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ぼくらのヒーローと怪獣と僕

作者: ナヅナ

僕はヒーローに会いたい。

ぼくらの住む国には怪獣が出現する。それも割と頻繁に、大体一日に一回はどこかで出現しているんじゃ無いだろうか。ってくらいにはよく怪獣が出現する。

でも町に被害が及ぶことなんて決して無い。なぜならぼくらの国には正義の味方が、ヒーローが実在して町を守ってくれているからである。

みんなみんな正義の味方に夢中だった。もちろん中にはヒーローを悪く言う人たちもいただろうけど僕の周りにはいなかったしそんな人がいるなんて考えもしなかった。

みんなヒーローに夢中だった。初めて怪獣が出現した町は今じゃ観光名所だし、教科書にも載っていて授業で教わった。怪獣の出た町は、かわいそうにって目じゃなく羨ましいって目で見られている。僕の住んでいる町には怪獣が出たことはなかった。だから僕も周りのみんなと同じで怪獣が出ることを心待ちにしていた。あの日、あの子に出会い、ヒーローと出会うまでは…。


「あーあ、早くこの町にも怪獣が現れればいいのに」

「ねー」

帰り道いつものように友達のゆうちゃんを話をしながら帰る。今日は3時間授業だったからお昼からどこかで遊ぼうっと。



「いってきまーす」

「暗くなる前に帰るのよー」

ママの声を背中で聞いて家を飛び出す。僕んちの近所にそこそこの大きさの森があってそこに友達とひみつ基地をつくったんだ。ひみつ基地で待ってたら誰か来るだろうし先に1人で遊んでいようっと。


緊急事態。

ひみつ基地に知らないやつがいる。たぶん女の子だ、だってスカートみたいなのはいてるもの。同い年くらいだろうな。どうしよう。声をかけてみようか?でもおっかないやつだといやだしなぁ。なんて考えていると後ろから声をかけられた。

『何してるの?』

ハッとした。気がついたら目の前にさっきの女の子が不思議そうな顔をして立っているんだもの。にしてもすごくきれいな声だった。透き通っていて、なんと言うか、直接頭の中から声がしているみたいだった。

「…えっとキミだれ?」

ビックリしたままだったから思ったことをとりあえずで口に出してしまった。でもその子は両手を口元に当ててフフフっと笑って言った。

『好きに呼んで?』

「…う、うん。ところでそこは僕と友達のひみつ基地なんだけど…何やってたの?」

するとその子は一瞬きょとんとして、

『そうなのかぁ。こんなトコにこんなのがあったから気になってみていたの』

なんて気の抜けた感じに返してきた。

「そ、そうなんだ…」

それから僕はその女の子と色々な話をした。この森の話。小学校の話。気が付いたらほとんど僕が話してばっかだったな。だってあの子聞き上手なんだもん。

「…そろそろ帰らなきゃ!」

「そうなの?」

気が付いたら空は夕暮れに染まっていた。今から歩いて帰ったら暗くなってから家に着いちゃう。そんなことしたらママにスゴク怒られる。サァーっと血の気が引いていく。

「僕今日はもう帰るね!」

「?うん、また…あした?」


「ただいまぁー!」

「おかえり。遠くまで行ってたの?」

普通に迎え入れてくれた。ママまだおこってないみたいだ。良かった。

「ひみつ基地の中で遊んでたら時間忘れてて…。ごめんなさい」

「次から気をつけなさいよ?怪獣がいつ出るかも分からないんだからね。」

「はぁーい。」

ママの話は正直あんまり頭に入ってなかった。でも僕を思って言ってくれていることは分かる。きをつけなきゃな。でも今は、そんなことより明日は土曜日だ。また明日もひみつ基地であの子と会えるといいな。


「あ!」

『こんにちは!また会えてうれしい!』

ひみつ基地に来たらあの子は僕を待っていてくれた。それで僕を見るなり抱きついで来た。

『今日はなにをするの?わたしお話したい。』

目を輝かせて僕にズイズイと詰め寄ってくる。そういえばなんて呼ぼう?この子のこと。

「わかった。じゃあ何の話をする?」

『じゃあキミの好きなものを教えて!』

僕の好きなもの?そんなのやっぱり決まってるよ!

「正義のヒーロー!」

『ヒーロー?』

あれ?知らないのかな?ヒーローを知らない人なんているんだ。初めて会った。

「知らないの?ヒーローって言うのはね。怪獣が現れたときにかけつけて来て怪獣をやっつけて僕らを守ってくれる人なんだよ!あした写真見せてあげる!」

『……。』

あれ?なんだか面白くなさそう?

『怪獣さんは何もしてなくてもやっつけられちゃうの?』

「?何もしない怪獣なんていないからヒーローは怪獣をやっつけるんだとおもうよ?」

『…そっか。』

小さく微笑んでいつもの笑顔に戻った。怪獣の心配をするなんて優しいんだなぁ。きっと、ううん、絶対にいい子だ。この子。


それから僕らはかけっこしたりお話したりして過ごした。


「ただいまー!」

「おかえり。」

「ママー!新しい友達が出来たんだ!」

「そう、なんて名前の子?」

「教えてくれないからわかんない」

ママは困ったような顔をして

「えぇ…?どんな子なの?」

「女の子!ひみつ基地であったんだけどね!知らない子だったけど話したら仲良しになった!」

「そうなの。じゃあ名無しのナナちゃんね?大事にしなさい?」

ナナちゃんっていいな。僕もそう呼ぼうっと。

「うん。ところで正義のヒーローの写真ってあしたもって行っていい?」

「いいけど、どうして?」

「その子ヒーロー見たこと無いんだってだから明日見せてあげるって約束したの。」

「へぇ。珍しいね。いいよ。写真。忘れないうちに鞄に入れておきなさいよ」

「うん。」




写真持った。すいとう持った。よし、

「いってきまーす!」

「いってらっしゃい」

ママの声を背に受けて駆け出す。早く早く。遊びたい。話したい。

そんな気持ちがいっぱいになっていて疲れなんて感じない。走って林の奥へ、ひみつ基地へと向かう。

ガサッ

ひみつ基地までもう少しってところで物音がした。鹿かなにかかな?

「こんにち…うわぁ!」

ひみつ基地についた瞬間目に飛び込んできた景色。こっちへ飛んできたモノ。

「うぅ…」

ナナだった。首には痛そうな手のあとがついていた。傷だらけのボロボロだ。ナナが飛んできたほうへ頭を上げる。そこにいたのは

「正義の…ヒーロー?」

僕の憧れのヒーロー。その彼が僕の前にいてこっちを見ている。やっと憧れのヒーローに会えたんだ!…なのに、胸につっかえた違和感は一向に消えない。

ヒーローはこっちに向かってゆっくりと歩き出した。その視線は僕を見ていた。僕だけを見つめていたんだ。


ヒーローは僕の目の前まで来ると立ち止まりこう言った。

「お前はコレのなんだ。」

ゾッとした。自分が憧れていたヒーローのイメージはもっと希望に満ちた目をしているんだと、そう思ってた。でも僕の目の前にいるヒーローは僕が憧れ続けていたヒーローの目には希望なんて一片も感じさせないほどに真っ黒でこの世を呪っているかのようだった。

「と、友達で…」

「そうか、じゃあコレのことは忘れて平穏に生きるんだな」

ヒーローは僕の言葉を食い気味に僕の言葉をさえぎった。次の瞬間、僕は空に浮かんでいた。

視界にはナナの首を掴んで掴んだ手とは逆側の手に力を込めているヒーローが見えた。

僕はよく知っている。あの手に力を込めて放つあの動作を。ヒーローの必殺技だ。あの技を食らったらどんな怪獣も木っ端微塵にすらならずに消えてしまう。それをヒーローは僕の友達にナナに容赦なく放とうとしてる。

『ばいばい…。』

ドオッと爆風がヒーローの手から放たれる。それはゼロ距離でナナのおなかに当たって、それで…ナナは消えた。浮遊していた身体が地面に叩きつけられる。でも痛みなんて、感じ無かった。あるのはわけも話さずに僕の友達を、ナナを殺したヒーローに対する怒りだけだった。立ち上がって、そのままヒーローに向かって走り出す。でも、何にもあたることは無く僕はまた地面に這いつくばる。ヒーローは消えていた。残されたのはいつも通りの林と僕だけ。

「っう…っ」

泣いた。地面に突っ伏して。声にならなかった。悔しかった。自分の無力が憎たらしくて仕方がなかった。さっきまでいた友達はもう何処にもいない。血も何も残っていない。完全に消されてしまった。



「…。」

顔を上げると真っ暗だった。ごうごうと林が風に揺られ声を上げていた。昨日までなら不気味だと感じて足をすくませていただろう。

アイツをヒーローを探すんだ。ナナの命を奪った理由を聞くために。

許すことなんて絶対に無いけどね。せめて納得できる理由がほしかったんだと思う。


「…ただいま。」

「どこ行ってたの!?こんなに暗くなるまで帰ってこないなんて!もう少しで警察に電話するところだったのよ!」

「…。ごめんなさい」

思ってないけど、とりあえず言っておく。面倒くさいなとかうるさいなとかそんなことしか感じない。後強いて言うなら、心配してるのは僕のことじゃないなってことくらい。

それからお父さんも帰ってきて同じようなことを言われた。正直、右から左に抜けていって何も感じなかった。頭の中にあるのは一つのこと。ヒーローに復讐してやる。

僕はヒーローに会いたい。

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