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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第十七話  部外者の意見

「――お嬢様を開拓団〝月の袖引く〟の団長の立場から下ろす手伝いをしていただきたい」


 俺はゆっくりと言葉を咀嚼しながら頷いて、ミツキを見る。

 ミツキはミツキで言葉を飲み込む様に頷いて、俺を見た。


「せー」

「―の」


 息を合わせて、ばっとレムン・ライさんを見る。


「アホか」


 命をかけても叶えるべき夢。まぁ、あるだろう。それは否定しない。

 だがもう一つの条件、


「夢の価値を理解できないなら団長の立場から引きずりおろす? なんでそんな胸がむかむかするような悪役じみた真似をしないといけないんだよ」

「月の袖引く内部の問題でしかないでしょう。悪者を私たちに押し付けるのははっきり言ってわがままで自分勝手だよ」

「というかさ、方針に不満があるなら団員同士で相談するなり直訴するなりすればいいだろ。何のための組織だよ」

「中立的な意見が欲しいっていうなら、方針を決める会議に進行役として出席するくらいはできるけど、あなたたちの組織の進退に関わるような決定に巻き込まれるのはお断りだよ」

「何しろ、俺たちは開拓団〝月の袖引く〟の団員でもなければ傘下でもない。あなたたちの今後に責任が取れないからな」


 二人で交互に攻め立て、まくしたてると、レムン・ライさんがたじろいだ。

 十三歳ほどの少年少女、社会経験も乏しいだろうと考えて悪者役を押し付けようとしたんだろうが、そうはいくか。

 今後、俺たちのように罠に嵌められる被害者が出ないとも限らないので、徹底的に潰しておこう。


「そもそもの問題としてタリ・カラさんが何を考えて方針の転換をしたかも直接聞いていないんでしょう?」


 レムン・ライさんはこう言った。戦うことそのものに恐怖があるのでしょう、と。

 ――のでしょうってなんだよ。直接聞いてないから予想でしか語れていない。


「たとえば、タリ・カラさんがこう考えている可能性もありますよね。それまで団員を引っ張ってきた先代団長が亡くなったから、団員が萎縮したり、逆にかたき討ちに燃えて暴走するかもしれない。だから冷却期間を置いている、とか」


 指摘すると、レムン・ライさんは初めて気が付いたとばかりに目を見開いて驚きをあらわにした。


「圧倒的に相談が足りてないんですよ。ちょうどいいので今からタリ・カラさんと相談した上で団員を集めて方針の会議でも開いたらどうですか?」

「ヨウ君、わたし眠たくなってきた」


 遠回しに付き合いきれないから放っておこうとミツキに言われて、俺は未だ驚きに固まっているレムン・ライさんを放置して野営地に戻った。

 ディアの角に布を引っ掛けていつものように簡易テントをこさえていると、タリ・カラさんとレムン・ライさんが団員を一か所に集めるのが見えた。

 とりあえず話し合う事にしたらしい。

 その結果でタリ・カラさんが団長を辞することになろうが、方針を転換しようが、俺たちにはかかわりのない事だ。とはいえ、一応の提案者として様子を見ることにした。


「私は寝るよ。明日、結果を聞かせて」

「おう、お休み」

「おやすー」


 眠そうに目をこすりながら、ミツキがテントの布をめくり、パンサーの背に横になった。

 再び、月の袖引くの会議に視線を戻す。

 どうやら、会議の前にタリ・カラさんの考えを披露するらしい。

 タリ・カラさんの考えは俺が例えば、と予想した通りだった。ただ、かたき討ちのために暴走しそうになるのはタリ・カラさん本人だったらしく、半年ほどかけて落ち着き、今は戦闘訓練と団員の動きの把握、開拓団を維持するための諸々の知識を先代が残したノートなどで勉強中だという。

 団員がタリ・カラさんの考えに深く感銘を受けて盛り上がっていた。

 ただし、勉強に関してはほとんど終わり、護衛依頼中の戦闘などで団員個々の働きや得意分野なども再検証、おおよその実態はつかめたという。

 欠伸を噛み殺しながら月の袖引くの会議の様子を眺めていると、依頼主である行商人が俺のそばまでやってきて、簡易椅子を広げた。


「こうも早く解決に動き出すとは思いませんでしたよ。防衛戦の英雄は人心掌握も得意なんですね」

「いや、悪役押し付けられそうになったから突き返しただけです」


 それに、解決は時間の問題だったのだとタリ・カラさんを見ていればわかる。

 疲れの原因は勉強疲れだったというくらい、彼女に足りなかったのはひたすらに時間だった。

 まぁ、考えを団員と共有しなかったのは彼女のミスなのだけれど、団長にカリスマ性を求める月の袖引くの性格上は迂闊に考えを話すこともできなかったのだろう。


「それに、タリ・カラさんは最初からこの空気、団長の指導力を疑う空気を作る事が目的だったんじゃないかと思うんですよね」

「と、いうと?」


 行商人が首を傾げる。脂肪に覆われた首に段ができた。

 俺は無言でタリ・カラさんを指差した。


「――わたしはまだまだ団長として未熟だ。その証拠に、みんなの不満が溜まっている事にも気付かなかった。だから、今後は何か不満があったりしたらきちんと話してもらいたい」


 団員がきちんと団長に報告、相談する空気の醸成。その前段階としてあえて不満を溜めた。俺にはそう思えて仕方がない。

 結局、悪者役を甘んじて受け入れて、先代がそのカリスマで築いた団長は絶対という価値観を破壊して団内の空気を変えたのだろう。

 一番の方針の転換はこれだったのだ。

 もしも、タリ・カラさんに本当にミスがあったとすれば、隣で恥じ入っている副団長ことレムン・ライさんですら団長至上主義から脱出していなかったことくらいだ。

 月の袖引くの今後の方針などを話し合う会議はその後一時間以上続き、解散となった。

 運搬車両へ入って行く団員たちを見送って、タリ・カラさんとレムン・ライさんが歩いてくる。

 俺と行商人の前で、タリ・カラさんは深々と頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」


 行商人が笑いながら片手をひらひらと振る。


「なに、問題が解決したようでなによりです。明日から、より一層の働きを期待していますよ」


 では失礼、と行商人は立ち上がり、自らの運搬車両へ歩いて行った。

 俺も寝るようかと腰を上げた時、レムン・ライさんが頭を下げてきた。


「先ほどは失礼な頼みごとをしてしまい、申し訳ありませんでした」

「分かってくれたなら良いですよ」


 実質的に被害もなかったから、と軽く流す。


「それじゃあ、俺は寝る――」

「少し待ってください」


 ほほぉ、俺の睡眠時間を削りたいと?

 微かに聞こえてくるミツキの寝息をうらやましく思いながら、先を促す。

 すると、レムン・ライさんではなくタリ・カラさんが口を開いた。


「リットン湖攻略が近いうちに開始されるという話はご存知ですか?」

「知ってますよ」


 新聞などでも取りざたされている。

 防衛拠点ボルスは甲殻系の魔物の群れによる攻撃を受けて大損害を被った。未だにその復旧が終わっていないのは、今回運んでいる資材からも明らかだ。

 しかし、防衛拠点ボルスは復活したとばかりに、もうすぐリットン湖攻略を開始するという。

 リットン湖攻略隊はロント小隊の他にもさまざまな小隊が各地から集まる大規模な遠征であり、攻略戦だ。

 ボルスが甲殻系の魔物による襲撃を受けた時には、まだリットン湖攻略隊は集結していなかった。つまり、今のボルスには攻略隊が損耗なしで存在することになる。

 しかも、現在防衛拠点ボルスの暫定司令官になっているのは新大陸派のホッグス。

 旧大陸派であるワステード元司令官の失策により防衛拠点ボルスが大損害を被り、その大損害を被った防衛拠点ボルスから出発したリットン湖攻略が成功を収めれば、暫定司令官であるホッグスの株も上がる。

 つまるところ、政治的な事情でリットン湖攻略を開始しますよ、という話だ。


「リットン湖攻略戦に参加するんですか?」


 話の流れに身を任せて訊ねると、タリ・カラさんは頷いた。


「ボルスに着いてからみんなで話し合う事になるとは思いますけど、参加したいと思ってます。軍が威信をかけている大規模な攻略戦なので、先代団長が亡くなってからの二年間、開拓の前線から外れていたわたしたちが勘を取り戻すのにちょうどいいと思います」


 たしかに、タリ・カラさんの考え方も正しい。

 派閥争いをしているという事は、ホッグスにとって今回の攻略戦は負けられない戦いでもある。勝ち目のない勝負は挑まないだろう。

 ボルスは復旧途中だが、攻略戦では防衛拠点ボルスを離れて戦闘を行う。つまり、ボルスに求められるのは防衛拠点ではなく、補給基地としての役割だ。

 補給基地としての機能が復活しているのなら、政治的な事情で無理をしているという事もないだろう。


「それで、リットン湖攻略戦に月の袖引くが参加するとして、俺たちに何か用ですか?」

「ボルス防衛戦に参加したと聞いてます。その時の話を聞きたいのです」

「……明日にしてくれません?」


 あんな長い話をしていたら眠れなくなってしまう。

 明日も護衛の仕事があるのだから、早く寝て疲れを取る必要がある。

 タリ・カラさんはコクリと頷いて、立ち上がった。


「明日の朝、こちらに参ります。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 タリ・カラさんはぺこりと頭を下げて、レムン・ライさんを連れて整備車両へ戻って行った。

 ようやく眠れる、と俺は簡易テントの中にもぐりこむ。


「……ヨウ君?」

「悪い、起こしたか」


 ディアの角越しに、ミツキに謝る。

 ミツキは「大丈夫」と返した。衣擦れの音が続く。寝返りを打ったらしい。


「どうなったの?」


 問われて、俺は開拓団月の袖引くの会議の結果と、リットン湖攻略戦に参加するらしいこと、ボルス防衛戦の時の話を聞かせてほしいと頼まれた事を話す。

 俺の話を静かに聞いているミツキに、また寝てしまったのかと思っていると、返事があった。


「リットン湖攻略戦に参加するなら、仲間になるって事だね」

「そう、なるな」


 俺たちはワステード元司令官に出されたリットン湖攻略戦への参加依頼を受けている。

 ボルスにおける今のワステード元司令官の立場や発言力次第では、ホッグスがでしゃばってきてなかったことにされるだろうけど。


「どうなるかはボルスに着いてからだな」

「ふと思ったんだけど」


 ミツキが少し真剣味を帯びた声で言う。


「ワステード司令官が降格して発言力が落ちたって事は、私たちに宿を紹介できるのかな?」

「……もしかすると、野宿だな」

「えぇ……」


 心底嫌そうに、ミツキが呟く。


「いっそ、家を借りちゃおうか」


 それができるだけの金銭的余裕があるのが恐ろしい。

 港町の防衛戦で倒しまくった魔物の魔力袋を大量に売り、ギルド支部の金庫を空にしてもまだ借家に魔力袋があるくらいだ。全部加工して魔導核にしてあるが、売るか自分たちで使うかを悩んでいるところである。


「ボルスに家を借りても、あまり使わないからな。デュラにあるミツキの家も掃除しに行かないといけないし」


 デュラに巣食っていた人型魔物はほとんど討伐したが、安全の確認を行うため今はギルドが人を派遣して調査中だ。人型魔物に魔力袋持ちが大量にいたことも、何らかの原因が見つかるかもしれないとギルドは張り切っている。

 そんなわけで、現場保存の名目の下、今は許可を得ないとデュラに入れなくなっている。

 俺たちがボルスから港町に戻る頃には調査も終わっているはずだ。


「ミツキの家にもプロトンみたいな見張り用の精霊獣機を置いておかないとな」

「名前はディオゲネスとかどう?」

「哲学者から離れろよ。というか、犬型なのは確定か」


 小屋も用意しておかないと。樽でいいか。


「番犬なんだから、ディオゲネスでいいでしょ」

「もういいや。ディオゲネスにしよう」


 俺が折れると、ミツキはそうこなくちゃ、と嬉しそうに笑った。

 何が嬉しいのか分からない。



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