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店主の物思い。(第21話)

「凛君、ごちそうさまでした。」


一番最初にアイヴィスさんが食べ終え、お皿を僕の元に渡してくれた。

アイヴィスさんはいつにもましてやわらかい笑顔を浮かべていて、僕のカフワとショートケーキで満足してくれたのだな、と思えた。


「お粗末様でした。アイヴィスさん、口には合いましたか?」


「はい。この飲み物にあるまろやかな口当たりと、苦みの中に際立ったうまみが癖になりそうです。」


かなりしっかりとした内容の食レポをしてくれて、僕は少し照れてしまった。お客様に面と向かって褒めていただける、というのはなかなか体験したことのない出来事だったからだ。


「ありがとうございます。」


僕は素直で、率直なお礼の言葉を述べた。しっかりと心を込め、笑顔でアイヴィスさんに言った。



僕は幼いとき、笑顔や人と触れ合う、ということは大の苦手だった。

幼稚園、小学校、中学校はろくに友達もおらず、孤独な日々を送り、パルフェでの仕事も掃除くらいしかさせてもらえなかった。

人と触れ合う、ということができるようになったのは、高校生になってからだった。中学校から環境がガラッと変わり、今までの人間関係を一新できたからこそ、人と触れ合えたのだ。


それでも、笑顔だけはうまくできなかった。なにか面白いことに遭遇しても、周りに同じ高校の生徒がいると笑えなかった。

素直に笑えるのは、独りでいる時だけだった。


でも、今は違う。様々な人に出会い、触れ合い、いろんな人から生き方を学んだ。笑顔になる方法も知ることができた。

本当に感謝している。両親や修じぃ、パルフェに来ていただけるお客様から様々な愛をもらえた。

愛をもらえたからこそ、今の僕がある。


「どうしたリン。物憂げな顔をしているが…何か悩みでもあるのか?」


こうして悩みを聞いてくれる人もいる。悩みを打ち明けられる人がいる。

そんな小さな幸せが積み重なり、やがて大きな幸せとなる。


「いえ、大丈夫です。少し、物思いにふけっていただけですから。」


様々な人と出会えたおかげで作れるようになった笑顔で、リクシャリアさんに返事をする。


「物思いか…。なるほど……リン、物思いにふけるのはいいが、もう少し周りを見ながら物思いをしたほうがいいと思うぞ?」


リクシャリアさんの一言に、僕は少し背筋をひやっとさせる。

忘れかけていたが、今のパルフェは開店している状態、つまりお客様が入ってこられるということだ。


ゆっくりと視線をドアに向ける。現在の状況を確認しなければ。



入口の近くでは、大勢の人々が興味深そうに店内を見つめていた。

どうしたらよいのだろうか。店内にご案内する?それとも話しかける?

必死に頭を回転させていると、リクシャリアさんが僕に提案をしてくれた。


「…さて。リン、少しばかり散歩でもしてみるか?自分の店がどのようにあるか知らずに経営するわけにもいかないだろう?」


僕はリクシャリアさんの提案を受けいれた。

この判断が正しかったかどうかは、僕にも全く分からない。



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