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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第二十一話  バランド・ラート博士の隠れ家

 一日半かけてテイザ山脈を越えた俺はガランク貿易都市とトロンク貿易都市とをつなぐ大街道の手前の森で地図を睨んだ。

 マライアさんからの情報によればこの辺りにバランド・ラート博士の研究所があるはずだ。

 森の中をしばらく探し回っても見つからず、地図を頼りに再度目星を付けようと思ったのだが、街道から外れたこの辺りは詳細に調査されたわけでもないため地図はあまり頼りにならなかった。


「ヨウ君、向こうに谷があるみたい」


 パンサーで木に登ったミツキが報告してくれる。


「行ってみるか」


 俺は谷すら書かれていない地図を折りたたみ、ポケットに突っ込んだ。

 ミツキが木から降りてきて、谷へ案内してくれる。


「それにしても、近くに人里もないのはおかしいよね」

「木の上から見まわしても人里はなかったのか」


 新大陸は大型魔物が跳梁跋扈する危険な土地だ。

 住居は基本的に密集させて作る。そうしないと魔物に襲われた際に援軍を期待できないからだ。

 ミツキのように町外れに家を構える場合でも、村や町を視認できる場所に立てるのが基本である。

 軍人であったバランド・ラート博士なら魔物に襲われても撃退できる腕があるのかもしれない、と考えないでもなかったが、一個人で大型魔物に対処するのは難しい。

 つまり、バランド・ラート博士の研究所は魔物に襲われない場所にあるか、さもなければ多数の研究所員が働く施設の可能性が高い。

 森を見て回った限り複数人が住めるような施設を建てられそうな場所は見当たらなかった。


「あれだよ」


 ミツキが森の先を指差す。

 森の木々が途切れ、切り立った崖に挟まれた谷が姿を現した。

 対岸までの距離はおおよそ二十メートルほど。底までの高さは十五メートルといったところか。結構深い谷だが、視線をテイザ山脈に転じると、数キロ先に谷底へ降りられそうな傾斜を見つけた。

 仮に一人で住むとしたら、この谷の底は隠れ潜むのに丁度良い場所だ。

 ミツキと共に数キロ先の傾斜まで直行する。

 崖に沿って谷底へ伸びる傾斜は途中で崖の中に埋没している。どうやら、崖の中で通路状に伸びているようだ。


「見るからに怪しいね」


 ミツキが秘密基地みたい、と呟く。


「索敵魔術の効果範囲は最大にして、慎重に降りてみよう」


 俺はディアの索敵魔術の効果範囲を弄りながら、先陣を切る。

 崖の半ばまで降りて、中に延びる通路を慎重に覗く。

 かなり暗く、先は見通せない。しかし、壁面に焦げ跡のようなものが見えた。

 ミツキと無言で頷きあって、俺は光の魔術で通路の中を照らし出す。

 中は意外と綺麗だった。壁面にところどころ戦闘の余波と思われる焦げ跡や穴があるものの、むき出しの土壁は滑らかだ。


「人工物だな」

「間違いないね」


 こんな人里離れた崖の中に通路を作るくらいだ。奥に友好的な人が住んでいるとは考えない方が良い。

 バランド・ラート博士の個人研究所であればいいが、多数の研究所員を有する何らかの秘密研究所という線もある。


「ちょっと楽しくなってきたね」

「同感だ」


 潜入調査のようでドキドキする。

 しかし、気は抜かない。

 ディアを進めて、通路の奥を目指す。

 緩やかに湾曲する通路を進んでいくと、奥から太陽の光が入ってきていた。

 ここまで、ディアの索敵魔術に反応はない。

 通路の出口から顔だけ出して外の様子を窺ってみる。


「崖の下についたみたいだ」

「何かある?」

「いくつかの魔物の骨と――家とガレージ」


 崖の壁面にガラスがはめ込まれた窓、木製らしき扉がある。ここまで通ってきた通路と同じく崖の中をくり抜いて作ったらしい。横にはガレージと思われるシャッターがある。


「ガレージ入口の大きさからして、中には精霊人機がありそうだ」


 仮に戦闘になった時、精霊人機なんて持ち出されたらいくら俺たちでも危ない。逃げ隠れできる森の中ならともかく、ここは崖下で逃げ道が限定される。

 ディアとパンサーの索敵魔術は反応していない。


「無人?」

「みたいだな」


 一応、護身用の自動拳銃を確認して、俺はディアに乗ったまま家に近付く。

 ガレージのシャッターを見ると、持ち手の部分に砂埃が溜まっていた。

 玄関扉のノブにも砂埃が積もっており、この家が放置されて長い時間が経つ事が分かった。

 それにしても研究所には見えない。


「呼び鈴まであるな」


 ドアの横に金属製のベルが吊り下げられている。風雨にさらされ、さび付いているようだ。足元を見ると、呼び鈴から下がっていたらしい鎖が落ちていた。赤さびに覆われた無残な姿だ。


「廃墟だね」


 ミツキが家を眺めて断言する。

 少なくとも、軍などの秘密研究所には見えない。なにより、索敵魔術に反応がないという事はまず間違いなく無人だろう。

 どうせ誰も出ないのだから、訪問を告げても構わない。本末転倒な思考をしながら、礼儀というより自己満足として玄関扉をノックする。


「ごめんください」


 当然ながら、応答はない。


「よし、いないな」

「ヨウ君、それ言ったら台無しだよ」


 ミツキに駄目だしされつつ、玄関扉のノブを回す。

 意外にも、鍵は掛かっていなかった。

 ディアの角を盾にしながら、扉を引きあける。

 静まり返った家の中は玄関を入るとすぐに一段高くなっており、砂の侵入を防いでいる。

 本当に無人のようだと安心して、俺はミツキと一緒に家の中へ侵入した。


「……お邪魔します」


 誰も聞いていないけど、一応断りを入れる。

 意外にも、家の中は崖をくり抜いて作ったとは思えないほど広々としていた。壁面には漆喰のような塗料が塗られている。ネズミや虫の侵入を防ぐための処置だろう。いちいち壁を作るのが面倒だったのか、キッチンやリビング、寝室は一体となっており、部屋数はさほど多くない。

 調理台や水瓶、ベッドなどの家具類も残されていた。壁と一体になった棚には大量の本が並べられている。多くは精霊の研究資料、魔物や動物の図鑑や生態に関する資料だ。スケルトンや蛇に関する書籍が多く目につく。なぜか歴史本や人口統計の資料もあった。家主の趣味だろうか。


「家主を特定する証拠はないか?」

「バランド・ラート博士で確定だと思うけど、別の人の隠れ家って可能性はまだあるもんね」


 こんな場所まで訪ねてくる人は家主の知り合いしかいないのか、表札の類はない。

 署名の入った書類などはないかと探してみる。


「めっけ」


 呟きが聞こえて目を向けると、ミツキが日記らしき小さなノートを片手に持っていた。


「最初のページに名前が書いてあったよ」

「バランド・ラート博士か?」


 俺の質問に、ミツキはページを開いて見せてくれた。しっかりとバランド・ラートの署名がある。

 以前、デュラの開拓者ギルドの資料を運びだした時に発見したバランド・ラート博士の登録書類にあった署名と癖が似ている。まず間違いはないだろう。

 日記には二年分の記述があった。ガランク貿易都市とトロンク貿易都市におけるバランド・ラート博士の滞在日数とほぼ同じだ。この地域における活動拠点だったのだろう。


「中身を見るのは後回しにして、他の資料を探そう」


 日記をパンサーへ収納するようミツキに言って、俺は部屋の中を物色する。


「ピンクパンサー」

「ルパン」


 怪盗の名前を交互に言い合いながら部屋を物色すること一時間、部屋の中を検め終わって俺は腕を組んだ。

 見つかった資料は日記の他に実験のレポートと思われるいくつかの紙束だ。かなりの悪筆で読み解くのに時間がかかりそうだった。


「ガレージも見てみるか」


 実験室のようになっているかもしれないと思い、見つけておいたガレージへ続く扉を開ける。

 いくつかの実験器具と埃を被った精霊人機が駐機状態で放置されていた。

 壁際の棚にはガラス張りの飼育ケースがいくつも置かれている。


「蛇を飼ってたみたいだね」


 ミツキが飼育ケースの中身を見て眉を寄せる。

 飼われていたと思しき蛇がミイラ化していた。この隠れ家を引き払う際に連れて行かなかったらしい。


「本当に鰓がある」


 ミツキがミイラ化した蛇を観察して感心したように呟いた。

 ミイラ化した蛇には頭の付け根の辺りに鰓があった。

 ガレージ内を調べながら歩き回っていると、靴先に何かが当たった気がして、目を向ける。


「魔導核?」


 小ぶりな魔導核が落ちていた。直径は六センチほど、魔導核の最小直径だ。

 なんでこんな高価な物が無造作に転がっているのか。

 魔導核を拾うために屈む。

 その時、視界が低くなったことで棚の下のわずかな隙間に転がる別の魔導核を見つけた。

 こちらの魔導核も最小直径の六センチだ。

 棚の下を覗き込んでみると、他にも三つほど同じ大きさの魔導核が転がっていた。


「ヨウ君、この蛇のミイラちょっとおかしい」


 魔導核を拾い集めて棚の上に置いた時、ミツキに呼ばれて振り返る。


「どうした?」

「この蛇のミイラだけお腹の辺りが大きく膨らんでるの」


 ミツキが指差すガラスケースを覗き込むと、確かに蛇の腹部が大きくなっていた。


「最後の晩餐を消化しきれずに亡くなったか」

「多分、別の物が入ってるよ」

「そっちの方が怖いんだが」


 しかし、ミツキの顔を見る限り怪談話をしたいわけでもなさそうだ。

 ミツキの視線を辿ってみると、蛇の死骸の奥を見ていた。


「リボン、いや、包帯か?」


 蛇の死骸の奥にボロボロになった包帯が見えた。

 ミツキがパンサーの腹部の収納スペースから日記を取り出す。


「このページを見て」


 ミツキが指示したのは日記の最初の方のページだ。


「魔力袋を人工的に作り出す実験?」


 日記に書かれていた実験手順は蛇の鰓を布などで覆い、ある程度の年月を生きたネズミを生きたまま食べさせるというものだった。

 バランド・ラート博士がなぜこの手順に辿り着いたのかは分からないが、もしもこの実験を行っていたのだとすれば蛇の死骸の中にあるのは魔力袋という事になる。

 俺は先ほど見つけた小さな魔導核を思い出し、ディアの収納スペースから魔物の解体時に使う手袋を取り出した。


「他にめぼしい発見もなさそうだから、ミツキは日記の内容を調べていてくれ。蛇に関する物を重点的に」

「分かった」


 役割分担して、俺は蛇のミイラを持ち上げる。

 ガレージで見つけた解体用のメスを使い、鱗をざっと落としてから死骸の腹を裂いた。

 やはりというべきか、蛇の中には魔力袋があった。それも、蛇の体格を考えると不自然に大きなものだ。

 この蛇の魔力袋をバランド・ラート博士が人工的に発生させたのだとすれば、歴史的な大発見になる。金銭的にも裕福な生活ができただろう。

 しかし、バランド・ラート博士はこの隠れ家を引き払ってからも魔力袋の人工的な発生手順を公開していない。

 追従実験に失敗したのか?


「ミツキ、日記にはなにか書いてあったか?」

「魔力袋を人工的に作り出して魔導核にした後、研究資金にしてたみたい。でも、研究資金は最低限に抑えるようにも工夫してる。それと――」


 ミツキは眉を寄せて俺が蛇の死骸から摘出した魔力袋に手を伸ばした。

 何をするのかと思えば、ミツキは魔力袋を手に持ち、集中し始める。

 声を掛けるのもはばかられ、俺はミツキから日記を受け取って中身をぱらぱらとめくった。

 蛇に関する部分にミツキが折り目をつけてくれたおかげで一々探す手間が省ける。

 日記の最後のページに、蛇から摘出した魔力袋を処理する記述があった。その内容に驚いて、俺はミツキの手元を見る。

 魔力袋がゆっくりと空気中へ溶けるように消えていくところだった。

 魔力袋が手元から完全に消え去ってから、ミツキは疲れたように息を吐き出す。


「日記の記述に嘘はないみたいだね」

「そうみたいだな」


 日記の最後のページ、蛇から摘出した魔力袋の処理の仕方にはこうあった。

 魔力袋の中心にいる休眠状態の精霊に僅かずつ魔力を流し込んで呼び起こし、魔力袋の中を魔力で満たして精霊を解放する、と。



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