第一章(きっと彼等の旅はここから始まった)Ⅸ
遅くなりすいません。
夏ばてですかね。調子が悪くて仕方がありません。
猛暑が続いておりますが、皆様も体を壊さないよう。ご自愛ください。
「酒場の料理にしては手間も掛かってるし、値も張るだろう」
「手間は解るけど、値段はどうして高いの。もしかして、これってそんなに高級品だったり」
アリシアが見当違いの事を言う。
やはり、魔法が得意な彼女も家事には疎いようだ。
「この料理には大量の薪が必要なんだ」
「そうか、薪なのね」
彼女は気付いたようだ。
今の時期、皆が買い求めるため、どうしても薪が品不足になる。
そうなると、当然だが薪代が上がる。
そこに、薪を結構な量を消費する料理だ。
ずいぶんとお高い事になっているだろう。
「確かにこれは注文された品だが、良いんだよ。注文した奴は代金も払わずにトンズラ決めたからね」
「トンズラって」
フィリンの言葉にアリシアは反応する。
「何処の貴族かは知らないけど、昨晩に注文して、今日の昼に『すぐに町を出るから要らない』だとさ」
そうとう、鬱憤がたまっていたのかフィリンの口は滑りが良い。
「しかも、金は払わないと来たもんだ。こっちは既に作り始めてたんだよ。どうしろってんだい」
彼女の剣幕に少し俺達はタジタジになる。
「元々、アイツを泊めるのは嫌だったんだ。娘に色目使うわ、婚約者だと言って少女を侍らせてるたり」
「少女を侍らせるって」
アリシアが怪訝そうな顔をして尋ねた。
「そうさ、一人は娘と同じぐらいの年の獣人で、もう一人はそれより下の少女だったよ」
「どんな人で、どんな様子だったの」
アリシアは何故か喰いついている。
「どんな人って貴族の事かい。そうさね………」
フィリンは少し考えるように間を置いた後に再び口を開く。
「肥えた禿げ親父だったわ。女性の方は酷かったわ。やつれていて、扱いもまるで奴隷のようだったわ」
「奴隷………」
アリシアの顔が曇る。
奴隷の様な扱いか、それは何とも許せないな。
「そうよ。理不尽な事を言って平気で手をあげてたし、怒鳴りつけていた場面も見たわ。酷かったわ」
思い出したのかフィリンとアンネの顔が歪む。
「そう………」
アリシアは何か考え込んでいる様子だ。
俺は俺で気になることもあった。
「女将さん。その貴族はアンネに色目使ってたんだよな」
「え、えぇ。そうよ」
突然の質問に困惑したような表情を浮かべる、フィリン。
「お兄ちゃん気になる事があるの?」
「あぁ。さっきの二人組みのことだ」
さっきの奴等はまるで自分の背後に心強い誰かがいる様な発言をしていた。
そして、此処に動機と権力、どちらも有る男が出てきたのだ。
疑わないわけには行かないだろう。
「なるほど。お兄ちゃんは貴族がアンネさんを狙ってちょっかい掛けて来てるって思っているのね」
アリシアの発言に拒絶反応が出たのか、尻尾を逆立て身震いするアンネ。
そして、フィリンの方は、話についていけてないのか困惑している。
「ちょっと待っておくれ。じゃあなんだい。アイツがちょっかい掛けてるのかい」
「あくまで可能性だけどな」
「それが本当なら、どうしろって言うんだい」
「そうだな。単独行動はなるべく控えるのと、領主に相談すると良い」
「どうして、こんな事に」
フィリンは肩を落し、アンネは怯えている。
「もしよか―――」
「フィリンさんたちは何時も何処で寝泊りしているの」
俺の声を遮ってアリシアが言う。
その声には、苛立ちが伺えた。
「この宿だけど。どうしたのさ、いきなり」
「ならこの宿に今晩、結界魔法を掛けさせてもらえないかな」
「いいのかい」
パッと明るい表情を浮かべたフィリンはアリシアの手を掴む。
どうやら、同じ事を考えていたようだ。
「本当かい。ぜひ、お願いするよ。なんならお金も払う」
「お金は要らない」
金銭を要求しない辺りは、彼女らしい。
「俺も手伝う」
「ううん。私一人で大丈夫」
あっさりと断られた。
それは、それで悲しい。
「そうか。人手が必要なら声をかけてくれ」
「うん。わかった」
そう言うアリシアだが、顔が引き攣っている。
俺は自分が思っているより頼りないのだろうか。
「は、話も終わったしそろそろご飯にしないかな」
「ははは。まぁ、そのなんだ。頑張りな」
「だ、大丈夫です。私は助けて頂いたので」
如何やら顔に出ていたらしく、三人に慰めらる。
何これ、新手の苛めか。
「だぁ。もういい。こうなったら、やけ食いしてやる」
「ダメだよ。私の分もちゃんと残しといてよ」
俺の発言に慌てるアリシア。
「ははは。色々聞いてもらって悪かったね。私達は、仕事に戻るわ」
フィリンはそう言うとアンネと共に部屋を出て行く。
さぁやけ食いの始まりだ。
お読みいただきありがとうございます。
料理が出てきたにも関わらず手を付けず、一話が終わると言う超スロースペースです。
早く話を進めたいのですが、此処を省くわけには行かずヤキモキしてます。
もっと上手くなりたい