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これから始まるミライ。(第20話)

「なんで…なんで修じぃがここに…?!」


驚愕。それ以外の感情は全く出て来なかった。とっくに死んでしまったと思っていた祖父が生きていた。それも僕にとって未知の世界、プラセーノ公国で。さも何もなかったかのように生きていた。


「話すとかなり長くなるぞ?それでもいいなら話す。」


僕はごくりと生唾を飲み込み、小さく頷いた。

これで、修じぃがどういう理由でこの世界に来たかわかる。来た理由が分かれば、日本に帰る足掛かりになるかもしれない。


「ちょっと待ってくれ。ご老人、あなたはリンとどのような関係なのだ?それを話してほしい。よろしいな?」


「ワシか。ワシはこいつの爺だ。それ以上でもそれ以下でもない。」


淡々とした、いかにも修じぃらしい説明。だがその説明ではリクシャリアさんが納得するわけもなく、


「申し訳ないが、それだけではきちんとした理解をするための情報が少なすぎる。もう少し、詳しくお願いしたい。」


店内に漂う、少し険悪なムード。この店でこんなムード、あってはならない。パルフェはみんなが笑顔になれる場所でなければいけないのだから。


「り、リクシャリアさん。修じぃっ。ちょっとだけ落ち着いてください。ね?」


2人の間に勇気を出して割り入り、なんとか制止した。

つもりだった。


「リン。これは私とこのご老人との問題だ。少し、黙っていてくれないか。」


リクシャリアさんは真剣な顔でこういった。さっきまでとは想像もつかない凛とした顔で。

ただ、行為だけはいつも通りだった。


「…騎士さん。なぜあんたは凛を抱き上げてるんだい?」


そう。リクシャリアさんは口でまじめなことを言いながら手はいつも通りのことをしている。

具体的に言うと、僕のことをお姫様抱っこしている。正直、どっちが本物のリクシャリアさんなのか全く持って見当がつかない。


「リンをあなたに渡さないようにするためです。なんたってリンは、私の可愛い可愛い娘のようなものなのだからっ!」


本気で何言ってんだこの人。修じぃも完全に呆れている。というか、娘って…


「と、とりあえずっ。僕は修じぃ…この人の孫です。本当に、それだけですからっ。」


「そうか…リンが言うのならそうなのだな…」


あっさりと認めたリクシャリアさん。なんだかんだ、お互い甘すぎる気がする。

僕をゆっくりとおろしたリクシャリアさんは、修じぃに深々と頭を下げて謝罪の言葉を述べた。


「ご老人。リンのお爺さまとは知らず無礼な態度をとってしまい、誠に申し訳なかった。」


ぴっしりとした90度。形式だけでなく、心からの謝罪の念が込められていると傍から見てもわかる謝罪だった。


「構わんよ。リンに対する扱いについて少し疑問は残るがね…」


ほらやっぱり。あぁいうのはホントにダメです。リクシャリアさん気を付けてください。

心の中で少しリクシャリアさんを咎め、すぐさま2人に向き直る。


「リクシャリアさん。修じぃ。それと、アイヴィスさんも。こちらの席にお座りになってください。」


三人を半ば強引にカウンターに座らせる。僕がコーヒーを淹れる場所の目の前だ。

アイヴィスさんは何事もなかったかのようにカメラをいじり、修じぃは飄々としている。リクシャリアさんは、頬をぷくーっと膨らませながらそっぽを向いていた。


「そんな顔しないでくださいリクシャリアさん。せっかくの綺麗な顔が台無しですよ?」


僕がミルで豆を挽きながらそういうと、リクシャリアさんは顔を真っ赤に染めた。


「なっ…き、綺麗…?いやいやそんな…で、でもリンが言ってくれているのだから………自意識過剰はいけないな…いやでも……」


ダダ漏れ。僕でも心の声は外に出さないというのに。全部全部漏れている。

なにはともあれ、修じぃに出会え、リクシャリアさんと修じぃの喧嘩も収まった。

これだけで、コーヒーはぐっと美味しくなる。


「リクシャリアさん、アイヴィスさん、修じぃ。お待たせしました。パルフェ謹製のカフワです。」


ショートケーキも添え、パルフェ一番人気のケーキセットの完成。

食べた人が笑顔になり、それをみてまた僕も笑顔になる。最高のメニューだ。


「「…いただきます。」」


リクシャリアさんとアイヴィスさんは丁寧に手を合わせ、ゆっくりと食べ始めた。


「凛。しばらく見ないうちにうまくなってるじゃないか。」


修じぃからは称賛の言葉。

これほど幸せで、和やかで、都会の喧騒やしがらみから隔離されている場所は世の中にいくつあるだろうか。

僕はこの空間を、都会の喧騒やしがらみを忘れることができる空間だと自負している。

自負しているからこそ、この店、この空間を守らなければならない。

時にはつらいことも苦しいこともある。だがこの空間が忘れさせてくれるのだ。


これから来るミライなんて想像すらできない。でも、心の癒しとなる空間は存在する。


今、僕の目の前に。

この空間に存在するのだから。



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