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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第十三話  鉄の化け物

 首抜き童子を倒した時点で魔力切れとなった俺たちは戦線の離脱を余儀なくされた。

 その後の討伐作戦は順調に進んだらしい。

 二重肘は飛蝗の戦闘部隊が連携して放ったアイシクルによって関節を凍りつかされ、動きを大きく阻害されたところ精霊人機の槍で突かれて死亡。

 回収屋のレツィアともう一機が相手をしていたギガンテス三体もレツィアの大鎌に翻弄されたところを一体ずつ精霊人機が長剣で斬り伏せたらしい。

 魔力の余裕がなかった回収屋の二機はそれでも竜翼の下の救援に向かった。

 途中で飛蝗の精霊人機と合流し、六体を同時に相手取りながら戦略的撤退を図っていた竜翼の下と合流した。

 首抜き童子、二重肘と言った知能の高い二体の指導者が相次いで討伐された事で、ギガンテスたちの戦闘方法がパターン化され、対処は楽だったとの事だ。

 最終的に、人型魔物の一団は夜の内に殲滅が完了した。

 そんなわけで、いま俺たちは港町へ帰還するための作業を始めていた。


「また魔導手榴弾を作らないと」


 ミツキがパンサーに魔力を込めつつ、消費した弾丸類の一覧を片手で作成する。


「新しい使い方も思いついたし、パンサーの格納部を増やしたりもしたいな」


 ミツキがパンサーの肩にある魔導手榴弾の格納部を見る。

 今回のような大規模な戦闘はもうないだろうといいたかったが、俺たちはこの後防衛拠点ボルスに赴いてリットン湖攻略戦に参加することになっている。

 リットン湖周辺の魔物は先のボルス防衛戦で数を減らしているはずだが、今はどうなっているのやら。

 備えておいて損はないだろうという事で、パンサーの大型化を視野に入れて予定を組む。


「それにしても、満身創痍って感じだな」


 俺は広場を見回す。

 まず、車両がすべて動かせなくなっている。マライアさん発案の大爆発作戦で蓄魔石を溶かしてしまったため、燃料がないどころか燃料タンクそのものがないのだ。

 そして、精霊人機はほとんどすべてが魔力切れ。竜翼の下の精霊人機二機なんて、片腕がなくなっていたり、全体に細かい傷が無数に入っている。ギガンテスにタワーシールドを割られたとドランさんが嘆いていた。

 戦闘員の被害もひどい。死者が多数出ており、重傷者も多い。簡易的な治療を施した後、港町から車を回してもらって、病院へ搬送された。

 整備士たちも魔力供給その他で疲れがたまり、動かない整備車両の中で仮眠を取っている。

 いまならゴライアが二体くらいやって来るだけで壊滅しそうな雰囲気だった。


「鉄の獣、魔力の充填は終わったかい?」


 マライアさんがやってきて、ディアの蓄魔石を覗き込む。


「もうちょいかかるか。町に戻って、魔力袋の下処理ができるようにギルドへ声をかけてもらいたいんだけどね」

「町へ行くだけなら問題はないですよ。魔力袋の数はどれくらいなんですか?」


 質問すると、マライアさんの後ろに控えていた大男が紙の束を出してくる。


「今回の戦果報告だ。まぁ、一次報告だから、詳しくは聞き取り調査の後でってことになるだろうけどね。魔力袋持ちの討伐数に関しても書いてある。下処理の準備をさせるだけなら、この報告書の内容で足りるはずだ。ダメなら、ギルドから人をこっちに出させな」


 渡された紙をミツキと一緒に覗き込むと、ずらりと人の名前が並んでいる。所属や得物、討伐数などが記載されていた。

 こうしてみると、人型魔物がいかに多かったか良く分かる。

 ちなみに、マライアさんの発案で大爆発を引き起こして、ゴブリンとゴライアを一掃した分の戦果は備考欄にまとめてあった。吹き飛んだ魔物に関しては現在調査中らしい。


「とにかく、魔力袋が多すぎるんだ。特に、首抜き童子と二重肘の分は専用機を作れるかもしれない」

「あいつらだけ群を抜いて強かったですもんね」


 とりあえず、魔力袋の下処理の準備を頼むため、俺はミツキと一緒に立ち上がった。


「俺たちは町に戻ったら、ギルドに寄ってそのまま帰るので、何かあったら家の方に連絡をください」

「あぁ、分かった。ギルドに行ったら、ついでに倉庫を予約しておいてくれないかい?」

「了解です」


 マライアさんたちと別れ、俺たちは精霊獣機にまたがって町へ引き返した。

 町は上を下への大騒ぎになっていた。

 避難していた住民が戻り、家財道具の確認をおこなっていたり、港での戦闘で倒した魔物の死骸の処理に追われていたり。

 かとおもえば、人型魔物が駆逐された事でデュラの復興の目途が立ったことで浮かれていて、復興資材の発注を掛けるべくあちこちの商会から人が出たり入ったり。

 デュラの住人達はようやく帰宅できると喜び合いながらも生活するための道具を買いそろえようとしていた。

 だが、避難するためとはいえ一時的に町から住人が消えたため、あちこちで火事場泥棒があったらしい。そして、火事場泥棒として疑われ、白い目を向けられているのは――デュラの人々だった。

 町の住人が避難している間、この町に残っていた者には食い詰めて開拓者となったデュラの住人達が多かった。つまり、動機があって、アリバイがないのだ。

 肩身が狭そうにしながら、デュラの住人らしき一団が通りを歩いている。

 俺たちは彼らとすれ違ったが、嫌味や罵声が飛んでくることはなかった。

 いま、この町でデュラの住人が攻撃的な姿勢を示せばどうなるか。

 当然、火事場泥棒したのではないかという疑いは強くなる。

 まぁ、俺たちには関係のない事だ。

 そう思っていたのだが……。


「――火事場泥棒の嫌疑? 俺たちに掛けられてるんですか?」


 戦果報告の書類を出して魔力袋の下処理の準備を頼んだり、倉庫を頼んだりと言った諸々の手続きを済ませていると、ギルドの係員は声を落として俺たちに教えてくれた。


「えぇ、アカタタワさんたちが民家に出入りしているのを見たという方がいらっしゃるそうで」

「それなら、その証言者が犯人か、さもなければ犯人を知っていて庇っているかのどちらかだと思いますよ。そうでもなければ、偽の証言をする意味ってあまりないですし」


 手続き書類に名前を記入しながら言い返すと、係員は苦笑した。


「アカタタワさんたちの実力なら、民家に盗みに入るより大型魔物を狙撃した方が儲かりますよね」


 港でギガンテス二体を射殺した事はすでに伝わっているらしい。

 ギルド内を見回せば、同情的な視線を俺たちに注いでくる開拓者たちがちらほら見つかった。デュラ偵察依頼の時に素人を必死で纏めていた二人の凄腕開拓者もいる。

 デュラ出身ではない彼らは、俺とミツキが民家に盗みに入るはずがないと理解しているらしい。


「それで、証言者はどうなるんですか?」

「ふつうは自分たちがどうなるかを気にしませんかね」


 なんとなく諦めたように笑いながら、係員はギルドの天井を仰いだ。


「やりすぎですからね。証言を突き合わせるという名目で防衛軍の方に拘束していただきました。依頼を何度も失敗していて金銭的な余裕がない事は我々も把握していますから、いま彼らの借り受けている部屋を捜索してもらっています」


 火事場泥棒を働いた証拠が見つかればそのまま逮捕、見つからなければ監視付きで外に出すとの事だった。


「ちなみに、お二人は昨夜どちらに?」

「街道沿いでゴライアを撃ち殺して、ゴブリンたちを爆破して、ギガンテス首抜き童子を討伐しました」

「……」


 あれ、何この空気。

 分かってるけどね。港の激戦を終えた後で転戦して歩兵の癖にあだ名までついている大型魔物を討伐したなんて異常な戦果だ。

 静まり返ったギルドホールに新しい客がやって来る。


「――化け物がいるじゃねぇか」


 舌打ちと共にミツキを指差してそう言ったデュラ出身の開拓者に、含む物は違えどギルドにいた全員の心が一致した。

 ミツキが俺を横目に見て、一瞬だけ意地悪な笑みを浮かべる。

 カタリ、と控えめな音を立てて椅子から立ち上がったミツキは、満面の笑みを浮かべてデュラ出身の開拓者を振り返った。


「こんにちは。化け物です」


 冗談めかして、デュラ出身者とそうでない開拓者との間にある認識の差を利用した皮肉を、ミツキはこれ以上ない笑顔で言い放った。

 こらえきれなくなった開拓者が数人、噴き出した。誰かと思えば、デュラ偵察任務の時の凄腕開拓者二人だった。

 デュラ出身の素人開拓者のお守りを押し付けられていたのは彼ら二人だけではなかったらしく、一気に笑いの波が伝播していく。

 最初の内こそ、ミツキが笑いものになっているのだと勘違いして悦に入っていたデュラ出身の開拓者たちは、次第に笑われているのは自分達だと気付いたらしく、顔を真っ赤にし始める。

 この町を拠点にする開拓者の一人がデュラ出身者を指差した。


「役者が違い過ぎらぁ。お前らなんかじゃ相手にならねぇから、これ以上バカ晒す前にお家に帰った方が良いんじゃねぇのか?」

「良かったなぁ、鉄の化け物さんがお前らのお家まで道を切り開いてくれたってよ。怖い怖い人型魔物はもういないとさ」


 げらげらと、口の悪い開拓者が笑い出す。

 完全に、笑われているのは自分達だと認識したデュラ出身の開拓者は、顔を怒りで真っ赤にしながらも数の不利を悟ってギルドホールを出ようとする。

 しかし、職員の一人が呼び止めた。


「ギルドまで来て、お使いも済ませずにお家へ帰ってもよろしいのですか?」


 言葉だけは丁寧に、逃げ帰るのか、と問いかける皮肉めいた言葉。

 散々わがままを言って派遣先の開拓村に迷惑をかけては出戻ってきたデュラ出身の素人開拓者には、ギルドの職員も鬱憤が溜まっているらしかった。

 騒ぎを眺めながら、係員がため息を吐く。


「ギルドも、デュラを焼け出されて困窮した彼らに何度も無理に便宜を図ろうとしたんですよ。食い詰めて盗賊に落ちてもらっても困りますし、町の治安が低下するよりはギルドが泥を被ろうという支部長の方針もあったんです。でも、ここまでやってしまうともう庇い立ては出来ないですね」

「庇ってたんじゃなくて、甘やかしてただけでしょう?」


 テーブルに頬杖を突いて、俺はちくりと言葉で刺してやる。

 係員は苦笑いをした。


「きついですね。でも、それが事実です。私なんかが町の代表面するわけにはいきませんが、一市民として、お礼を申し上げたい」


 係員は席を立ち、俺とミツキに向かって深々と頭を下げた。


「町を救っていただいて、ありがとうございます」


 係員の感謝の声はデュラ出身の開拓者たちにも聞こえたのだろう。

 忌々しそうな顔をして、デュラ出身の開拓者は出て行った。

 職員たちが困った顔を見合わせる。

 町の嫌われ者に頭を下げる行為、それに理解を示す行為、どちらもこれからこの町で生きにくくなるだろう。

 だが、この町を拠点としているだけで身一つ、どこへでも行ける開拓者の意識は違った。


「聞いたぞ。精霊人機を使わずに大型魔物を単独討伐だってな!」

「もう酒場で詩人が歌いだしてるぞ」

「新聞屋が探し回ってるから、気をつけろよ」


 わいわいと、俺たちに声がかけられる。

 慣れない空気に気恥ずかしくなったのか、ミツキが赤い顔で俺の腕を取り、無理やり立たせようとしてくる。


「用事が済んだなら帰ろうよ」

「そうだな」


 気恥ずかしいのは俺も同じだし。

 係員が頭を上げ、笑みを浮かべた。


「またのお越しをお待ちしております」



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