2人のケンカ。(第29話)
「申し訳ありません騎士長。あの状態になった騎士長は、手がつけられないので。」
「私が猛獣かのような言い方ではないか。やはり、アイヴィスには少し灸を据えなければいけないかもな。」
アイヴィスさんとリクシャリアさんと僕が出会った直後、僕達の雰囲気は険悪になっていた。
先程まで見えない何かで繋がっていた、絆とでもいえばいいのだろうか。そんな2人が今は、喧嘩を始めてしまいそうな雰囲気になっていた。
「なぜですか?私は凛君を守るために、然るべき対応をしただけ。と考えているのですが。」
「私がリンに危害を加える、そう思っているのだな。すまないが、危害を加えるつもりなど毛頭ないぞ。」
まずい。2人を止めないと、2人の仲に亀裂が入ってしまうかもしれない。そうなっては、パルフェの経営にも影響が出てしまうかも。
「あ、あの…2人ともっ……」
「リン、今は少し黙っていてくれないか。」
「凛君。この場に凛君の入る隙間はありません。」
リクシャリアさんから送られた視線はいつもより冷たく、アイヴィスさんに関してはこちらを向いてすらくれなかった。
察しの悪い僕でも、今の状況は生半可な気持ちで干渉してはいけないと言うことが分かった。
リクシャリアさんは恐らく、リクシャリアさんを放って市場に出たことについて怒っているのだと思う。
僕がリクシャリアさんに頭を下げればいいだろうか。いや、そんな事で解決するわけもない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう……。
「そもそも、騎士長は何についてお怒りなのですか?私の口の聞き方でしょうか。それとも…騎士長を放って市場に出たことですか?」
アイヴィスさんは僕の知りたいことをリクシャリアさんに聞いてくれた。アイヴィスさんの口の聞き方なら僕は見守るだけ。市場に出たことなら強引にもリクシャリアさんに謝罪する。リクシャリアさんが望むなら、土下座でも何でもする。
「まぁ、それもあるのだが…最も大きな原因は、もっと別だ。」
なんだって。口の聞き方でも、市場に出たことでもない。となると、怒っている原因としてあと考えられるのは……何……?
「単純なことだ。アイヴィスがリンのことを、独り占めして手篭めにしていようとしたからだ。」
アイヴィスさんが手篭めに?独り占めに?僕のことを?
嘘だ。さっき始めてあったばかりの相手を、手篭めにしようなんて思うだろうか。しかも、アイヴィスさんのようなしっかりした人が。
「気づかないリンも大概だがな。リン、覚えておくといい。」
リクシャリアさんはそう前置きして、アイヴィスさんのことを話し始めた。
「アイヴィスは気に入った相手をオトすときに、天然を装ってスキンシップを図る。何せこの美貌だからな、これだけで落ちる人は多いさ。」
信じられない。アイヴィスさんが、僕をオトそうとしていたなんて。
今思い返してみると、アイヴィスさんのやっていたことはリクシャリアさんの言っていたことに合致する。
恋人繋ぎをしても嫌な素振りを見せなかったし、僕のおでこに手を置いてきたり、至近距離から覗き込んだり手を繋いだりしていた。
「…バレないようにはしていたのですが、こうなっては仕方ありませんね。」
「凛君。私はあなたの事を狙っています。そして、確実に手に入れてみせます。たとえ凛君が、騎士長のモノになったとしても……」
アイヴィスさんから向けられた視線は、前のような優しい視線ではなく、獲物を狙う鷹のような視線だった。




