第一章(きっと彼等の旅はここから始まった)Ⅵ
今回も全然進みません。
ご了承ください。
俺とアリシアは個室から元居たロビーへと戻ってきた。
キッシュとタルトそして、フィーリアの三人はまだ話があるらしく、まだ個室に残っている。
「それで、取った宿屋って何処のだ」
「さぁ。聞いてみないと解らない」
アリシアに尋ねると、まさかの返答が返ってきた。
「大丈夫なのか」
「大丈夫。要望はちゃんと伝えてるし聞いてくるね」
アリシアはそう言うと、一人の受付嬢元へと向かって行く。
それにしても、こう意識してみると皆、俺達に視線を向けている奴が多い。
その視線は、妬み嫉みと言う部類の物と、興味や憧れと言った部類の物、その二種類だろう。
要は、女性達はうっとりとした表情で、男性達は血涙を流すような表情で俺達二人をみてるわけだ。
「何故こうなった」
思わず呟く程には戸惑っている。
これは絶対、フィーリアの言っていた駆け落ち云々の話が広がってるのだろう。
しかも、ギルド職員だけではなく、ギルドに所属している魔法使いにも。
一体誰が広めたんだ。
そんな風に少し落ち込んでいるとアリシアが帰ってきた。
「お兄ちゃん。どうしたの」
視線の事に気付いてないのか、はたまた気にしてないのか、俺の顔に近づき、覗き込むように聞いてくる。
すると、ぞわりとギルド内の空気が静かに淀めく。
もう如何にでもしてくれ。
「なんでもない。それよりも宿は解ったんだよな」
「うん。じゃあ行こうか」
そう言うと、アリシアは俺の腕に抱きついてくる。
彼女の温かで慎ましい感触が腕から伝わってきくる。
それと同時に、刺さるような憎悪と甘く生暖かな憧れの視線が入り混じった物が此方へ向けられたのだ。
正直言って俺の対処できる容量を超えている。
「お兄ちゃん。早く行くよ」
混乱している俺を見てきた、アリシアの顔は甘さ控えめ所かブラックな悪い顔をしていた。
こいつ、絶対に態とだ。
そう気が付いたが、この空気で彼女の手を払う勇気は無かったため諦めなすがままになった。
☆
魔法ギルドから、外に出ても彼女は俺の手にしがみついている。
周りの視線が痛い。
「もういいだろ。満足してたの」
「気付いてたんだ。詰まんないの」
そう口を尖らせ言う彼女だが腕にしがみついたまま離そうとしない。
「いいのか。噂になるぞ」
正しくは既に噂になっているのだが。
「いいよ。おにいちゃんとなら。これが勇者だったら右ストレートで殴ってたかもね」
相変わらず勇者の事を嫌っているな、噂になっただけで勇者は殴られるのか。
「俺だったとしても、それは、それで面倒になるぞ」
「もう、乙女心がわかってないなぁ。お兄ちゃんは」
「俺に乙女心が解ると思うか」
開き直ると、アリシアは『はぁ………』とため息を付く。
「もういい。行こうお兄ちゃん」
一段と強く、俺の腕を締め上げながら彼女は進む。
どうして彼女がこんな行動をしているかまったく解らない訳ではない。
それはきっと、フィーリアの話した事を思い出したからだ。
ただ、それを面と向かって話すのは勇気が居るし、勘違いだとしたら俺は二度と立ち直れないだろう。
つまりは、怖いのだ。
それと、どうしてもアリシアと恋愛が結びつかないというのも有る。
彼女とは、いまでこそ冗談の言える仲にまで発展しているが出会った当初の印象は酷かった。
無口な上に、無表情。
何時も、どこか醒めた目で周りを見ている。人形みたいな不気味な少女。
それが、俺がアリシアに持った印象だ。
今は勿論そんな印象など微塵に思っていないし、可愛いとさえ思ってる。
はず、はずなのだが、どうしても、その時の印象が強すぎて、上手く拭えきれてないようだ。
―――アリシアはこんなに可愛いのにな―――
そう思った瞬間、アリシアの腕を締め上げる力が強くなった。
何事かと思い、彼女の方を見ると、真っ赤になっているではないか。
やらかした。
背筋が寒くなり自分が青ざめているのが解る。
恥ずかしさより、やらかした焦りの方が強い。
「お、お兄ちゃん。突然、にゃにをいってるのかなぁ」
動揺し為か彼女の声は少し大きい。
「えっと、あの、な」
何か言い訳を考えるが頭が焦りで真っ白になり言葉を詰まらせる。
どうしよう。この雰囲気。
「こっちを見ないで」
彼女はそう告げ顔を背ける。
一瞬見えた彼女のその顔は、蕩け、緩んだ愛らしい表情だった気がした。
「えっと、すまん」
「で、何で行き成りそんな事を言ったのかな」
平然を装て居るのがバレバレな態度で彼女が聞いてくる。
やばい。
別の意味でやばい。
『アリシアが恋愛している姿が思い浮かばない』とか、右ストレートが飛んでくるに違いない。
絶対に答えられない。
「アハハ。ナンデモナイデス」
「よからぬ事を考えてないでしょうね」
「ソンナコトナイヨ」
「なんで片言なのよ」
「そ、そんな事より宿に行こう」
「気になる」
彼女の、言及を無視しながら宿屋へ向うのだった。
☆
厄日と言うのは一日が終わるまで続くらしい。
何故なら宿屋について早々、二人の男性が暴れていたのだから。
お読みいただき有難う御座います。
何でしょう。気付いたら彼達がいちゃついてるだけの小説になっている気がするのですが。
お前等さっさと宿屋に行けよ。もっとイベント起こせよと言う声が聞こえてきそうです。
まったくその通りなのですが、どうしても進めず我が道を進んでおります。
プロットではとっくに旅立ってるはずなんですけどねぇ。
何故か、彼達は勝手に動くんですよねぇ。
不思議ですね。
制御しきれるかどうか微妙ですが頑張っていきたいので、もしよろしければ応援お願いします。