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そうでないと

作者: ひつじ

なんてことないただの日常です。

日記の一ページです。

それでもよろしければ。

 いつものようにハンバーガーショップでお茶してる。クーポンを使っての百円コーヒー。

 分厚いテキストを広げてるサラリーマンぽい人。部活帰りの賑やかな高校生。スマホと戦ってる二十代半ばの女性。ただ目を閉じ微動だにせず、瞑想に耽るような男性。いつもと変わらない光景。もちろんそれがいつも同じ人だとは限らないけど、似たような客達で構成された店内。

 でも今日は違う。全く違う。たった一人の存在で全く違う空間になっている。

 隣にあの人がいる。


 二人で向かい合わせに座る小さなテーブルが並ぶエリアの一角、彼女は一人、隣の席に着いた。

 彼女は僕のことを知らない。知るはずがない。僕が勝手に見知っているだけ。

 駅で見かける彼女いつも寂しそうな顔をしている。大きな柱にもたれて、体の前に大きな鞄を両手で下げている。

 毎日見かけるわけじゃなく、時間や曜日に決まりなく、そこに立っている。見ない日が数日続いていたかと思うと、毎日いたりする。時間もまちまちで会おうと思っても会えない。彼女の気分なのか、それとも僕にわからない彼女の決まりでもあるのか。

 電車が来ても乗ろうとせず、人を待っているよう。少し俯き加減で下唇を小さく噛んでいるその表情はとても寂しそう。来ることがない人を待っている、来ないと解っていても待っている。そんな表情に見える。

 不思議なことに彼女がその場所に立ち始める時と、その場を離れる時に遭遇したことがない。そこに立っている彼女しか見たことがない。もちろん歩いている姿も見たことがなかった。

 僕の中で勝手に謎めいた少女となっていた彼女は、中二病的妄想を掻き立てる。

 その彼女が今、隣の席にいる。文庫本を左手に持ち、右手にはノック式のボールペン。テーブルに開いたノートに何やら書き込んでいる。

 ノートをちらっと自分の視界に入れてみた。文字がびっしり書かれている。でも、それだけじゃない。書いた文字を乱暴に塗りつぶすように消した箇所が沢山あった。

 そのノートも気になるけど、彼女が読んでる本も気になる。

 何を読んでいるのか? 何を書いているのか? そして何を消しているのか?

 彼女の全てが気になる。いっそ声をかけてみようかとも思ったりした。けれど僕にはそれを実行に移せるだけの勇気はない。

 正面にある大きな窓ガラスに彼女が写っている。駅で見るのとは違う佇まい。でも、俯いていることは変わらない。どことなく寂しい表情は変わらない。


 待ち合わせの時間が近づいた。名残惜しいけど席を立つ。彼女のノートに、手に持つ本に、引き寄せられそうになる目を、無理矢理、騒がしい女子高生に向ける。

 謎めく少女は、謎が多いままでいてくれないと、やっぱりつまらない。


有難うございました。

かなり前の話ですが、今も同じ場所で彼女を見かけます。

僕は勝手に彼女のことを「エッちゃん」と呼んでいます。下唇を噛む物憂げな表情が、何となくあのアニメの主人公に似ている気がしているんですけど、友達は誰も共感してくれません。


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