ようこそ喫茶店へ。(第18話)
「とりあえず……お客様が入店できる状況にしないと……」
よくよく思い返してみれば、ここにやってきてしたことと言えば
『僕が起きて朝ご飯を作る』『店を開けようと思ったら、リクシャリアさんたちが入ってきた』
くらいなのだ。
一番重要な、「開店」をすっかり忘れていた。
「そういえば……凛君、この国のお金はまだ持ってませんよね?」
「はい……あっ。」
さらにもう一つ、重要なことを忘れていた。ここは日本ではなく、プラセーノ公国なのだ。もちろん日本円が流通しているわけもない。
曲がりなりにも、このパルフェは第三次産業に属する。そのため、お金は大事だ。
つまり、僕は現地で流通しているお金を持たずに商売を始めようとしていたのだ。ああ愚か。
「えっと……両替を……でも…貨幣価値が分からないし……」
「リン、何を困っている?……そうか、コレだな?」
リクシャリアさんが親指と人差し指で丸を作る。かなりいやらしいポーズだ。それに、このサインはこっちでも認知されているのか……
「恥ずかしながら…はい……」
「そうかそうか……では、この私がリンに恵んでやろう!」
どさっ、とリクシャリアさんは袋を床に落とし、じゃら、というおそらく硬貨のものであろう金属音が鳴った。
「えっ……い、いいんですか……?」
ずっしりと重い袋を持ちながら僕がおそるおそる言うと、リクシャリアさんは少しばかり…いや、結構なドヤ顔をして言い放った。
「当たり前だ。私を誰だと思っている?それ以前に、困っているものには手を差し伸べる。当たり前のことであろう?」
リクシャリアさんは柔和な笑みを浮かべ、優しく言ってくれた。
不覚にも、少し瞳がうるんでしまった。
「ありがとうございます…いつか、このお金は倍にして返してみせます!」
「そうか。なら、期待して待たせてもらうぞ?」
普通の人ならお世辞にも遠慮するところを、リクシャリアさんはそんな素振りも見せずにこう言っくれた。
この優しさ、豪気さがあるからこそ皆から信頼され、騎士団長まで上り詰めることができたのだろう。
「さて……リン。これから私たちは何をすればいい?労働をすればよいか?」
「いえ…。リクシャリアさんたちはお客様としてゆっくりしてください。もう一度、僕自慢のカフワを皆さんに振る舞いますから。」
せめてもの恩返しとして、これくらいはするべきだろう。とりあえず今は、みなさんに喜んでもらいたいのだ。
今日は何人お客様が何人来てくださるかわからないけれど。カフワがこのプラセーノ公国の方々の口に合うか分からないけれど。
それよりも今は、リクシャリアさんや騎士さんたちにお礼がしたい。
店の一つの顔である、アガチスの木で出来たドアを開けた。
「ようこそいらっしゃいました。純喫茶『パルフェ』へようこそ。」
異世界喫茶店、開店です。
なんか終わったみたいになってますが、もちろんまだまだまだまだ続きますよ?




