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「そういや、おまえの呪いの印ってどんな模様なんだ?知らねーと調べられないじゃねーか。」
「……まぁ、そうなんですけど、確か印って胸元に……」
シオンは窺うようにシャルティアに目を向けた。
シャルティアは気分を害した様子もなく、相変わらずニコニコと笑っている。
「ふふふ、そうだね。見る?」
そう言ってシャルティアは胸元をはだけさせ始めた。
ガルはギョッとした。
「いや!?おいっ!」
ガルは少し焦った様子でキョロキョロしている。
また深く考えずに発言したなとシオンは思った。
「ふふふ、大丈夫大丈夫。これだよ。」
シャルティアは胸元を開けて見せようとするが、ガルは視線を逸らしたままである。
実際シャルティアの印は鎖骨の下、胸の上にあるので、見せてもそれほど問題はない。
「あー、見た見た。見たから服を着ろ!」
ガルはチラリと一瞬だけ視線を向けてすぐに逸らした。
面倒くさそうに声を荒げるその顔は微かに赤みを帯びていた。
「はぁ、からかうのはそのくらいにしてあげてください。」
「意外と初心なのね。」
おかしそうにシャルティアは服を元に戻す。
「それにしても、珍しい模様の印ですね。これはおもしろくなりそうです。」
シオンはしっかり印を見たようである。
シオンはガルと違ってこの程度のことでは動じない。
呪いや暗号などの形には一定の規則性があるものが多い。
そういうものには特定の民族性や宗教性が出るはずなのである。
シャルティアの印はシオンでもまるで検討がつかないほど珍しいもののようだ。
シオンは未知の呪いの出所に思いを馳せているようである。
「とりあえず、そんなことぐだぐだ考えてる暇はねーぞ。まずは追手を撒くのが先だ。」
「そうだねぇ。私たちお尋ね者になっちゃったみたいだからね。」
「"私たち"ではなく、私とガルがお尋ね者になったのです。」
なぜ彼らがお尋ね者になったのかというとシャルティアが呪いを受けたことを公にできないことに起因している。
シャルティアの呪いは彼女自身が誰からか恨みを買ったわけではなく、況してや人の手によるものではない。
だが、世間はそうは思わない。
そのため、シャルティアとセレーナ王家の威信を守るため、呪いのことは決して公表してはならぬというのが王や重臣の考えである。
よって、ガルとシオンという無法者がシャルティアを攫ったことになっているのである。
「おまえのせいで世間じゃ俺たちは今や姫を攫った女好きだぜ。」
「実際には女好きどころか胸元の印も直視できないのにねぇ。」
シャルティアはおかしそうにクスクス笑った。
ガルは恨めしそうに舌打ちして言った。
「ちっ、呑気に笑ってる場合か。ほんっと割りに合わない仕事だぜ。」
ガルはからかわれたことが気に障ったようだ。
「私なんかが報酬じゃ割りに合わないってこと?」
シャルティアは相変わらずクスクス笑っている。
「そんなことはありませんよ。」
シオンはにっこりと愛想笑いをして言った。
「こんなおもしろそうな仕事はそうそうありません。しかも、あなたが手に入ればいろいろと手に入りますしね。」
これが本心のようである。
シオンは手に入る"報酬"の価値をしっかりわかっているのだ。
そして、これほど己の知識欲を沸き立てさせる仕事はないと確信した。
この仕事を受けた過去の自分の判断は間違っていなかったのだ。
シオンはガルと違っていろいろ計算した上でこの仕事を受けたのである。
「んなことよりも、ちゃんと骨があるやつが追ってくるんだろぉーなぁ?俺は調べ物なんかより暴れてぇんだからよぉ。」
「心配しなくてもあなたたち二人にそんな柔な追手は寄越さないはずよ。それに調べ物をしていれば森に入ることもあるでしょ?そこには強いモンスターがうじゃうじゃいるはずよ。」
「へぇー。そりぁ、楽しみだな。」
ガルはニヤリと笑って心底おもしろそうに言った。