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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第二十四話  立ち往生

 ウィルサムと所属不明の軍とが争った地域を避けて、まっすぐにガランク貿易都市に続く街道へ出る。

 車両が四台並んで走行しても十分な幅のある街道だが、夕暮れを過ぎて夜の闇が幅を利かせる今時分は通行量も少なかった。

 光の魔術で地図を照らし、現在地を割り出す。


「日付が変わる前にはガランク貿易都市に到着できそうだな」

「いまからだと宿も埋まってると思うけどね」

「もともと泊めてもらえるかは分の悪い賭けだろ」


 話しながらガランク貿易都市へとディアを進める。

 街道は石畳で舗装されており、ディアとパンサーが石畳に足を下ろす度にカツカツと固い音が鳴る。


「流石は貿易都市っていうだけあって、交通網も整備されてるね」


 ミツキが足元の石畳を見て感心したように言う。

 そもそも幅三十メートルはありそうな整備された街道なんて俺は新大陸に来て初めて見た。


「貿易港だったデュラ周辺の街道でもここまでの幅はなかったよな」

「権利関係で揉めてたらしいよ。一度、立ち退き料が払えないから融資してくれって言われたもん」

「十代前半の少女に金を借りようって発想が凄いな」

「デュラでも五本指に入るくらいお金をだぶつかせてたからね」


 引き籠りだし、とミツキが笑う。

 引き籠りが金を持っていても、宝の持ち腐れということだろう。経済を回すという意味では、融資を頼むのも悪い選択ではなかったのかもしれない。

 話しながら街道を進んでいると、道の先に運搬車両が止まっているのが見えた。

 野宿を選択するには半端な場所という事もあって、俺たちは警戒して足を止める。

 遠目にも魔術による光がうろうろと所在無げに揺れているのが確認できた。


「なんだ?」

「護衛の姿もないみたいだけど、これだけ整備されている街道なら心配ないって事なのかな」

「すぐそこにテイザ山脈があるんだ。護衛を一切連れてないってことはないだろ」


 目視する限り、運搬車両の他には何もない。どこかの小規模な開拓団だとしてもこんなところで停車している理由が分からない。

 ディアの索敵魔術で周辺を探る。


「一人?」

「車両の中にいるって可能性もあるけどね」


 相談のうえで、警戒しながら近づくことにした。

 いつでも加速して逃げだせるようにレバー型ハンドルを握り、俺を先頭に運搬車両へ近づく。

 ディアの足音を聞きつけたのか、うろうろしていた魔術の光がぴたりと止まった。

 光に照らし出されているのは若い商人風の男だ。青年と言ってもいい年齢である。

 ディアを見て、青年商人はびくりとしたが、背中に乗る俺を見て反応に困ったような顔をした。


「どうかしたんですか?」


 危険な人ではなさそうだと思いながら、俺は青年商人に声を掛ける。

 青年商人は怪しむように俺とディアを見比べて、口を開いた。


「故障してしまって、ここから身動きが取れないんです」


 青年商人の言葉に拍子抜けして、俺はため息を吐く。


「直せないんですか?」

「機械には明るくなくて……」


 青年商人は途方に暮れたように整備車両を見て、肩を落とした。

 危険はないと判断したミツキがパンサーを操作して俺に並ぶ。


「護衛が見当たりませんけど、街へ助けを呼び行ったんですか?」

「……なんでそんなことを聞くんですか?」


 警戒を深める青年商人に苦笑する。

 どうやら、俺たちを野盗か何かだと思っているらしい。


「このままここに居られても通行の邪魔になりますし、護衛がいないのならこんな場所で野宿するわけにもいかないでしょう? 直せるかどうかわかりませんけど、故障個所の発見くらいは出来ますよ?」


 俺が提案すると、青年商人は一瞬目を輝かせ、逡巡するように俺とディア、ミツキとパンサーを見比べる。

 信用できるのか、おかしな細工をされないだろうか、そんな心配をしているのが手に取るようにわかる。

 失礼なことだ。獣型に改造することはあっても壊すことは絶対にないというのに。


「余計なお世話なら、俺たちはこのまま立ち去ります」


 ディアを進めようとしたその時、パンサーが唸った。

 鉄の豹が唸ったために青年商人が怯えたような顔をするが、かまっている暇はない。

 直後にディアが鳴いた。


「右側から来るな」


 パンサーが先に反応したことから、ミツキのいる右側から何かが来ると判断して、俺は対物狙撃銃を下ろす。

 ミツキが自動拳銃を構えた。

 足音がない事を考えると、相手は小型か中型の魔物、もしくは人だろう。

 スコープ越しに覗きこむと、暗い森の中に月明かりを反射してぼんやりと浮かび上がる白い人型魔物の姿が見えた。


「スケルトンか」


 スケルトン種の中でもオーソドックスな、体長一メートル五十センチほどの小型魔物、スケルトン。

 等身大の骸骨が二体、こちらに向かってくる。

 精霊人機の遊離装甲に当たる魔術が常時展開されているためか、スケルトンが歩くと周囲の枝葉が見えない手に押しのけられるように動く。

 街道に出てきたスケルトンの姿を見て、青年商人が慌てて運搬車両の荷台に飛び込んだ。

 荷台に隠れただけでスケルトンをやり過ごせるとは思えないのだが、抵抗する気概はないらしい。


「ヨウ君、ちょうど良い機会だから自動拳銃で撃っていい?」

「効くかどうか見た方が良いしな。跳弾には気をつけろよ」


 ミツキが頷いて自動拳銃を構え、森を出てこちらに向かってくるスケルトンに狙いを定める。

 パンッと乾いた音と共に発射された自動拳銃の銃弾はスケルトンには当たらず、背後の木の幹に穴を開けた。

 ミツキが首を傾げながら、再度狙いを定めて発砲する。

 しかし、またもや銃弾はスケルトンに命中せずに後ろの森の葉を数枚落とし、環境破壊に貢献するだけだった。

 ミツキが二発も外すのは珍しい。


「ねぇ、ちょっとヨウ君も撃ってみて」

「自動拳銃で、だよな」


 護身用に持っている自動拳銃を構えて、スケルトンの頭を狙って引き金を引く。


「――あれ?」


 銃弾はスケルトンに当たらず、ミツキが放ったものと同じように背後の幹を穿った。

 続けざまに二発目を放つが、結果は同じだ。

 まさか、と思いながら自動拳銃をホルスターに仕舞い、対物狙撃銃をディアの角に乗せる。

 引き金を引くと、スケルトンの頭がはじけ飛んだ。

 途端に、スケルトンの体は支えを失ったようにばらばらと地面に落ちる。

 もう一体のスケルトンも同じように対物狙撃銃で頭を吹き飛ばした。

 さて、これらの結果から考えられることは何だろうか。


「遊離装甲の魔術のせいで銃弾の軌道が逸らされてるね」


 スケルトンの周囲を覆う魔力膜により、生半可な速度や重量の銃弾では軌道が逸らされてしまうらしい。

 荷台に隠れている青年商人に危機は去った事を告げ、俺は撃ち殺したスケルトンの残骸を確認する。

 スケルトンの頭蓋骨は完全に砕け散っている。対物狙撃銃でなくても、自動拳銃の弾が当たれば砕ける程度の強度だろう。

 やはり、問題となるのは魔力膜の存在だ。


「もしも交通訴訟賞に対物狙撃銃で攻撃を仕掛けたとしたら、魔力膜で逸らされて打つ手なしだったかも」

「ケンカ売らなくて正解だったな。ところで、名前は交通訴訟賞で決定なのか?」

「決定です。誰がなんと言おうと!」


 ミツキが拳を星空へ突き上げる。


「まぁいいや。それにしても、この魔力膜は厄介だな」


 おそらく、相応の重量と大きさがあるロックジャベリンなどの魔術を使えば魔力膜の存在は誤差でしかないだろう。

 しかし、攻撃手段を銃に頼っている俺とミツキにとって、常時展開されている魔力膜は最大の防御となる。

 狙撃で不意を打っても常時展開されている魔力膜に銃弾が逸らされるのでは、俺たちのアドバンテージなどないに等しい。

 スケルトン種は俺たちにとって相性の悪い相手という事を念頭に置いて、活動する事にしよう。


「おぉっ本当に倒してる……」


 驚いたような声が聞こえて振り返ると、青年商人が荷台の扉を開けて恐る恐るスケルトン種の残骸を観察していた。


「年の割に良い腕してますね。どこかの有名な開拓団の斥候さんですか?」

「いえ、二人で活動している開拓者です」


 こちらまで鉄の獣の話は届いていないらしい。良い意味でも、悪い意味でも。

 青年商人はちらりと運搬車を見て、俺に向き直った。


「修理を頼んでもいいですか? 謝礼は余り出せませんけど」

「無償でいいですよ。困ったときはお互い様です」


 ミツキに周辺の警戒を頼み、俺はディアの格納部から工具一式を出す。

 青年商人に故障した時の状況や現在の症状を聞き、故障個所の見当をつける。


「一度始動させてください。回転するかだけ確認したいので」


 エンジンが回転するのであれば魔力の供給には問題がない事になる。

 エンジンが回転しない事を確認して、俺は整備車両の下に潜り込むべく、ジャッキアップする。地球のそれとは違い、石魔術で持ち上げるだけの簡単なお仕事だ。

 魔導鋼線に異常はない。切れている事もなければ接続不良を起こしているわけでもない。

 蓄魔石にも異常はなし。


「――と、いうことは」


 蓄魔石から魔力を供給されて回転するエンジン部分を点検する。ちなみにこの運搬車両はMR車だった。まぁ、FFの訳はないよな。


「最後のファンタジーのこと?」

「車の駆動方式のこと」


 ミツキと定番のやり取りを繰り広げつつ、エンジンを点検する。原因めっけ。


「最後に整備したのっていつですか?」

「中古で買った時なので、二年前だと思います」

「もっとこまめに整備点検してくださいね。業者に頼んでもいいですから。さもないと、死にますよ?」


 エンジンの回転部に砂がこびりついている。今までも走行中にかなりひどい雑音がしていたと思うのだが、よく放置できたな。

 この青年商人、神経が図太すぎる。


「何分、機械には詳しくなくて。点検もお金がかかりますし」

「いえ、あなたが整備不良車で事故って死ぬのは構わないんですけど、周りを巻き込むのはやめてください。自殺ってのは一人か、さもなければ同志とやるもんです」


 青年商人の反論を封殺して、俺はこびりついている砂を洗浄液で洗い落す。潤滑油が固まってしまっていて、簡単には落ちそうもない。

 ひとまず動くだけの応急処置だけを終えると、俺は運搬車の下から這い出した。

 ミツキがお湯で濡らしたタオルを渡してくれる。


「ありがとう」

「どういたしまして。惚れ直した?」

「気の利く良い彼女を持って幸せ者だよ、俺は」


 少しばかりいちゃついてから、青年商人を振り返る。

 微妙な顔をしている青年商人に運搬車両が動くようになったことを教え、街についたらすぐに点検するよう勧める。


「点検しないとすぐに動かなくなるので、気を付けてくださいね」


 念を押して、俺はディアに跨った。

 青年商人が頭を下げる。


「助かりました。野宿決定だと思って途方に暮れていたので」


 なら最初から助けを求めればいいのに。いや、精霊獣機に乗っている俺たちを怪しんだのは分かるから口には出さないけど。

 ここ最近は知り合いや俺たちの活躍を知っている人とばかり関わっていたから忘れていたけど、本来の俺たちの扱いって怪しまれるのが標準だ。

 あんまり気分の良い物ではないけど、いちいち目くじら立てていても仕方がない。


「護衛くらいは雇えばいいと思いますよ。今回みたいに立ち往生しても、誰かが助けてくれるとは限らないんですから」

「護衛を雇うにもお金が……」

「……ずっとお金、お金って言ってますけど、そんなに困窮してるんですか?」


 中古とはいえ運搬車を乗り回すくらいだからそれなりに儲かっていると思ったんだけど。

 青年商人はあいまいな笑顔で俺の質問を流し、運搬車両に乗り込んだ。

 ミツキが動き始めた運搬車両を見ながら口を開く。


「このまま先に行くこともできるけど、どうする?」

「あくまでも応急処置で動くようにしただけだから、また故障して動かなくなる可能性が高い。死なれても寝覚めが悪いし、ガランク貿易都市まで護衛しよう」

「そんなに、あの運搬車両の状態って酷いの?」


 ミツキが眉を寄せて車両を見る。


「酷いなんてもんじゃない。よくこの状態で運転しようと考えるよって呆れるくらいだ。サスペンションアームが歪んでて、油圧サスペンションなんてオイル漏れしてる。ハンドル操作にも影響してるだろうな」


 肩を竦めて言うと、ミツキはため息を吐いた。


「借金でもあるのかなぁ」

「俺たちが詮索するようなことでもないさ」


 今晩限りの付き合いだし、と俺は街道の先、ガランク貿易都市を見る。

 運搬車両の護衛をしながらガランク貿易都市に到着する頃にはすでに夜が明けていた。



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