第一章(きっと彼等の旅はここから始まった)Ⅴ
何故、フィーリアは俺にそんな視線を向けてくるのだろう。
あの短い時間に何があったのか気になった。
そんな、事を考えていたら彼女が声を掛けてきた。
「どうしたんですか」
「内密の話が有るらしくてな」
端的に答えるのだが彼女は何処かそわそわしていて、落ち着きが無い。
「そうなんですか」
聞いてきたにも関わらず、興味はなさそうだ。
どちらかと言うと、違う事に興味津々と言ったところだろうか。
「興味が無いんだな」
「無い訳ではないのですが、知らないほうが幸せと言う情報も沢山有りますし」
彼女の考えには素直に感心した。
どこかのアリスと言う見習い受付嬢にも見習って欲しいものだ。
「あの、聞きたい事があるのですが」
彼女は頬を赤らめモジモジとして聞いてきた。
おそらく、これが本題だろう。何故か凄くいやな予感がするが。
「な、なんだ」
「あの………。お二人が駆け落ちしたと言うのは本当ですか」
俺の頭が真っ白となる。
俺とアリシアが付き合ってるって………。
ありえないだろう。
「ど、どうしてそう思ったんだ」
「えっと、さっき先輩が………」
彼女は言い難そうな、恥ずかしそうな顔をしている。
マジですか………。
「もしかして魔法ギルドで噂になってたりしてないよな」
「えへへ」
苦笑を浮かべ笑う彼女。
もうそれ自体が答えと同然だった。
前言撤回だ。
魔法ギルドのデバガメ具合はアリスと大差無いじゃないか。
「俺とアリシアが付き合ってる訳が無いだろう」
「えっ………」
「よく考えてみてくれ、アリシアと俺が釣り合うと思うか」
固まった彼女に問いかける。
「それは、アリシアさんでは役不足だと言いたいのですか」
「逆だ。逆」
フィーリアは一体、俺をどんな奴だと思っているのだろうか。
「では、ヒューイさんはアリシアさんを如何思っているのですか」
「如何って言われてもなぁ」
改めて聞かれると上手く言葉に出来る気がしない。
「可愛いとか綺麗とか沢山あるじゃないですか」
「見た目の話か。それなら、可愛いかな」
美人と言うには幼顔すぎる、どちらかといえば可愛いだろう。
何処か庇護欲を擽られるような、そんな感じだ。
「そんな彼女が平凡な俺と釣り合うと思うか」
「その考えは駄目です。ダメダメです」
彼女はグイッと俺に近づいてくる。
反応に困る行動は謹んで欲しい。
「顔が近い。それで、何がダメダメなんだ」
「きゃ………」
彼女は恥ずかしそうに離れ、軽く深呼吸した。
「ダメダメなのは、それを決めているのが貴方だけと言う点です」
「俺だけとは。なら他に誰が決めるんだ」
「勿論、アリシアさんですよ」
「アリシアがかぁ」
アリシアがそんな小難しい事を考えるとは思えん。
というか、アリシアが恋愛にそもそも興味があるとも思えない。
「なんか失礼な事を考えてませんか。彼女も女性ですよ」
「それは違うぞ。女性が皆、色恋に現を抜かすと思うなよ」
そう言うと、彼女は目をまん丸にして驚く。
―――そう、アレは冒険者の一人の話だ。
彼女は周りからメスゴリラと呼ばれるほど、筋肉質で体格が良かった。
そんな彼女にも春が来た。
相手は、イケメンの冒険者。
彼は極度の筋肉フェチで彼女の筋肉に惚れたのだ。
そして、彼は彼女に告白した。
しかし、彼女の答えはこうだった。
『恋に現を抜かしている暇は無い』
そう彼女は彼を振ったのだ。―――
俺は彼女にそのエピソードを語ると彼女は怒ったように眉を吊り上げた。
「その話は特殊な例です。ちなみに、その後どうなったんですか」
「ん。そのあと、男が彼女のストーカーになった」
「ファ………」
「さらに、その後、男は女装をする事で彼女と付き合う事が出来た」
「なにがどうなったらそうなるのですか」
彼女に畳み掛けるように言うとかなり混乱したようだ。
「つまりだ。俺にはアリシアが色恋に現を抜かしている姿が想像できない」
「まるで、アレと同列に語らないでください」
「そうだよな」
まぁアレは特殊な例だ。
「とにかく、貴方はアリシアさんを可愛いと思ってるんですね。そして、好きなんですね」
「いや、好きとまでは言ってないが………」
「じゃあ如何思っているんですか」
如何思っているかか。
考えてみるが思いつかない。
「解らない」
「なら一度シッカリと考える事です」
彼女がそういったとき扉越しにタルトの怒号が響き、フィーリアがびくりと驚いた。
『あいつ等、ふざけてるのか―――』
しかし、怒号は途中で消える。
恐らくキッシュとアリシアのどちらかが、消音効果のある結界を張ったのだろう。
「なにごとですか」
「俺に聞かれても解らないぞ」
そうして、俺たちに気まずい空気が漂った。
☆
それから、どれだけ経っただろうか、部屋から三人が出てきた。
タルトは怒りが収まらないのか息が荒く、アリシアは何処か困った様子で、キッシュは無表情だ。
「話は終わったのか」
「あぁ、あいつ等が大馬鹿野郎って事が良く解ったぜ」
タルトが息を荒げながら答える。
一体何の話をしていたのだろうか。
気になりキッシュのほうを向くと彼はやはり、首を振り、拒否の意思を見せた。
「今日はもう帰って良いが、二人とも明日また顔を出して欲しい」
「俺もですか」
二人といわれて、思わず返してしまう。
「あぁ、用事があるのでな」
「解りました」
こうして、俺の中に蟠りが残りつつも話し合いは終わった。
お読み頂き有難う御座います。
先に弁解をさせていただくと、ド定番のギャグを急にブッコミたくなった為です。
いやぁ、シリアスになるはずだったんですが、シリアスがどこかへと逃げていきました。