがないし」
「分かった」
凛太朗は恐縮しながら、犬にきび団子を一つ差し出す。
「ありがとうございます。私を家来にしてください」
柴犬のポチが仲間となった。
それから、当然、猿がやって来た。
「モモタロウサン、モモタロウサン、オコシノモノハナンデスカ?」
「何で片言って、チンパンジーじゃん」
「ノー!ニホンザルョ!」
「パン君だよね」
「ノー、カドリードミニオン。マイネームイズタロウインニッコウ」
「はあ」
「プリーズ、キビボールライス」
「分かった。分かった」
自称日本猿のチンパンジー太郎が家来となった。
確定事項として、雉がやって来た。
「桃太郎さん、桃太郎さん・・・」
「ああ、きび団子ね」
雉に団子を差し出す凛太朗。
「察しがいいですね」
「フラグ立っちゃってるからね」
雉の仁鶴が家来になった。
三匹の家来、犬と猿と雉を連れていざ、鬼ヶ島へ。
三章決戦!
なんやかんやで凛太朗達は鬼ヶ島を眼前にしていた。しかしながら広がるは大海。
港で地元の漁師と交渉して船を出してもらった。
船から降りしばらく歩くと、砦の大きな門が建っていた。その左右に見慣れた影。
「待っていたぞ。桃太郎!」
「さもありなん」
「じいさん、ばあさん・・・」
戸惑う凛太朗。
おじいさんは一鹿角、おばあさんは二本角を生やして、目がイッてるようにらんらんとしていた。
「なんで・・・」
「この時を持っておった」
「そうじゃ」
二人の爺と婆は鬼の門番となっていた。
「なんで・・・」
「なんでじゃと!お主を怒るあまり、ワシらは鬼となったんじゃあ!」
「そうじゃあ!」
凛太朗は鞘からすらりと日本刀を抜くと、腰の位置に両手で身構え、後退りする。
「この鬼の呪い、お前さんを倒すことでしかとけんそうな」
おばあさんは口惜しそうに呟いた。
「だから、死にさらせい!」
おじいさんは棍棒を肩に担ぐと、猪突猛進に凛太朗へと向かってくる。
雉が翼を広げ羽ばたく、高く上空に舞い上がると、両足の爪をたておじいさんの両眼をつぶす。
「目が、目が~」
続いて猿が駆けだす、鬼のパンツを着て上半身裸の無防備なおじいさんのお腹に、
「シャオッ!」
爪をつきたて腹をひっかいた。
「なんと!」
苦痛に顔を歪めるおじいさん。
犬がこの機を逃がさず。おじいさんの左足に噛みついた。
「だにぃぃぃぃ!」
三匹の活躍に乗せられ、思わず凛太朗はおじいさんに一閃、
「奥義、桜花剣RUN!」
「ぐはっ・・・見事だ。もも・・・いやホントは凛太・・・ろ・・・」
おじいさんは絶命した。
「じいさん!」
おばあさんは、おじいさんの亡骸をかかえると、キッと凛太朗を睨む。
「この恩知らずが!必ずじいさんの仇うってやるうううう」
おばあさんは暗闇へと消えていった。
「おばあさん・・・」
消えた闇の方をいつまでも凛太朗は見つめていた。
そんなこんなの困難をくぐりぬけ、凛太朗たちはついに鬼王の元へたどりついた。
王を前にして凛太朗は刀をその場に置いた。丸腰である。
「桃太郎さん」
犬。
「モモタロウ・・・」
猿。
「ももたろう・・・」
雉。
「モモタロウサン、イケナイヨ、アブナイヨ」
「太郎。桃太郎は漢の決着をつけに行くんだよ。拳と拳のな」
「シャラップ!ソンナノダメネ。ポチ、ゴーホーム」
「あぁん」
「シット!ファックユー!」
犬猿の仲がはじまる。
雉はこういう時は戦力外なので、二匹と二人の成り行きを見守る。
そんな三匹をよそに凛太朗は両手を広げ、無抵抗をアピール、ゆっくりと王の玉座へと向かう。
「何の真似だ」
王は大剣を凛太朗の喉元へ突きつけた。
「俺の話を聞いてくれ」
「ふざけるな!」
「気持ちは分かる・・・が、降参してくれないか」
「何を言う!」
「いや、鬼王の負けは確ってるんでね」
「ぬかすな」
「まあ、これを見てくれ」
凛太朗はスマホを取り出し、YouTubeをクリックし「日本昔話ももたろう」で検索。ヒット、再生ボタンを押し、王に見せた。
物語を食い入るように見る王、十分後そして嘆息した。
「!!!馬鹿な・・・こんなことが」
「もう、運命は決まっているんだ」
「バカな、運命なぞ変えられる」
「果たしてそうかな。確定した未来は変えられない」
「ぬう!」
王は自らの右腿を拳で何度も殴った。凛太朗はそっと彼の耳元に近づき、そしてささやく。
「ここらで手を打たないか」
「・・・くっ!」
「あなたがうんと言えば、まだ多くの人や鬼が救われるんだ」
「・・・・・・」
「ここが英断の時・・・」
「・・・くぬぬぬ、是非もなし」
凛太朗の顔が喜色へと歪んだ瞬間、
「ごはっっっっ!」
王の胸を槍が貫いた。
「この軟弱モンがー!」
おばあさんだった。憤怒の形相を浮かべた彼女の身体は通常の三倍の大きさででかくなっていた。
「そんな、でかいばあさんがいるか」
凛太朗は玉座から離れると、素早く置いた刀をとる。奥義を発動させるべく身構えた。
「チェストォォォ!」
おばあさんは王の腹から槍を抜き取ると、凛太朗に飛びかかった。
「黄桃転生」
究極奥義の発動により、凛太朗の身体の残像が幾重にも浮かびあがる。
「た、太郎が何重にも見えるっ」
凛太朗は目を閉じ、おばあさんに手を合わせた。
「なっ、何を勝ったつもりで!」
おばあさんは無数の槍を繰り出す。しかし、凛太朗にはかすりもしない。
目を見開く。
「桃乱舞散華」
幾千の閃光が煌めき、おばあさんの身体を斬りつける。
「ぐはっっっ、じいさん、もうすぐいく・・・よ」
おばあさんは、その場に倒れた。目には涙を浮かべながら。
「むなしい戦いだった」
凛太朗は呟いた。
こうして、鬼をこらしめた桃太郎はたくさんのお土産を持って、おじいさん、おばあさんの待つ村へと帰っていった。
「じいさん、ばあさん」
そこには死んだはずのおじいさん、おばあさんが手を振って、彼を迎えていた。
(いやー、ずいぶん都合のいい世界だな)
凛太朗はこの世界にまんざらでもないようだった。
完