姉の提案。(第33話)
「……とりあえず、このことは見なかったことにします。ですが、次はきちんと証明できるものを見せてくださいね。」
イリスさんは後ろを向きながらそういった。これは許された、って感じていいのかな。
でも、証明できるものってなんだろう。
住民票?保険証?一応日本のものはあるのだけど、この国では全く意味をなさないだろう。
「わ、わかりました。次お会いする時には、必ず持っておきます。」
また後でリクシャリアさんかアイヴィスさんに相談しないといけないな。
「それにしても、やけにきっちりとした格好をしていますね。マリスのレストランや劇場へでも行くつもりなのですか?」
イリスさんにカフェに行きましょうと誘われて入ったカフェで、いきなりこんなことを聞かれた。
今の僕の服装は確かにぴっちりとしている。パルフェの制服を着たままここに連れてきてもらったから。
「いえ……そんなつもりはないです。ただこれは店の制服なだけで……」
僕がそういった途端、イリスさんは「あらまぁ」といった具合に驚いてみせた。
「店の制服ですか、ここはカジュアルな服装でも全く問題ないですよ。」
イリスさんはそう言うと、なにやら閃いたような仕草を取った。
考えていることがすぐ顔や行動に出るあたり、本当にリクシャリアさんとそっくりだな、と感じた。
「そうだ、リンさん。これから服を買いに行きませんか?」
なんだか、イヤな予感がする。
まぁでも、悪い誘いではないだろう。
「だ、大丈夫ですが……今は持ち合わせがなくて、えと、その……」
悪い誘いではないのだけど、お金が無い。リクシャリアさんにもらったお金は全部パルフェにおいてある。
「あら、それは気にしなくとも大丈夫ですよ。妹が迷惑をおかけしたお詫びとでも思ってください。」
どうやらイリスさんがお金を出してくれるらしい。僕はそれならばお言葉に甘えてと行くことにした。
「それに、こんなに可愛らしい女の子への投資はきっと有益でしょうから。」
……これは、非常にマズいのでは?
誘いに乗ってしまった以上断るのも忍びない。そして、男だと主張してもきっと信じてもらえないだろう。
それに、高校時代に女装なら何度かしている。
うまくやり過ごして、どうにか男だと証明すればいいだろう。
楽観的に考えながら店をあとにし、服屋さんへと向かった。
……ここのコーヒー、おいしかったなぁ。




