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プロローグ(こうして彼等はパーティーと袂を分かつ)Ⅲ

思いっきりアマアマのクドクドにしてみました。

いかがでしょうか。

初めての杖による飛行はロマンティックだった。


上を見上げれば、満天の星空が輝き。

下を見下げれば、そこには、夜霧で霧がかった幻想的な草原が広る。

寒いせいか、此方へと寄りかかって来るアリシア。

それはどれもが恋愛小説を彷彿とさせるシチュエーションだ。


本来不快である肌寒さでさえも、伝わってくるアリシアの温もりで良いムードの演出へと成り下がった。


「お兄ちゃんはこれからどうするの」

「えっ………」


不意にアリシアから声を掛けられそちらを見てしまう。

そこには、月夜に照らされてに浮かび上がる艶やかな彼女の顔が、間近で俺を見上げていた。

顔が近い。

それは、彼女の吐息の声が此方まで聞こえるほどに近い。

意識してしまうと、恥ずかしくなる。

肌寒いの変な汗が出て、心拍数が上がり、顔が熱くなる。

彼女の顔を見ることが出来ずに、思わずそっぽを向いた。


もしかすると、青春とは程遠い所に居たはずの俺が、このムードに流され酔っているのかも知れない。

そう考えてしまうと若干の戸惑いが生まれる。


「もう。お兄ちゃん。私の話を聞いてるの」


そんな葛藤を知らないアリシアは少し拗ねたような口調で言ってくる。


こちらは、アリシアのせいでドキドキしてるのだから、落ち着くまで少しそっとしといて欲しい。

そう言えたならどんなに楽だろう。

しかし、実際は言う事すら何故か恥ずかしくて緊張する。

それどころか、心音は更に激しくなり、言葉が出ずに頭が真っ白になる。


普段であれば、軽口を言い合える程度は造作も無いのに、今はそれすら出来ない。

あまり経験した事が無い種類の感情に苛立ちにも似たもどかしさを感じてしまう。


………駄目だ。このままでは駄目な気がする。

『落ち着け』と何度も心の中で念じ、深呼吸をする。

その時、清清しい空気と一緒に漂ってきた、甘い香りに気を取られそうに成ったが、何とか堪えられた。

その甲斐あってか、平静を装う事が出来るまでには、平常心を取り戻す事が出来た。


「で、何の話だっけ」

「大丈夫。勇者に蹴られた衝撃でパッパラパーに成っちゃった?」

「なんで、腹を蹴られて頭にダメージが行くんだよ。それと、その話は控えてくれ、思い出したくない」

「ごめん」


失言だと気付いたのだろうシュンとか弱い声を出す彼女。

何故だろうか、少しもどかしい。

本当に俺はどうなってしまったのだろうか。


「まぁ、気にするな。元を問いただせば、話を聞き流してしまった俺が原因だしな」


なるべく彼女の顔を視界に入れないように気をつけながら、頭をワシワシと頭を撫でる。

『もうやめてよ』と彼女は言いながらも、俺の手を跳ね除けるような行動はしなかった。

気を許してくれている証拠だろう。


「それで、何の話だったけ」

「これからの事だよ」

「そう言うことか。俺は、冒険者に戻るだろうな」

「えっ………。お兄ちゃんって冒険者だったの」


アリシアは心底驚いているようだったが、何故、そこまで驚いているのかが理解できない。


「そんなに意外か」

「えっと………。冒険者ってその………ほらね」


明言を避けた彼女だが、何を言いたいのかが解ってしまった。


冒険者と言うのは荒くれ者が多いのだ。

中には、犯罪者紛いの者だったり、すねに傷を持っている者が多い。

その為、犯罪者予備軍の集団と言う間違った認識を持つ人達も少なくない。


実際のところは、体よく使われる何でも屋と言った所だろう。


「まぁ。言いたい事は解るが、全員が全員そう言う訳じゃないからな。俺みたいのも居るわけだ」

「そうだよね。お兄ちゃんは全然、違うもんね」


そこまで、力強く断言されると苦笑いが浮かびそうになる。

俺の様な冒険者もそこそこには居るのだけれども。

どれだけ、冒険者が誤解されているのかが良く解る実例だろう。


「アリシアはどうするんだ」

「師匠の所に戻るかな」


彼女の師匠と言われると、少し興味が湧いた。

彼女は師事に関する事は一切明かさない。

彼女の師匠が誰で、どんな事を習っていたのか、彼女に聞こうにも毎回、上手にはぐらされていた。

それは、俺だからでは無く、勇者達であろうとも語ろうとはしていない。


「じゃあ、師匠の所で再び師事を仰ぐのか」

「うーん。破門されるかも」


破門と聞かされ、驚き思わず彼女の顔を見てしまう。

彼女は、苦笑いのような困ったような笑みを浮かべていた。

そんな俺に彼女は気付き、首をかしげ此方を見てくる。


目を合わすのはまだ止めといた方が良い。

慌てて、そっぽを向く。


「破門とは、穏やかじゃないな。もしかして、師匠の反対を押し切って飛び出したとかか」

「うーん。秘密かな」

「そこで、お預けとか気になるのだけど」

「ならさぁ。お兄ちゃんも付いてくる?」

「いいのか」


アリシアの提案に驚く。

聞かれたくないからはぐらかしていたのだろう。

それなのに、この急な心変わりは何だろう。


「いいよ。師匠もきっとお兄ちゃんに遭いたいはずだし」

「なるほど。勇者の事か」

「それだけでは無いけどね」


『それだけでは無い』とは、どう言う事だろうか、いまいち良く解らない。

他に有るとすればなにだろう。

アリシアが勇者パーティーで、如何やって過ごしていたとかなのだろうか。

しかし、それはそれで如何なのだろう。

余りしっくりとは来ない。


「お兄ちゃん、町が見えたよ」


解らず悶々と考えている間に、如何やら町へと付いたらしい。


「お兄ちゃん。町が綺麗だよ」


アリシアに言われ、町を見下ろす。

街灯の光と、家々の光。

その二種類のオレンジ色の光が夜霧で淡くなりながらも、町全体を浮かび上がらせていた。


「確かに綺麗だ」

「もぉ、そこはアリシアのほうが綺麗だよとか言わないと駄目だよ」


アリシアは楽しそうに冗談を言ってくる。

それは、景色に浮かれているのか、それとも町へと帰ってきた安堵からなのか、解らない。

しかし、何時ものアリシアの調子を取り戻しているように感じた。


それに釣られてか、俺も本来の調子が戻って来た気がした。

ただ単に、ムードがぶち壊れる未来しか、想像が出来ないからかもしれないけれども。


「何故、俺が言わねばならん」

「恥ずかしがっちゃって、私は妹だよ。妹に甘い言葉を囁くのは兄としての義務だよ」


何故か、訳の解らない事を言い出して来た。

呆れ顔を彼女に業と見せつける。


「そんな義務は知らないし、お前が呼んでるだけで、俺は実の兄ではない」

「そんな。私とは遊びだったのね」


ヨヨヨと器用に泣き真似をしてみせた。


「ごっこ遊びと言う点では遊びだな。そもそも、お前の方が一つ年上だろう」

「何を言ってるのお兄ちゃん。私は妹だよ。ほら小さい頃に一緒にお風呂に入ったじゃない」

「記憶を捏造しないでくれ。俺達は小さい時どころか、出会って二年しか経っていない」

「つまりは、この先、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入る機会があると言う訳かな」


ニヤニヤと笑い言ってくるアリシア。

よくも、行き成りに爆弾発言をしてくれたな。

不覚にも彼女とのお風呂を想像してしまったではないか。


「ないだろう。そもそも、俺と入りたいか」

「如何だろうね」


アリシアは楽しそうに微笑んでいる。

今度、絶対仕返しをしてやるから、覚えていろ。


「色々と名残惜しいけど、そろそろ降りようか。余り遅すぎると宿が取れなくなっちゃう」


俺の悔しそうな顔を見て、満足したのか彼女は急に話を変えた。


「確かに色々と気にはなったが、宿が取れないのは拙いからな。仕方ない仕返しはまた今度にしよう」

「楽しみにしてるよ」


余裕の笑みを浮かべながら、彼女は杖を地面に向けゆっくり降下させていった。

お読みいただき有難う御座いました。

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