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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第十五話  開拓団“月の袖引く”

 人型魔物による港町への攻撃から五日が経つ頃には、デュラの被害状況の把握や人型魔物の残党処理なども終わった。

 もうここに実力のある開拓団ばかり四つも集まっている必要はないという事で、開拓団飛蝗や回収屋、竜翼の下、青羽根はそれぞれ旅立つことになった。

 町の入り口に見送りに出ると、青羽根の面々が手を振って来た。


「なんか色々あったけど、楽しかったぜ」


 ボールドウィンが親指を立てて笑顔を浮かべる。


「飛蝗の傘下に入ったり、スカイを改造されたり、人型魔物の群れを相手に戦ったり、整備車両の蓄魔石を溶かされたり……本当、色々あったなぁ」


 整備士長が遠い目をして語る。


「だが、開拓団としての初仕事がコトたちと一緒に出来て楽しかった。また、どこかで一緒に仕事しよう」


 ボールドウィンが拳を突き出してくる。


「それまで死ぬなよ?」

「ボールドウィンの方が心配だ。もう魔力切らすなよ?」


 ボールドウィンの拳に俺は自分の拳を合わせる。

 それはもう言うなよ、とボールドウィンに恨みがましく睨まれた。再会したらまた言ってやろう。


「それじゃあ、俺たちはガランク貿易都市に行ってくる。向こうに来ることがあったら声をかけてくれよ」


 ボールドウィンはそう言って整備車両へ乗ると、あっさり港町を出て行った。

 整備車両の荷台から手を振ってくる青羽根のメンバーに手を振り返していると、竜翼の下の団長ドランさんと副団長のリーゼさんがやって来る。


「変われば変わるものですね」


 青羽根の整備車両に手を振る俺たちを見てリーゼさんが言うと、ドランさんが肩を竦めた。


「何度言っても外の事に首突っ込もうとする誰かさんも変えてほしいな」


 リーゼさんが沈黙すると、ドランさんは「やっと黙ったか」とばかりにため息を吐き出す。

 そして、俺とミツキに向き直った。


「俺たちももう出発する。鉄の獣はボルスの方に行くらしいが、気をつけろよ」

「いろんな人に同じことを言われてますよ」

「それだけ心配してるやつがいるって事だ。喜べ」


 投げやりに言って、ドランさんは俺が乗ってきたディアを見る。


「精霊獣機そのものを欲しがる奴はいないだろうが、使われている技術は別だ。スカイの件もある。身辺にはくれぐれも気をつけろよ」

「心得てますよ」

「なら、いい。精霊人機と違って少数で運用ができる上に大型魔物が相手でも戦える兵器なんか、盗賊垂涎の品だ。迂闊に広めるんじゃねぇぞ」


 言われてみれば、食うや食わずで生活している盗賊にとってはいかに気味が悪くても使わざるを得ない兵器ではある。

 改めて気をつけようと心に刻んだ。

 リーゼさんがミツキに話しかける。


「二人での活動に限界を感じたら頼ってください」

「誰に頼るかはともかく、誰かに頼るとします」

「……いまだに私に対しては棘がある言い方なんですね」


 リーゼさんが少しばかりへこむと、ドランさんが深々と頷いた。

 良い薬だと思っているらしい。

 竜翼の下が出ていくと、マライアさんとデイトロさんがやってきた。


「あたしらも行くよ。村の近くに来たら寄っていきな。デイトロの家が空いてるからね」

「あれ? デイトロお兄さんの家に泊まるの? 掃除しておいてくれると助かるなぁ」

「たまには帰ってきて自分で掃除しな、この馬鹿たれ」


 マライアさんはデイトロさんの頭を左腕でがっちりと固めて、右拳をぐりぐりと押し付ける。

 痛いと連呼するデイトロさんになおも攻撃を加えながら、マライアさんは後ろに立っていた大男に合図する。

 大男は飛蝗が拠点にしている村への地図を渡してくれた。裏には飛蝗の紋章とマライアさん、デイトロさんの署名が連なっている。


「あたしらが不在でも、その地図を村の者に渡せば空き家に通される。あたしら二人の名前が入った地図なんて持ってるのはあんたらだけだからね」


 どうやら通行パスのようになるらしいその地図を丁寧に折りたたんだミツキが腰のポシェットに仕舞う。


「機会があれば寄らせてもらいます」

「あぁ、そうしな。曲がりなりにも軍の派閥争いに関わるんだ。生半可な暴れ方をするんじゃないよ。村に来たらしっかり話を聞かせてもらうからね」


 土産話持参を強要して、マライアさんはあっさりと背を向けた。


「出発するよ!」


 マライアさんが号令を掛けると、飛蝗の団員が一斉に応じて、そこらの軍隊など目ではない統率の取れた行進をして町を出て行った。

 開拓団飛蝗の行進を恐々とみながら、行商人がすれ違っている。少しばかり同情してしまった。

 デイトロさんがマライアさんたちを苦笑しながら見送って、口を開く。


「姉御はああ言ったけど、土産話なんてなくても気軽に寄ってくれていいよ。村の人間がみんなして姉御たちみたいなわけでもないし、大半はもっと気安い連中だからさ」


 ミツキがくすりと笑う。


「それを聞いて少し安心したよ。村人全員あのノリだと疲れちゃうからね」

「ホウアサちゃんと同じ年ごろの子もいるよ。少し武闘派なだけで普通の村なんだ」


 その少しの度合いが問題な気がする。


「全員がお兄さん呼びお姉さん呼びを強要してきたりしませんよね?」

「大丈夫だよ。真にお兄さんなのはこのデイトロお兄さんの他にいないからね!」


 ビシッと言い切ったデイトロさんの襟首をグラマラスお姉さんが掴んだ。


「団長、次の仕事があるんですから、早くいきますよ」

「ちょ、ちょっとまって! アカタガワ君たちにまだお兄さんって呼ばれてないんだよ。いまならいける気がするんだ。防衛戦でかっこいい所たくさん見せた今ならお兄さんって呼んでくれる、そんな予感が沸々とわきあが――」

「またね、アカタガワ君、ホウアサちゃん」

「はい。またお会いしましょう。お姉さん」

「今度魔物の解剖学とか教えてくださいね。お姉さん」


 俺がグラマラスお姉さんに手を振ると、ミツキは解剖学を教えてもらう約束をしてから手を振った。

 デイトロさんの襟首をつかんだまま、開いた片手でグラマラスお姉さんが俺たちに手を振り返す。回収屋の他のメンバーも笑顔で俺たちに「また会おう」と言ってくれた。


「なんでデイトロお兄さんはお兄さん呼びされないのに、君はお姉さん呼びされてるんだ! 納得がいかないっ!」

「人徳です。さぁ、行きますよ団長。みんな、車出すよ」

「あいさー」


 デイトロさんを助手席に放り込んだグラマラスお姉さんが操縦席に座り、整備車両を動かした。回収屋の運搬車両がそれに続き、町を後にする。

 道の先に消えるまで見送って、振っていた腕に気持ちの良い疲労を感じながら、ディアをギルドに向ける。

 俺たちも明日出発だ。依頼内容は防衛拠点ボルスまでの資材運搬の護衛。

 今朝方ギルドから連絡があり、一緒に今回の依頼を受ける開拓団が到着したとの連絡があった。


「顔合わせって言ってたけど、いい人たちだといいね」

「ボルスまでだからな。結構日数があるし、仲良くできる相手じゃないと困る」


 今回のキャラバンは運搬車両を二両持つ小規模な物らしい。馬車がないため、その分速度も出る。

 港町からボルスまで三日ほど。馬車なら四、五日かかる所だ。

 必然的に、キャラバンの速度に合わせることができる護衛が求められる。


「キャラバンの人たちはいい人みたいだけどね」


 ミツキが二日前に顔合わせをした行商人の顔を思い出したように言う。

 港町の防衛で大型魔物を倒した歩兵という事で、俺たちは最初から好意的に迎えられた。

 行商人は、精霊獣機を見た時に一瞬顔を顰めていたが、特に排斥するわけでもなかった。

 今回の仕事はいままでよりも居心地がよさそうだ。

 ギルドに到着する。

 ここ数日ギルドホールにいた革ジャケットの集団がいなくなったため、少し閑散としつつも落ち着きを取り戻したギルドで、いつもの係員が開拓者らしき少女の相手をしていた。

 少女が俺とミツキに気付いて立ち上がる。

 歳は十七歳くらいだろうか。生まれつきのものらしい小麦色の肌に黒い髪、瞳は満月を思わせる金色だ。

 旧大陸の南方系だろう。どこか疲れたような顔をしているのが印象的だった。

 少女の後ろには老齢の魔術師が立っている。腰に蓄魔石が嵌まったベルトが二重に巻かれていた。こちらも少女と同じく小麦色の肌をしているが、髪はロマンスグレー、瞳は碧だ。

 係員も俺たちに気付いて立ち上がった。


「お待ちしておりました。アカタタワさん、ホーアサさん、こちらが開拓団〝月の袖引く〟の団長タリ・カラさん、後ろの方が副団長のレムン・ライさんです」


 タリ・カラと呼ばれた少女が俺たちに一礼する。なんとなく、頭を下げ慣れているように見える。


「開拓団〝月の袖引く〟団長、タリ・カラです」

「こんにちは。赤田川です。こっちは相棒の芳朝」

「彼女の芳朝です」


 ミツキさんや、なんで訂正したのかな。

 タリ・カラさんは反応に困ったように後ろの魔術師を見た。

 魔術師が、団長を立てるためなのかタリ・カラさんよりも深く頭を下げてくる。


「副団長をしているレムン・ライです」


 自己紹介だけして、レムン・ライさんは一歩下がり、タリ・カラさんの後ろに立つ。

 それにしても、月の袖引く、ね……。


一夜恋(ひとよこい)、覚めるなかれと、月の袖引く。ハラ・アルミナ」


 ミツキが呟くと、係員が首を傾げる。

 レムン・ライさんが深く皺の刻まれた顔に笑みを浮かべた。

 しかし、タリ・カラさんは警戒するような顔でミツキを見る。


「よく、ご存知ですね」

「そこそこ本を読むほうなので。ヨウ君は知ってた?」

「ハラ・アルミナ、二百年前に旧大陸南部で活躍した詩人で船乗り。新大陸発見前の大航海時代にいくつかの島を発見して新大陸までの中継地を作った」


 ちなみに、ミツキが諳んじた詩は、ハラ・アルミナが一夜限りと決めた娼婦にほれ込んで家に帰りたくないと駄々をこねながら詠んだ、だらしない詩だったりする。結局、身請けしたらしいけど。


「さすがヨウ君だね」


 ミツキが褒めてくる。

 あまり有名な人ではないし、詩の方も大して評価されていない人なのでぱっと諳んじる事ができるミツキも凄いと思うのだが。

 俺は係員を見る。


「俺たちの事はもう教えましたか?」


 係員が頷いた。


「獣型の精霊兵器を使う事も、今回の防衛戦における一等戦功者の一人であることもすでに教えましたよ」

「なら話が早いですね。それで、開拓団〝月の袖引く〟の規模は?」


 目の前に団長さんがいるので訊ねる。

 タリ・カラさんはミツキや俺に対してわずかな警戒心を抱いているようだったが、それでも質問には答えてくれた。


「戦闘員二十です。車両は一両、運搬車を持ってます。かなり改造してますけど。それと、精霊人機が一機」


 いつ頃の機体か気になって訊ねると、おおよそ五年前の機体だった。

 特に目立つ改造もしていないらしい。操縦者はタリ・カラさんだ。

 俺たちを含めても戦力としては心もとないが、ボルスの周辺はヘケトの大量発生以後、定期的に魔物の駆除を行っているらしいので、問題はないだろう。


「それでは、明日からよろしくお願いします」


 握手を交わして、その場を後にする。

 ギルドを出て、ガレージに停めていたディアに跨った。


「どう思う?」

「タリ・カラさんのこと?」


 ミツキに問い返され、俺はディアを歩かせながら頷く。

 パンサーの背に乗ったミツキが並んだ。


「何かあるなぁ、とは思うね。それが何かは分からないけど」


 ミツキが詩を諳んじてからのタリ・カラさんの態度は明らかに何かを警戒していた。

 何を警戒していたのかは分からないし、俺たちに関係のある事だとも思えないが、注意しておくに越したことはないだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで読んで。 周りの人間は、魔力袋ならぬファッキンな糞袋保持者しか出て来ないのかと思っていたけれど、良い方に流れが向かって益々続きが読みたくなってきました。
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