第一章(きっと彼等の旅はここから始まった)Ⅳ
魔法ギルドは冒険者ギルドとは全然違った。
中で馬鹿騒ぎして、酒を飲んでいるような奴等は当然居ない。
だとしても、この時間でも仕事を請ける人や、依頼達成の報告に来る人が居るとは思わなかった。
ここまで勤勉なのかと、若干のカルチャーショックを受けた。
「ふむ。連れて来てくれた………」
声を掛けられそちらを見ると、顔を引き攣らせた、中年の男性がいた。
「ようキッシュ連れて来たぜ」
なぜかタルトが得意満面に言う。
すると、キッシュと言われた男性は頭を抑えため息を付いた。
「タルト。何故お前が居る。そして、何故お前達は馬鹿みたいに手を繋いでいるんだ」
「その、御免なさい。お父さん。気付いたら隣に居て………」
俺の手を引いていた女性がビクビクしながら言う。
中年の男性は彼女の父親に当たるのか。
確かに、瞳の色、そして髪色もキッシュには白髪が混じっているが同じ。
体型は女性のほうが、むっちりと肉付き良いのに対して、キッシュはやつれ気味でヒョロリとしている。
似ているようで似ていないそんな親子に思えた。
「フィーリア、私の事はギルドマスターと呼べと言っただろう」
「ごめんなさい」
「それで、お前は何故居るんだタルト」
「まぁまぁ、良いじゃないか堅いことは無しで」
フィーリアはシュントしているが、タルトは一向に悪びれた様子は無い。
「その様子だと、聞いてないようだな」
「何をだ」
キッシュの疑問に対して頭を捻るタルト。
「まぁいい。個室で話そう。付いてきてくれ」
☆
個室では既にアリシアがソファーに腰掛けていた。
ただ、緊張しているのかガチガチに固まっているようだ。
「フィーリアは外で待ってなさい」
キッシュがフィーリアに指示を出すと、彼女は一礼して、部屋の外に出る。
「ヒューイ殿は、アリシア殿隣へ、タルトは私の横へ」
キッシュが的確に指示を出す。
俺が指示通りにアリシアの隣へと腰掛けると、彼女はビクリと怯えたように身震いをした。
本当に彼女は何をやったのだろうか。
そして、キッシュとタルトも対面のソファーへと腰をかける。
「さて、そろそろ本題だが、まずアリシア殿。君が、シリアルナンバー入り装備を強奪された件だが」
キッシュのシリアルナンバー入り装備と言葉に驚いた。
それと同時に、勇者達が持っていった彼女の装備こそシリアルナンバー入り装備なんだと理解した。
シリアルナンバー入り装備は簡単に言えば各ギルドが毎年の始めに発行する勲章だ。
しかも、審査が厳しく今までの受賞者は各ギルド両手で数えられるぐらいしか居ないらしい。
アリシアがシリアルナンバー入り装備の受賞者か。
一体、彼女は何の功績で受賞したのだろうか、少し気になる。
「まて、ギルド勲章を強奪されたって誰にだ」
唯一、状況がつかめていないと思われるタルトが机を叩き声を荒げる。
「勿論、勇者にだ」
キッシュが躊躇い無く言うと、タルトは渋い顔をして『マジか………』と呟いた。
「話を戻す。アリシア殿、君を咎める気はない。だから安心してくれ」
キッシュの言葉にアリシアはほっとした様子だ。
ガチガチに固まった肩の力が少し抜けたように見えた。
「それで、ヒューイ殿に来て頂いたのは事実確認の為だ」
「事実確認ですか」
「うむ。アリシア殿から聞いたのだが、ヒューイ殿も装備一式を強奪されたのだろう」
「はい。そうですね」
「ちょっと待ってくれ」
俺とキッシュのやり取りに待ったを掛けるタルト。
「どうかしたのか」
「じゃあその荷物は何なんだ」
タルトは俺の横に置いておいたリュックを指差す。
「これは、冒険者ギルドに預けていた俺の私物です」
「それじゃあ、まるで最初から追い出される事を知っていたようじゃないか」
「そうですね」
三人の視線が此方に向く。
「アリシア殿。彼のパーティー脱退は予定調和か何かだったのかな」
「そんな事は無いわ。少なくとも私は聞いてなかった」
「ふむ。その辺りも、説明して貰えないだろうか」
「わかりました」
俺はそう言った後、これまでの出来事を語り、何故追い出されると推測できたのかも語った。
話が進んでいくうちに、タルトは怒りに満ちた表情に、キッシュはコメカミを押さえ困惑した表情をする。
「と言う事はなんだ。あの馬鹿共は、気にくわねぇってだけで、装備を盗んだって言う訳か」
タルトは相当怒っているのだろう声が一段と大きくなる。
「タルト。声に気をつけろ。外で誰が聞いているか解らない」
「かまわねぇだろう。そんな奴等の事に気を回す必要は無い」
「国の問題に関わる。決して勇者達の風評だけの話ではない」
「おっおう。気をつける」
キッシュに、たしなめられ戸惑うタルト。
「後、窃盗ではなく殺人未遂だ。其処も勘違いするな」
「もっとひでぇじゃねぇか」
「その通りだ」
タルトとの話が終わると、キッシュは此方に視線を向ける。
「ヒューイ殿が奴等の不振な動きから君を追い出す計画を察知したのはわかった」
キッシュは一泊置き再び口を開く。
「では何故、その場で指摘をしなかったのか聞かせてもらえるか」
「それは、穏便に済ますためです」
「穏便にとは」
「恐らく計画がバレていると解ると何をしでかすか解りません。ですので知らない振りをしました」
「其処までか」
キッシュに戸惑いが生じる。
その問いかけに、俺とアリシアは頷く。
『はぁ』とキッシュはため息を付く。
「何故、国は彼を放置しているのだ」
「おいおい。行き成りどうしたんだキッシュ」
「いや、異世界から来てもらったとは言え彼の行いは目に余るのでな」
「んなもん国が奴等の言動を知らないからじゃないか」
「これでは、彼が召還される前まで活躍していた救世主の方がましではないか」
「救世主?」
キッシュとタルトのやり取りで聞きなれない単語あったためか、アリシアは尋ねた。
「ん、アリシア殿は知らないか。村救いの救世主と言うのを―――」
「あの、用は以上でしょうか。そろそろ宿を手配しないといけないので」
「宿の手配は、アリシア殿から頼まれたため職員がすでに手配してある」
キッシュの言葉を遮るように言うとその様な返答が帰ってきた。
抜け目無いな。
アリシアの方を見ると彼女はブイサインを向けてくる。
「だが、確かに脱線している暇はないな。失礼だが、ヒューイ殿には一度退室して頂きたい」
「私だけですか」
「えぇ。少し込み入った話があるのでな」
「なら、俺も出ておこうか」
「いや。タルトにも聞いていて欲しい内容だ」
「解りました」
気には成るがギルドマスターが判断した事の為、素直に従って外に出る事にした。
其処には、俺に憧れの眼差しを向けてくるフィーリアが立っていた。
お読みいただき有難う御座いました。