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驚きとわくわくと。(第27話)

アナウンスが終わると、観客席の照明が落ち、舞台上にいる楽団員たちを際立たせた。


タクトがすっと指揮者の前に掲げられ、会場全体の空気が一変し、皆曲に耳を傾ける体勢に入った。



曲は、日暮れ頃の沈む太陽に煌めく海のような、少し切なげなイントロに始まり、ほんの少しの盛り上がりを見せた。


きらきらとした情景もつかの間、クラリネットを始めとする楽器軍が鋭いフレーズを奏で、場面は一変海の荒々しさを彷彿とさせる。



いつしか僕はこの曲の世界観に夢中になり、市場から覗いていた海の輝きを思い出していた。


曲が華やかなフィナーレを迎えると、観客たちは一斉に大きな拍手を送った。

指笛やブラボーの歓声が入り交じり、会場は熱気に包まれた。


少しすると拍手は鳴り止み、再びアナウンスが流れ始めた。


「非常に大きな拍手、誠にありがとうございます。さて、続いてお送りする曲は『天からの贈り物』でございます。華々しい音色と華麗な合唱にご注目くだされば、と思います。」


先ほどと同じく、照明が落ちた。


─────



「いやぁ、素晴らしかったなっ!」


全ての曲の演奏が終わり、観客たちは皆それぞれの動きを見せた。


その中で僕達は席に少し残り、感想を述べあった。


「そうですね。何度か演奏は聞いたことがあるのですが、ここまで心に響くものは初めてでした。」


リクシャリアさんの感想に続けて、アイヴィスさんがそう言った。

2人とも幸せそうな笑顔をして、心から楽しんでいたのだということが分かる。


「さぁ、2人とも。買い物の続きと行こうじゃないか。」


リクシャリアさんはそう言うと椅子から素早く立ち上がり、僕が立ちやすいよう手を差し伸べてくれた。

僕はそれを甘んじて受け入れ、リクシャリアさんの手を掴んだ。するとリクシャリアさんは勢いよく僕の腕を引き、半ば強引に抱きしめてきた。


「りっ、リクシャリアさんっ!?」


「いいではないか。少し抱きつきたい衝動に駆られてな。」


リクシャリアさんは僕を抱きしめたままそう言った。身長差によって、頭部がちょうど胸の部分に……


「騎士長。言葉だけ聞くとただの変態ですよ。……まぁ、いつもの事ですが。」


アイヴィスさんが、半ば呆れた声でリクシャリアさんに言った。やはり、少しばかり辛辣だ。


「む、いつもの事とは人聞きが悪いな。何度も言うが、節度は弁えているつもりだぞ?」


「弁えていないからこそ言っているんですよ。ほら、凛君が困ってるじゃないですか。」


アイヴィスさんにぐっと腕を引かれ、リクシャリアさんと同じように抱き寄せられた。そこまで身長差もないので、今度は鎖骨あたりに顔が来ることになる。


「……そういうアイヴィスこそ、リンのことを抱きしめているではないか。」


若干ジェラシーの混じった声色で、リクシャリアさんは抗議した。とても21歳とは思えない、子供のような声だった。


「た、確かにそうですが……とにかく、騎士長はもう大人なのですから。もう少し我慢を覚えてください。」


まるで母親が子供を諭すかのような言い方だ。


だが、大人といっても2人の年齢差はせいぜい2歳程のはずだが……


「大人にも癒しは必要なのだぞ?まぁ16歳の娘にはわからんだろうがなっ!」


思わず耳を疑ってしまった。16歳?

こんなにも大人びたアイヴィスさんが、16歳?僕より2つも年下?


「じゅ…16歳……なんですか……?」


「え?はい、そうですが……そういう凛君はいくつなのですか?」


想定外の質問返し。僕は思わずまごついてしまった。


「えっ!?えっと……18、です……」


「ほう……18とな?18なのにそのような体つきとは…………萌え要素満載ではないかッ!」


リクシャリアさんの目の色が変わった。じりじりとこちらににじり寄り、獲物を狙うかのように狙いを定めている。


「はぁ……凛君、こうなった騎士長はしばらく戻りません。逃げますよ。」


アイヴィスさんはひょいと僕を抱き上げ、お姫様抱っこのまま会場から飛び出していった。


年下の女性にお姫様抱っこをされるだなんて、リクシャリアさんにされた時以上の恥ずかしさがこみ上げてくる。

顔からは火が出て、そのせいでうまく言葉が紡げない。


「そ、そのっ……あ、アイヴィス……さんっ……」


「お静かに。あの状態の騎士長に捕まると、騎士長の満足いくまで愛でられ続けてしまいますよ。」


まるで僕なんか抱いていないかのような軽やかな足取りで、アイヴィスさんは市場を駆け抜けていく。

撹乱するために路地裏に出入りを繰り返したりして、ようやくリクシャリアさんを撒くことが出来た。


「ふぅ……凛君は軽いですね。しっかりご飯は食べてますか?」


「た、食べてますっ!」


ゆっくりと地面に下ろされた後、僕はアイヴィスさんに手を引かれて再び市場を散策し始めた。


……そういえば、アイヴィスさんと2人きりになるのは初めてだ。

なぜだか分からないが、2人きりだと考えた瞬間嬉しさと恥ずかしさが同時にこみ上げてきた。


「どうしました?ほら、行きましょう。」


年下のアイヴィスさんにエスコートされながら、僕は賑わう表通りへと戻っていった。

言い訳無用。すみませんでした。

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