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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第三章  彼と彼女は見つめあう

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第二十話  新兵器開発

 ガレージにディアを止めた俺は、同じくパンサーから降りたミツキと一緒に家の中に入った。

 厄介なことになった。

 マライアさんが本当にバランド・ラート博士の情報を持っているかはわからないが、奪還作戦への参加を要請された以上、報酬を先払いにさせれば情報の有無を確認することは可能だろう。

 できれば、デュラ奪還作戦への参加を避けたいのが本音だ。

 今回の作戦にはデュラの元住人は参加しないようだが、それでもマライアさんの指揮に従うのはリスクが大きい。


「……どうしたもんかな」


 ソファに腰掛けて、腕を組む。

 バランド・ラート博士の研究所は確かに知りたい。研究内容から俺たちが転生した理由を知ることができるかもしれない。


「ミツキはどう思う?」

「研究所の重要性は高いと思う。でも、デュラ奪還作戦が数日で終わるとも思えないし、ワステード司令官から出されたリットン湖攻略戦への参加に間に合わせないといけないよね。時間が足りるかも考えておかないと」

「リットン湖攻略戦か。ワステード司令官が降格になって今のボルス司令官は暫定的にホッグスが務めてるんだろ?」


 この二週間の新聞報道はすべてチェックしていたが、ボルスの司令官が正式に決まったという話はなかった。

 暫定司令官のホッグスはバランド・ラート博士の事を嗅ぎまわる俺たちを遠ざけた張本人だ。

 もしもホッグスがリットン湖攻略の指揮を取ることになると、俺とミツキを使い潰そうとする可能性すらある。


「リットン湖攻略が始まる前にボルスに潜入して内情を探る必要がある事に変わりはないし、デュラ奪還作戦への参加期間も必然的に短くなるな」


 使える時間はせいぜい二週間。この港町で準備を整えて出発し、デュラに行くだけでも四日はかかるだろう。奪還作戦そのものに使える時間は一週間と少し、ギリギリだ。

 ギリギリ、間に合う。


「時間的には断る理由がないな。バランド・ラート博士の研究所を教えてもらえるなら利益もある。だけど……」

「信用できない?」


 ミツキの問いに深く頷く。

 そう、信用できないのだ。

 いつもいつも、誰かを救っても、努力の成果が認められない。

 助ける事が出来たのは俺たちが開発した精霊獣機のおかげだというのに、誰もそれを認めようとしない。

 能力を評価する者はいる。ロント小隊長やマライアさんがそうだろう。

 しかし、能力を評価しただけで存在は認めようとしない。気持ち悪いだとか言って、使えるから使っているだけ、利用しているだけだ。

 俺たちはただの評価なんて求めていない。

 開発するための努力と、それに伴う思い出の全てを否定しておいて、ただ利用するなんて所業は、前世でミツキを利用した連中やデュラの住人となんら変わらない。

 だから、精霊獣機を精霊獣機として認めない連中は信用できない。

 マライアさんもそうだ。あの人も利用することを考えている。見返り用意するだけマシな部類だけど。


「開発という意味ではスカイの改造も似たようなものだけどね。私たちをデュラ奪還作戦に引っ張り出す餌として、マライアさんに体よく利用されちゃってる」

「だが、スカイは改造後でも受け入れられている。技術を公開すれば、一部で真似する者も出てくるだろう」

「技術の話じゃなくてさ」


 ミツキが首を横に振る。

 ソファーの上で胸に膝を引きつけて体育座りをしたミツキは、言葉を選んでから俺を見た。


「努力と思い出を人質に取られているっていう話だよ。青羽根の人たちとスカイを改造したでしょ。努力と思い出を詰め込んでできた今のスカイを手放したくはないって、少なくとも青羽根の人たちは思ってるよ」

「そうかな?」


 協力と言えば聞こえはいいが、実質的に俺とミツキが振り回していただけだ。

 どこの誰とも知らない相手に改造された機体に愛着が持てるだろうか。命を預けられるだろうか。

 違和感なく受け入れられるのなら、マライアさんも罰として俺たちに弄らせたりはしなかったはずだ。


「青羽根の連中は思い出だなんて思ってないだろ。忘れ去りたい過去なんじゃないか?」

「そうだとしても、青羽根の人たちがいまのスカイを元の状態に戻すことを渋っているのは確かだよ。それは努力の結果を受け入れているからだと、否定したくないからだと、私は思うの」


 ミツキは俺をまっすぐ見据えてくる。

 俺たちと一緒にした努力の成果である今のスカイを青羽根の連中が残しておきたいというのなら、それに協力するべきだろう。

 だが、俺はミツキに言っておかなくてはならない。それが嫌なセリフだとしても。


「ミツキ、期待するだけ無駄だ。それだけは忘れるなよ」

「分かってるよ。良く分かってる」

「そうか」


 俺はミツキの肩を引き寄せる。

 ミツキが頬を膨らませた。


「過去を思い出させておいて、傷心に付け入る手口。これで何人の女の子を泣かせてきたのかな?」

「酷い言われようだな。マッチポンプなのは確かだが、下心はない」


 苦笑交じりに肩を竦めると、ミツキは「本当かなぁ?」と言いつつ俺の頬を指先でつついてくる。


「本当だ。この流れで口説くほど落ちぶれてないし、無神経でもない」

「無神経ならもっと器用に立ち回れたもんね」


 そう、自分に対して無神経に立ち回れていれば、悩む事もなかっただろう。


「決まりだな。デュラ奪還作戦に参加はする。ただし、条件は付けておこう。自主裁量は認めてもらわないと困る」


 ミツキが俺の言葉に頷いた。


「私たちはもちろん、スカイが使い潰される事態を避けるためにも、私たちが独自の判断で動く権利は確保しておかないとだよね」


 俺はソファーから腰を上げた。

 奪還作戦への参加が決まった以上、マライアさんと条件の摺合せや出発前の準備をしなくてはいけない。


「ねぇ、ヨウ君。例の兵器、完成させるの?」

「完成させる。奪還作戦で使うかはわからないけどな」

「切り札になるもんね。手伝うよ」


 ミツキが立ちあがる。


「パンサーにも例の奴を加えておかないとな」

「乱戦時に使うあの兵装? 時間足りるかな」


 間に合わない可能性はあるが、それでも取り組まない理由にはならない。何しろ命がかかっている。手札は多いに越したことはない。

 俺たちは作戦に備えて、ガレージに向かった。

 時間はあまりないが、精霊人機スカイの改造で得られたデータもある。流用できる部分もあった。


「さぁ、大型魔物も屠れる新兵器開発、いってみようか」


 ガレージに続く二重扉を開け放ち、俺は宣言した。

 ディアに歩み寄り、まずは二本の角を外す。

 続いて、首回りの装甲版を外し、内部をあらわにした。

 俺が扱う対物狙撃銃の反動を軽減するためにいくつものサスペンションが配置され、照準誘導を助けるための部品が組み込まれている。

 設計図と照らし合わせても分からない者が大半だろう、実に複雑な造りをしていた。一部は俺とミツキが手作りした部品でもあり、なおさら機能の理解の難易度を上げている。


「まずは部品を全て外して配置を考えつつ、魔導鋼線を魔導チェーンに入れ替える」

「反動による断線を防止するための処置だね」

「何しろ、あの威力だからなぁ」


 二週間前に行った試射を思い出す。

 爆発音が凄まじかった。大砲かと思うほどだ。

 反動もかなりの物で、ディアの首による衝撃吸収でも耐え切れず、銃架にしていた二本の角が対物狙撃銃ごと後方に吹っ飛んだ。

 もしも、魔導鋼線を繋いだ遠隔操作で試射していなかったら、俺も後ろにごろごろ転がっていただろう。

 ディアの首を分解しつつ、ミツキが口を開く。


「発想からしてぶっ飛んでるよね」

「褒め言葉か?」

「半分くらいは」


 残り半分の成分は聞かないでおこう。


「対物狙撃銃強化魔術式、カノン・ディア。アレの反動の原因は分かったの?」

「威力が大きすぎるってのもあるけど、一番の原因はマズルブレーキからの空気流入だな」


 対物狙撃銃をそのまま使用する限りはあり得ない現象だが、カノン・ディアでは避けられない問題だった。


「どうするの?」


 ミツキに解決策を訊ねられ、俺は魔導核を指差す。


「威力を少し抑えつつ、遊離装甲の魔術式で押さえつける。幸い、砲身部分は使い捨てだから傷んでも問題ない」


 だが、カノン・ディアだけでもかなりの魔力を使用する上に、遊離装甲の魔術式で砲身を固定するとなると魔力の消費量が多すぎる。


「切り札的な使い方しかできなくなるんだよな」


 魔力消費量と、反動に耐えるための姿勢作り、そういったものを考えると使える場面は限られてくる。

 魔導チェーンを持ってきてくれたミツキがディアの背中に手を置いた。


「使い勝手が悪くても、切り札はあった方が良いよ。今まで逃げる以外の選択肢がなかった大型魔物に対しても攻撃手段があるってことは、戦術幅も広がるんだからさ」

「過信はしないでくれよ。威力は保証するが、それにしても使い勝手が悪すぎる。とっさに撃てるものでもない」

「大丈夫、撃てるようにフォローするのが私とパンサーの仕事なんだから、そこは安心してくれていいよ」


 かっこいい事を言ってくれるミツキに励まされつつ、ディアの首パーツを入れ替える。

 魔導チェーンのおかげで、首が意図せず大きく動いても断線の心配はない。前回の試射では魔導鋼線が反動で切れてしまい、首から上が動かなくなってしまったのだ。

 次にディアの角だ。

 ヘラジカのそれを模したディアの角は板状で、上部に銃架としても機能する窪みがいくつもある。

 俺はディアの角を持ち上げて重さを量りつつ、設計図と見比べて許容できる重量を計算する。


「根元付近の厚みを増して、半ばから先は今まで通りの厚さでいいか」

「カノン・ディアは正面に向けてしか撃てないから、それでいいと思うよ」


 意見がまとまって、俺はディアの角の素材である鋼板を取りにガレージの奥の資材置き場に向かう。

 ディアの角は俺たちが自作しているパーツの一つだ。

 頭が支えられる重量、敵の攻撃を受け止める強度、俺が対物狙撃銃の銃架として使いやすい窪みの位置、すべて自分たちで計算して製作している一点物である。二本あるけど。

 俺が鋼板を資材置き場から持ち出すのと、ミツキが角の留め具を作り始めるのは同時だった。

 角の厚みが増してしまうため、留め具も作り直さなければいけないのをすっかり忘れていた。


「ヨウ君は角の作成をして。私は留め具だけ作って、洗濯物とか買い出しリストを作るから」

「留め具も俺がやるよ。代わりに風呂を洗っておいてくれ」


 これから角の切り出しなどでかなり汗をかくことになる。

 俺は鋼板カット用の工具に視線を移す。

 魔導核にいくつかの魔術式を刻んでおけば、前世にあった工具よりも高性能なものがいくらでも作れるのだから、つくづくこの世界は魔術と魔導核を基盤に成り立っているのだと感心する。

 もっとも、工具を自作しようと思えばそれなりの知識が必要になるから、誰でもマネできるものでもない。

 ガレージを出ていくミツキの後姿を見送って、俺は作業に取り掛かった。


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