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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第三話  封鎖作戦会議

 森を疾駆する。

 効果範囲を最大にした索敵魔術が反応した瞬間、俺はディアの足を止めた。

 ミツキと一緒に魔物の位置を素早く特定し、狙撃ポイントへ移動する。

 あらかじめ、この辺りの地形は調査済み。獲物の位置さえ特定してしまえば最高の狙撃ポイントを割り出して素早く配置につける。

 ディアを加速させ、森を突き進む。

 辿り着いた狙撃ポイントは小川の流れる森の奥。おそらくはギガンテスたちがデュラへ侵攻した際に出来た倒木の転がる地点の一つだ。

 ギガンテスたちが通った道が倒木の群れとなって示されているこの場所はかなり遠くまで見通しが利く。

 七百メートルほど先にゴライアが現れる。

 ゴライアが森から倒木でできたこの道に入った瞬間、俺は引き金を引いた。

 音を置き去りにした弾丸が、待ち伏せされていたとも知らないゴライアの側頭部を撃ちぬいた。

 ゴライアは何が起きたのかも分からないままに絶命し、そばを歩いていたゴブリンを巻き込んで倒れ伏し、二度と起き上がらない。

 下敷きになったゴブリンに向けてさらに一発銃撃した俺は、狙撃に気付いて走ってくるゴブリンを無視して森の中へディアを走り込ませた。

 魔力袋を持っていようがいまいが、完全に不意を打ってしまえばこちらのものだ。遠距離狙撃なら反撃される前に逃げる事もできる。


「さっきのゴブリン、二匹が魔力袋持ちだったよ」


 ディアを枝避けにして後方を走っているパンサーの上から、ミツキが報告してくれる。


「やっぱり、魔力袋持ちの数が多いな」


 ここに来るまでも魔力袋持ちのゴブリンを何度か見かけている。ゴライアは極力狙撃で撃ち殺しているため把握しきれていないが、たまに身体強化を常に使用しているらしい個体を見かけている。

 デュラに近付くほど魔物との遭遇回数も増えており、今後は魔力袋持ちのゴライア複数体を相手取る事も考慮しないといけなかった。


「方針が変更されるかもしれないな」

「デュラの外で人型魔物の戦力を減らす期間を長めにとるとか?」


 俺はミツキの言葉に頷く。

 建物などへの被害を極力減らしておきたい人間と違って、人型魔物にとってはデュラの被害など知った事ではない。

 魔力袋持ちの魔物が多いため魔術を使用した乱戦が想定される今回の奪還作戦では、戦場への影響は計り知れない。

 可能ならば町の中ではなく外に引っ張り出して戦いたい。


「私たちがここで何を考えても、結局はマライアさんの判断次第だけどね」

「そうだな。俺たちは奪還組じゃない。遊撃部隊だし」


 デュラの外の魔物を倒し、奪還組の退路を確保すると同時に、人型魔物が不利を悟ってデュラから逃走を開始した際の追撃部隊でもある。

 マライアさんがどんな判断を下すとしても、俺とミツキはデュラの外で戦闘することになるのだ。


「――っと、反応ありだな」

「西だね、少し南寄り」


 方角を特定して、狙撃位置に向かう。

 今日一日、ゴブリンやゴライアを観察して分かった事だが、奴らは街道沿いに移動する傾向にあった。

 街道を進めばその先に村がある事を学習したらしい。

 悪知恵の働く奴らだが、おかげで移動経路が読みやすい。狙撃する側としては楽だった。

 魔導銃を使う開拓者や軍人が少ないからか、人型魔物たちは狙撃に対する警戒が希薄なのも助かった。

 狙撃ポイントは街道を見下ろす丘の上。木々の枝葉に隠れて背の低いゴブリンは狙えなかったが、ゴライアは確実に仕留める事の出来る絶好の位置だった。

 もうじき日も暮れる。ゴライアたちは寝床であるデュラへ帰る途中らしい。

 俺たちもこいつを仕留めたら、野営地にしている村へ帰ることになるか。

 いや、俺たち〝は〟だな。ゴライアにはここで死んでもらう。

 後頭部が弾けて倒れていくゴライアを確認して、俺は撃ったばかりの対物狙撃銃を背負った。


「野営地に戻ろう」

「私はあんまり活躍できなかったよ」

「役割分担してるんだから当然だろ」


 ディアを走らせながら、俺はミツキに笑いかけた。

 魔力袋持ちの魔物が多い以上、反撃を受けやすい近接戦闘が主体になるパンサーの出番はなくて当然だ。

 もしも村が占拠されていれば、狙撃だけでは片付かないためパンサーの出番になるが、それは明日以降の話だろう。


「人型魔物に占拠された村があっても、奪還するときには回収屋と足並みをそろえることになるし、私の出番はやっぱりない気がする」

「じゃあ、今夜の食事で活躍してくれ」


 今夜は青羽根の連中と食卓を囲む事になっている。

 ミツキが渡したレシピが好評だったため、開拓学校で習ったという青羽根の料理とミツキのオリジナルレシピでの料理対決になったのだ。

 審査員は他の開拓団の幹部格である。

 ミツキはまんざらでもなさそうに笑った。


「言われるまでもなく、ヨウ君に勝利の味をプレゼントしてみせるよ」

「まぁ、俺も調理補助に回るから、一緒に作ることになるんだけどな」

「私が作ったレシピなんだからいいの!」


 言葉を交わしながら森を駆け抜けて野営地に到着する。

 村の入り口にゴブリンとゴライアの死骸があった。


「お二人さん、帰って来たのかい」


 死骸の検分をしていた回収屋のグラマラスお姉さんが声をかけてくれる。


「ゴライアを七体ほど、ゴブリンは四体くらい仕留めてきました」

「歩兵二人で出せる戦果じゃないね。魔力袋持ちは?」


 グラマラスお姉さんの質問に一つ一つ答えていく。

 ところで、ミツキさん、ずっと俺のズボンを掴むの止めてくれませんかね。不用意な言動をしたら脱がされそうで怖いんですけど。

 にっこり笑うのもやめてほしい。

 グラマラスお姉さんの立派な部位に視線が行きそうになるのを堪えつつ、質問に答え終わってその場を後にする。


「部位破壊したい」

「何を!?」


 ミツキの眼が凄く怖い。

 野営地になっている村を見回す。

 中央には大きなかがり火が焚かれ、村の周囲を囲む様に飛蝗の構成員が歩哨に立っている。

 かがり火のそばでは青羽根の面々が調理を始めていた。

 俺たちに気付いたボールドウィンが手を振ってくる。


「遅かったな」

「走り回ってたからな。何か煮込んでるのか?」


 鍋から香辛料をふんだんに使った良い匂いが漂ってくる。新大陸は新種の香辛料が多く見つかっているため、輸入している旧大陸ではちょっとしたブームになっていると聞く。

 今回、青羽根の面々が作っているのも、旧大陸で流行の香辛料をふんだんに使った料理のようだ。

 同じ土俵に立つ気なのか、ミツキが大鍋を回収屋から借りてきて、香辛料の類を別に用意したフライパンで炒り始める。

 調理補助のために食材を切り始めた時、マライアさんたち大人団長組に、ボールドウィン共々お呼びがかかった。

 ミツキに一声かけて、俺はマライアさんたちへ足を運ぶ。


「今のところ、人型魔物との戦闘回数も撃破数もアカタガワが最多だ。情報共有といこうじゃないか」


 パイプ椅子にも似た組立椅子に座ったマライアさんが俺を見てそう言った。

 ボールドウィンとマライアさんたち大人団長組に加わる。


「ギガンテスは見てないね?」

「今のところは発見できてません。通り道も見当たらないですね」


 今日一日の戦闘で、ギガンテスは姿を現さなかった。俺とミツキはかなり広範囲を精霊獣機に乗って移動していたため、索敵範囲はかなりのものだが、一度も引っかかっていない。

 ギガンテスはデュラの中か、もしくは防壁が見える程度の距離までしか出てこないのだろう。

 この辺りは事前の目撃証言とも一致している。

 マライアさんは机の上に広げた地図に何かを書き込み始める。

 マライアさんの作業が終わる前に、ドランさんが声をかけてきた。


「魔力袋持ちが多いらしいな?」

「えぇ、ゴライアもゴブリンも、高確率で魔力袋持ちです。体感で三から四割ですね」


 ドランさんが笑みを浮かべ、その後ろに控えていたリーゼさんが苦い顔をする。


「今回はずいぶん稼げそうじゃねぇか」

「今回は手痛い出費がでそうですね」


 団長ドランさんと副団長リーゼさんの意見が食い違っている。

 ドランさんがリーゼさんを振り返った。


「前回のタワーシールドの事なら、今回デイトロが回収する手はずだって言ってんだろ。そうすりゃ収支は黒だ」

「今回は魔力袋持ちの数が多すぎます。機体も損傷するでしょう。コトさん、人型魔物が使用する魔術は?」


 リーゼさんが自身の意見を補強するために、俺に質問を振ってくる。

 今日出遭ったゴブリンたちが使用した魔術はさほど多くない。


「ロックジャベリンとアイシクルです。ただ、アイシクルは手斧に変形されたものしか使ってきませんでした」

「頻度は?」

「半々ですね。ロックジャベリンはゴライアの方が好んで使う傾向にあるようですが、俺もミツキも、仕留めそこなったゴライアとの戦闘は回避したので詳しくは分かりません」


 反撃に飛んでくるのはロックジャベリンがほとんどだった。形状も標準的な槍の形状だ。

 俺の隣で、ボールドウィンが何かを思い出すようにこめかみを叩く。


「開拓学校で習った限りだと、人型魔物が使う魔術は多くの場合、人間が目の前で見せた魔術だけだ。ロックジャベリンはともかく、変形したアイシクルなんて使う奴なら特定できるんじゃないのか?」


 ボールドウィンの言葉にデイトロさんが笑みを浮かべる。


「今、後方で待機させている飛蝗の輜重隊にギルドとの連絡を取らせているよ。特定まで少し時間がかかるだろうけどね」


 さすがに仕事が早かった。

 いまのところは変形アイシクルしか見せてこないゴブリンたちだが、開拓者が一人で今のデュラに行ったとは思えない。十中八九、仲間がいるはずだ。

 そんな仲間が使用した魔術も特定しておかないと、人型魔物たちが切り札として別の魔術を使ってきたときに対策を練り直す羽目になる。

 相手の手の内は暴けるだけ暴いてしまう方が良い。

 細々とした報告の後で、マライアさんが地図を俺たちに見えるように傍らの大男に掲げさせた。

 大男が掲げた地図にはデュラの三方の門と被害状況が描かれていた。

 デュラに北、南、西の三門と東の港がある。

 北と西は門が破壊されているが、防壁そのものは形が残っている。しかし、南門は軍の回収部隊と人型魔物による大規模な戦闘の余波で周囲の建物ごと瓦礫の山と化していた。

 マライアさんが指示棒で地図の北門を指し示す。


「明日、北門をあたしのグラシアの魔術で封鎖する」

「封鎖ってどうやるんですか?」

「出力八割くらいでロックウォールを使用。門を閉鎖して防壁と合わせた完全な壁にするのさ。込めた魔力がなくなれば勝手に消えるが、八割の出力でやれば十日は持つだろ」


 マジックキチガイ仕様機だけあって、魔術の効果時間も規模もおかしい。普通の精霊人機で門を塞ぐほどのロックウォールを発動しても二日持つかどうかだ。


「その後のグラシアはどうなります?」

「自力でここまで戻って来られるし、小競り合い程度の戦闘なら問題なくこなせる。だが、魔力を込め直すために翌日は動かせなくなると思いな」


 軍の持つ専用機と同等以上の性能を持つと言われるグラシアが一時戦線を離脱するデメリットよりも、デュラの門の一つを封鎖できるメリットの方が大きいか。

 何しろ、人型魔物の逃走経路が一つに限定できる。それはすなわち、挟み撃ちさえ可能になるという事だ。

 まぁ、挟み撃ちにするにはこちらの戦力が足りないから、逃走経路を限定する事で追撃組の分散を防止する意味合いがあるのだろう。


「回収屋と鉄の獣は北門周囲の魔物を削れ。封鎖作戦は午後から執り行う。青羽根、明日は前哨戦だ。あまりはしゃぐんじゃないよ?」

「わかってますって。マライアさんに逆らうと後が怖いんだから」

「マライア姐さんだ。覚えときな」


 あれ? デジャブ?



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