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第三章:海の向こうから5

逃げ込むようにガーデンパーティーの会場に戻った私は、ポーラを探した。


グリーンのドレスに波打つ黒髪を見つけた私は、ほっとして、足を速めた。


あと、数メートルまで近づいたので、声をかけようとした時、手首を掴まれた。


力強い腕は、そのまま私を隅の生け垣まで引き込んだ。


「楽しんでいるか?」


突然、現れたイデルは、少しくたびれた様子で、片手に持っていたグラスを私に差し出した。


「はい。」


短く答えると、グラスを傾けて、シャンパンを渇いた喉に流し込んだ。


「ところで、シャンリ殿だが、とんだタヌキだよ。エミリーにデレデレしながら、自国の利益だけは、譲らない。義弟としては、頼りがいがあるが、こと商売相手となるとやりにくい。」


イデルは、自分もワインをあおると、ため息をついた。


ストレスのためか、もう既にかなり飲んでいるようだ。


「簡単にビジネスで出し抜こうなんて、考えが甘いですよ。王族も庶民も関係なく、彼らは、生まれながらの商人ですから。」


大体、幾ら良い家柄といえども、王子を一介の貴族の娘と結婚させるとは、シャーレン国側も何らかの意図があってのことだろう。


イデルとエミリーの父親であるクラリモン卿の試みも分からなくもないが、これから彼らの一族は、不安定な上に東方に対する歪んだ優越感を持った西方と文化的経済的な面での利益を狙うシャーレン国との板ばさみになるに違いない。


王女であった私の結婚が、成立していれば、状況もかなり変わったと思うが、それは考えるまい。


「分かっているよ。のらくら生きてきた俺や親父には、荷が重いって言いたいのだろう。まったく、キティは、遠慮ってものがないな。」


相変わらず、正直なイデルは、少ししょげたように俯いた。


「これから、大変になるでしょうね。でも、今日は、おめでたい日です。余計なことは、後で考えませんか。」


不安なのは、皆同じなのだ。


けれど、今日は、ただエミリーとシャンリ様の祝福を祝いたかった。


イデルは、少し驚いたように私を見た。


「君も変わったな。」


「エミリー様やあなたを見習おうかと思いまして。」


「恋も悪くないだろう?」


「そうかもしれませんね。」


現に幸せそうな二人は、こんなにも私を満たしてくれる。


「素直でよろしい。」


いつものように偉そうに笑うイデルを見ても、今日は、なぜだか腹が立たなかった。


「エミリーとシャンリ殿の永久の愛に。」


イデルが、グラスを高く持ち上げた。


「エミリー様とシャンリ様の永遠の幸福に。」


私もイデルに倣う。


「「乾杯」」


ガラスのぶつかる音が、微かに響いた。









「何のまねですか?からかわれるのは、好きじゃありません。」


買い出しで市場に来ていた私の目の前に突き出されたバラの花束をうっとうしげに払いのけた。


男は、悪びれもせず、整った顔に軟派な笑みを浮かべた。


「からかっているつもりは、ないんだけどね。」


「あなた、王子の護衛ですよね。ここは、異国です。こんな所で油を売っていていいんですか?」


「王子は、この国の人々を信頼しておられる。俺達、護衛にも観光する時間をくれたんだよ。」


「随分と優しい方ですねえ。」


男の態度の悪さに思わず、皮肉を言ってしまった。


はっと気が付いて、口元を押さえたけれど、遅かった。


男は、にやりと笑うと、私の手を掴んだ。


「やっぱり、思ったとおりの子だ。ちょっと、町を案内してよ。」


「ちょっと!離して下さい。用事があるんです。」


男の手を振り払おうとしたけれど、私の手をすっぽりと包み込んでしまう大きな手は、引っ張ってもびくともしない。


「そうそう。まだ、自己紹介してなかったな。俺の名前は、マナ。『愛しい子』って、意味だ。いい名前だろう。よろしくな、キティ。」


緑の瞳は、私の心を揺さぶる。


逆らえないのは、力強い腕のせいだけでは、なさそうだ。





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