この世界の音楽。(第26話)
太陽が頭の真上に来た、正午。
城下楽座にいる人々の視線と足は、城下楽座の最奥にある舞台へと向けられていた。
「あ、あの…アイヴィスさん、何故、皆はあっちに向かっているのですか?」
「……あぁ、そういうことですか。」
アイヴィスさんは辺りを少し見回し、僕にことの詳細を伝えてくれた。
「演奏会があるのです。なんでも、不可侵領域の先にある国から伝わった音楽だそうで。」
音楽。その言葉を耳にするだけで、僕の体は疼いてしまう。
僕は中学、高校と吹奏楽部に入り、音楽を身近に感じられる環境にいた。
その影響もあって、パルフェで流す音楽なども、吹奏楽の物が多かったりする。
「なるほど……り、リクシャリアさん。その…演奏会を、見に行きませんか?」
「ん?あぁ、いいぞ。……ほら、行こうではないか。」
リクシャリアさんは僕の手とアイヴィスさんの手を優しく掴み、演奏会の会場へと足を進めて言った。
「……流石に、人が多いですね。まぁ、無理もないでしょうが。」
アイヴィスさんは軽いため息をついて、どこか手頃な席はないかときょろきょろし始めた。
「む、アイヴィス。あそこに丁度、3つ席が空いているぞ。」
「本当ですね。ありがとうございます、騎士長。」
アイヴィスさんとリクシャリアさんは、たまたま空いていた席へと歩いていった。
この2人の後ろ姿をしっかり見たのは、初めてかもしれない。
片や赤いウェーブの掛かった髪を持つ、この国の王族騎士団の長。
片や青い髪を肩ほどまで伸ばした、リクシャリアさんに仕える「瀟洒」という言葉が似合う女性。
その2人が横並びに歩き、談笑する姿は、ついつい目を奪われてしまいそうになるほど、画になっていた。
「凛君、早くおいでください。席が無くなってしまいますよ。」
「はい、今行きます。」
「そろそろ、だな。リン、アイヴィス、便所は行かなくて大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「っ……だ、だからだなっ……その笑顔は、反則だと何度もッ……」
いつも通りのやりとりをしている内、舞台の幕が上がった。
その舞台の上にいた楽団は、吹奏楽団であった。
『本日は、我々の演奏会へとお集まりいただき、誠にありがとうございます。演奏曲、そして我々の事については、入口で配布されていたパンフレットをご照覧下さい。』
どこからともなく、アナウンスの声が流れ始めた。すっと耳に馴染み、聞き取りやすい声だった。
『それでは、早速1曲目へと参りましょう。』
『本日1曲目にお送りする曲は、はるか東の国から不可侵領域を超えて伝わった、《吹奏楽のための音詩 輝きの海へ》でございます。太陽や月の光によって煌めく海の美しさを表現した、様々な描写にご注目下さい。』
日本で作られた曲が、何故ここに伝わっているのか。謎が謎を呼ぶが、今の僕にそんな考えは巡ってこなかった。
3ヶ月とちょっとぶりですね。前回精進しますとか言っちゃって恥ずかしい……
本文中に出てくる、『吹奏楽のための音詩 輝きの海へ』は実在する曲です。本当に美しく、心が洗われるような曲なので1度聴いてみてくださいね。YouTubeで調べればいくらでも出て来ます。




