この世界の海と、お金の価値。(第25話)
美しい海を見ながら進んでいった先に、城下楽座は見えてきた。
人々の笑い声や、安売りをアピールする商人たちのよく通る大きな声。
プラセーノ公国で最も栄えている城下楽座へと、僕たち三人は足を踏み入れた。
「…すごいですね。ここまでにぎわっているとは…」
僕は率直な感想を述べた。するとリクシャリアさんはこの市場がにぎわっている理由を僕に説明してくれた。
「ああ。この時期は特ににぎわっていてな、世界を股にかけると言われている、行商組合団が今はこの国で商売をしているからな。」
行商組合団。僕の生きていた現代日本ではまず聞かないワードで、僕の頭に疑問を残した。
「行商組合団というのはな、その名の通り様々な国や地域で行商している団体のことだ。2年に一度、6か月間その国で最も栄えた市場にとどまり、以前いた土地の特産品などを売ってくれるのだ。」
「世界各地を……でも、船を使って貿易したりはしないんですか?」
「貿易はするさ。陸続きの国や近くの島国とはね。でも、海の向こう側には行商組合団以外誰もたどり着くことなど出来ない。」
「誰もたどり着けない…って、ただまっすぐ行けばいいんじゃ…」
まるで言っている意味が分からなかった。過去の僕のいた地球でさえ、大航海時代には世界一周が達成されていたはず。なのに海を渡ることすらできないとは、いったいどういう意味なのだろうか…
「……今はそんなこといいじゃないですか。凛君、今は買い物を楽しみましょう?」
アイヴィスさんが少し深刻そうな顔で僕を諭した。この世界には、なにか大きな禁忌があるのだろうか。
この「異世界」のすべてが詰まった、パンドラの箱の正体が。
「不可侵領域…この単語だけ、覚えていてください。いつかこの言葉の意味を知る意味が来るでしょうから。」
活気にあふれかえった城下楽座の中で、僕は青く澄み渡った海を見つめ、アイヴィスさんに教えてもらった「不可侵領域」という言葉を反芻していた。
「ははっ!リン、こんなものまで売っているぞっ!」
リクシャリアさんはまるで子供のようにはしゃぎまわり、城下楽座の店に並べられたなんとも奇妙な形の果物…らしきものを見つけ、僕に声をかけた。
「なになに……エヴァンゲール。やわらかくほぐれるような果肉の食感と、とろっとした甘さが特徴の果実。値段は……100モント?」
僕はまたしても、この世界の未知に出会った。この世界の通貨単位であるモントとは、日本円に換算するとどうなるのだろうか。
「なっ、100モントだとっ!?ただの果物に…このような値が…」
どうやら100モントは、果物の相場にしてみればかなり高い部類に入るらしい。
「ただの果物たぁ聞こえが悪いな。このエヴァンゲールはツバイ王国だけで採れる貴重な果物。収穫量も少なければ、俺らの手に回ってくる量はもっと少ねぇ。これくらいが妥当ってもんよ。」
なるほど。値段だけ鑑みれば、現代日本におけるドリアンや宮崎県のマンゴーのようなものだろう。両方結構高い。
過去に宮崎県の高価なマンゴーを取り寄せてパイにし、数量限定で販売しようとしたことがあったのだが、あまりにも高く挫折。なんたって一粒4500円、とても手の届くような値段ではなかった。
「むぅ……そうか、なら仕方ないな…また今度、買わせてもらう。」
リクシャリアさんが店主らしき人に向かいそういうと、店主さんはにこっと笑顔になり、
「そうかい!そりゃあありがてぇこった!ハハッ!」
店主さんの笑顔を背に、僕たちは再び城下楽座を回り始めた。
次に見つけたのはトマト。名前もトマトとなっている。ありがたい限りだ。
値段は10モントと書かれている。見た感じ1kgくらいありそうだった。
トマトは大体1kgで約500円ほどだったはずなので、1モントは日本円に換算して約50円。そう考えると、さっきのエヴァンゲールは約5000円。かなり高かった。
思わず僕が早とちりして買ってしまっていたら大後悔の嵐だっただろう。
僕は今日、プラセーノ公国の通貨のレートを知ることができた。
いやーすみませんでした。1か月半放置ですね。
精進します。ほんっとに!




