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ひとつだけ

作者: 二条 光

他サイトの企画(お題:「その奇妙な店は、」からはじまる物語)参加作品です。

 その奇妙な店は、本当に存在していたんだ。


 ◇◆◇


 もうむかしのハナシなんだけど、よかったらきいてくれるかな?

 あのころはたしか、あみちゃんがほいくえんにかよっていて、ボクはまだ3さいぐらいだった。


 あみちゃんはとってもかわいくてあまえんぼう。

 ほいくえんにいくときも、いつもボクとはなれたくないってボクをだきしめてくれる。そして、かえってきたらすぐにボクをよんでくれて、ボクをちからいっぱいだきしめてくれるんだ。


 よる。

 ぼくとあみちゃんはいつもいっしょのベッドでねるんだよ。いいでしょ。


 そして、あみちゃんはいつもいつもそのひあったことをボクにいろいろとはなしてくれるんだ。

 そのひもいつものようにボクにはなしかけてくれたっけ。


『あのね、ケンタ』


 うん。


『きょうね、ほいくえんでこんなおハナシきいたんだ。ききたい?』


 うん。うん。

 どんな? ねぇどんな?

 ボクにもおしえてほしいな。


『ふふふ。おしえてあげるね』


 うん。


『しぬまえにみるゆめがあるんだって』


 え、しぬまえにみるゆめ?

 えー。やだなー、しぬおハナシ?


『ふふ。そんなカオしないできいて』


 うん、わかった。きくよ。


『そのゆめにはね、とってもふしぎなおみせがでてきて。ねがいごとをたったひとつだけかなえてくれるんだって』


 へぇ! すごいね。


『でしょ。でもね、もちろん、“しにたくない”とかそういうことはダメなんだって』


 え、じゃあなにをおねがいするのさ。


『うまれかわったときにどうしたいかをひとつだけかなえてくれるんだって』


 そうなの~?


『でもね、そのねがいごともそうだし、じぶんのまえのきおくもないんだって』


 えーそうなの? そんなの、なんかつまんないなあ。


『そう? でもね、あたしはね、ひとつあるんだ。ききたい?』


 うん、ききたいな。


『ふふふふ。あたしね、うまれかわったらケンタのおよめさんになりたい!』


 え、ボクの!?


『ケンタは?』


 もちろんだよ!

 ボクがこんどうまれかわったら、あみちゃんと”ふうふ”ってヤツになるんだ。

 フフフフ。

 あみちゃんがボクのおよめさんかー。ステキだなー。


 ボクらはみつめあって、そしてわらいあった。



 ◇◆◇



「ケンタ! ケンタ! やだ! 目をあけてよ!」


 アミちゃんのこえがとおくにきこえる。


 なんだろう。いっしょうけんめい、めをあけようとしてるのに、ちっともめがあかないや。

 なんだかとってもまぶたがおもい。

 このままもうねむってしまいたいんだ。


「ヤダ、ケンタ死なないで!」


 え……、ボクしんじゃうの?

 ウソだよ。まだまだあみちゃんといるんだよ。


「亜美、しょうがないのよ」

「ヤダ!! なによ、しょうがないって。ね、ケンタ。まだ一緒にいるんだよね?」


 うん! そうだよ。ヤダよ、ボクだって!

 しにたくない!


「ケンタ~!」


 あみちゃんのこえがボクのむねをぎゅっとしめつける。

 ああでももうホントにねむいんだ。

 ボクね、あみちゃんとずっといっしょにいたかったな。

 あみちゃん。あみちゃん。だいすきあみちゃん。

 ずっとずっとだいすきだよ、あみちゃん。



 ◇◆◇



 あれ? ここはどこだ?


 めをあけると、ボクはみたこともいったこともないやまのなかにいた。

 そこはボクがむかしあみちゃんとなんどもみたほんにでてくるような”くらくてうっそうとしたもり”のようなところだった。


 あれ? だれもいないよ。

 あみちゃーん、いないな。

 ボクどうしてここにいるんだろう。

 だ~れもいないや。やだな、こわいな。

 とりあえず、だれかいないかさがしてみよう。


 あれ?

 しばらくあたりをあるいていると、めのまえにぼんやりとしたあかりがともったおみせがあった。

 うん、これもあみちゃんとみたほんにでてくるまじょのおうちってカンジのつくり。

 どうしようかな。

 でも、なんにもないし、だれもいないし。

 うん、ゆうきをだしてはいってみよう!


 ドアにはすずがついていて、あけるとシャリンシャリンっておとがした。

 みせのなかはやっぱりあみちゃんとなんどもくりかえしみたあのほんにでてくるようなカンジだ。

 モノがぐちゃぐちゃにおかれてて、なんだかよくわからないモノとか、ニンゲンがこのみそうにないひからびたカエルとかがはいったビンとか、とにかくいかにもってカンジのモノがたくさんある。


 あーあみちゃんといっしょにきたかったなぁ。あみちゃん、きっとよろこんだだろうな。


「あぁ、いらっしゃい」


 え!?

 うしろでこえがしてあわててふりかえると、そこにおばあさんがたっていた。

 うん、これもやっぱりあのほんにでてきたようなかみのけのいろがむらさきですごーくながくって、めもみみもとがってて。ホント、いかにも”まじょ”ってカンジなんだ。


「おまえはなんて願いごとをしたいのかい?」


 え?


「なんだ、おまえはまだわかってないのかい。ヒヒ、おまえはもうね、死んじまったんだよ」


 え! ウソだ!


「ウソじゃないさ。イヒヒヒ」


 ウソだ……。


「で、この店はだな、今度生まれ変わった時に叶えたいことをひとつだけ叶えられる店なのさ」


 え、それって……。


「ああ、おまえもいつか亜美ちゃんとやらにきいたろ?」


 え、なんでおばあさんしってるのさ。


「ウヒヒヒ。わたしにはなんでもお見通しさ」


 そっか。じゃあ、ボクほんとにしんじゃったんだね……。


「ああそうさ。で、おまえはなにをお願いするのかい?」


 ホントーにねがったらかなうの?


「ああそうさ。ただし、ねがったことやいまのきおくはぜ~んぶないけどな」


 そんなの、かなったかどうかわからないじゃないか。


「ああそうだね。でも、おまえはもしも生まれ変わった時にこうなってほしいっていう願いごとはあるんだろう?」


 ……うん、ある。


「おまえが願って、おまえの記憶がなくても、それが叶えばステキじゃないのかい?」


 まじょはなんだかボクをためすようなカオでみてる。


 ステキ。うん、あのゆめがかなえば、ホントーにステキだな。


「まあいいさ。おまえが願わなければ、あの亜美ってコはきっとね」


 え! なになになに? あみちゃんがどうなっちゃうの!?


「おまえが生まれ変わった時にはほかの男と結婚してるんじゃないのか?」


 え! そんなのやだ! ぜったいにやだ!


「そうだろう、じゃあおまえの願いごとを言ってごらんよ」


 わかった。


 ぼくはうまれかわったらあみちゃんとけっこんしたいです! ぼくのおよめさんにあみちゃんをください!



 ◇◆◇


 *********


 亜美ごめーん。

 あと1時間くらい遅くなりそう。

 どっかで時間つぶしといて~


 *********


 あ、やっぱり。


 今日は仕事終わりに、高校時代の友人・優子と2年ぶりに会うことになっていた。

 待ち合わせ場所のS駅で時間になっても現れないからもしかしたらと思ったら、メールがきた。


 うん、仕事で遅れるかもってきいてたからな。本屋さんでも入ろうかな。


 私は駅ビルの4階に入ってる本屋さんにエレベーターで向かった。ワンフロアすべてが本のコーナーになっていて、このへんでは一番大きい本屋さん。

 エレベーターから出ると、目の前に童話のコーナーがあった。それはほとんどが絶版になった作品が並べられていた。

 そこに吸い寄せられるようにして歩みを進める。


 あ、これも懐かしいな。あー、これも。

 子供の頃よく読んだっけ。


 あ……。

 一冊の本に、目が留まる。

 子どもの頃飼ってたワンコに毎日のように読み聞かせてたっけ。


「あっ」


 手を伸ばした瞬間、いつのまにか隣に立ってた方と手が触れてしまった。


「ごめんなさいっ」

「いえこちらこそ」


 どちらからともなく、手を引っ込めた。


 あ……。

 ふんわりと笑ったその人はその犬のことを思い出させた。うん、笑顔があのコを思い出させるんだ、きっと。


 彼はその本を指さす。


「この本お好きなんですか?」


 私とその本を交互に見ながら訊いてくる。


「はい」


 返事をきくと、彼は本当に嬉しそうに笑う。その笑顔はやっぱりあのコを思い出させてくれる。


「そうなんですね。僕も大好きなんです。子供の頃から。絶版になってたし、実家にはもうないから。いやー会えるとは。嬉しいなー」


 彼は本当に嬉しそうにそれを手に取るとパラパラとめくっていく。


 私も、見たいな……。


「買おうかな。あ、もしかして買いますか?」


 彼が手に持ってるものが最後の一冊だった。


「あ、でも……」


 お互いにその本と相手を見比べる。

 私はこんな風に初対面から会話は弾まないほうだ。話しかけられてもそっけないほうだ。

 なのに、彼には初めて会ったような気がしなければ、ずっと前から知っているような、古くからの友人のような、ううん、ずっと恋しかった人のようにすら感じる。


「あの~」

「あのっ」


 声がハモった。

 お互い目を見合わせて小さく笑う。


「あ、どぞどぞ」

「いえ、そちらから」


 私が彼に譲ると、コホンと小さく咳払いをして「この後お時間ありますか?」と誘ってくれた。


「え?」


 こんなナンパみたいなこと、今まで耳を傾けたことなかったのに。


「い、いや、あの。もしよかったらこの後一緒に読みませんか?」

「……はい」

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