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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第三章  彼と彼女は見つめあう

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第十九話  新型機スカイ

 半月が過ぎて、開拓団〝青羽根〟の精霊人機スカイは新型機と呼べるほどの変化を遂げていた。

 機体そのもののスペックは近年開発された中では低い方だろう。それもそのはず、全体のあちこちの魔導鋼線が魔力伝導率の低い魔導チェーンに交換されているため出力が落ちているのだ。

 しかし、戦闘を行わない限り最新型の精霊人機よりも稼働時間が三割強伸びている。

 防御力も改造セパレートポールである程度担保されていた。

 だが、この機体には今までの精霊人機にはない特徴がある。

 戦闘時に発揮される各種魔術によるブースト機能だ。

 ボールドウィンが操縦する精霊人機スカイがハンマーを構えた。

 場所は港町の郊外にある演習場。陥落したデュラの代わりとしての機能を求められたために最近になって整備された場所だ。

 スカイの前にはカメの形をした大型魔物タラスクの甲羅が設置されている。甲殻系の魔物であるため、この甲羅を破壊できるならば、ほとんどの大型魔物に対して有効な打撃力を有している証明となる。


「いざ!」


 ボールドウィンの声が拡声器から発せられる。

 直後、スカイがハンマーを振り下ろした。

 改変圧空の魔術式が発動し、ハンマーの背に突風が叩きつけられる。

 強烈な追い風を受けて急加速したハンマーはスカイの機体スペックどころか最新型の精霊人機でも出せないほどの速度でハンマーを振り下ろした。

 暴れる突風の立てる音がしたかと思うと、巨大な破砕音と共にタラスクの甲羅にひびが入り、演習場の地面に埋め込まれた。

 観客席に座っている俺たちの下に届いたのは音だけではない。ハンマーの追い風となっていた突風の余波と、それに続くような地揺れだ。

 すでに機体の基礎スペックではありえない結果を出していたが、スカイの真価はむしろここからだった。

 重たいハンマーを魔術の力まで借りて思い切り振りおろした以上、スカイは硬直するはずだった。

 だが、わずかにハンマーを持ち上げた瞬間、タラスクの甲羅とハンマーの隙間に圧空の魔術が発動する。

 圧縮空気の気圧でハンマーの持ち上がる速度が僅かに上がる。

 ――そして圧縮空気が弾けた。

 巻き起こる突風がハンマーを急速に持ち上げる。スカイの本来の力と合わさって、ハンマーは一瞬で振り上げられた。

 振り上げに時間がかかるはずのハンマーを軽々と操りながら、スカイが次の攻撃に移る。

 ただ勢いよく前に出ただけだ。

 しかし、スカイが前に出た瞬間その身に纏う遊離装甲、改造セパレートポールがタラスクの甲羅に勢い良く叩きつけられる。直後にスカイとセパレートポールの隙間から強風が周囲に吹き散らされ、演習場の砂を高く、高く巻き上げた。

 改造セパレートポールは半円を底面に持つ柱であり、内部が空洞になっているため精霊人機側からの風を効率よく受けることができる。

 スカイの体当たりに合わせてセパレートポールに改変圧空の魔術で生み出した突風が衝突し、勢いよく前に突き出すのだ。

 遊離装甲を利用したシールドバッシュである。

 かなりの重量があるはずのタラスクの甲羅が僅かにずれるほどの威力だ。この技が全方位何処から来た攻撃に対しても自動発動する。

 敵が肉弾戦を挑んできた場合、この遊離装甲を使ったシールドバッシュ機能は防御ではなく反撃としての威力があるだろう。

 最後に、スカイはタラスクの甲羅から距離を取ってハンマーを腰だめに構えた。

 最新の精霊人機でも間合いに入っているとは言えない距離だ。機体スペックに劣るスカイであればなおさらである。

 しかし、戦闘時のスカイであれば、この間合いが最大の攻撃力を発揮できる。

 スカイがタラスクの甲羅に向かって駆け出す。

 しかし、スカイの加速力は最新の精霊人機のそれよりもはるかに上だった。速度重視の設定を施されているデイトロさんの愛機レツィアに迫る勢いだ。

 スカイの加速力の秘密は機体後部で発生した圧空の魔術式による強烈な追い風と、機体の前面に配置されている改造セパレートポールによるスリップストリームだ。

 魔術によって支えられ、加速しているセパレートポールは精霊人機から完全に切り離された遊離装甲であり、ある種独立した一個の物体である。

 つまり、セパレートポールが受けた反動は精霊人機スカイに影響を及ぼさない。逆もまた同様だ。

 ならば、セパレートポールをスカイよりも加速させて風圧を軽減することができる。

 遊離装甲で風を軽減する発想を得た時、俺はもう一歩踏み込む事にした。

 それがこの遊離装甲によるスリップストリームだ。

 押しのけた進行方向上の大気がセパレートポールの後部で渦を巻き、周りの空気と共にスカイの機体を引きずり込み、加速を助ける仕組みである。

 この加速機能によって、スカイはその機体性能を超越した絶大な加速性能を有している。

 あっという間に距離を詰めたスカイがタラスクの甲羅の直前で急停止する。

 本来であれば限界を超えた速度に引っ張られて停止ができないはずのスカイだったが、足回りの改造セパレートポールが勢いよく地面に突き刺さって障害物となり、スカイの足を無理やり止める。

 それまでの加速に引っ張られる形で腰から上が前のめりになろうとするのを、操縦者のボールドウィンが制御し、遠心力に変える。

 そして、捻った上半身の勢いがそのまま、腰だめに構えていたハンマーを振り抜く力へと乗せられた。

 次の瞬間、タラスクの甲羅が吹き飛んだ。

 スカイのハンマーが直撃し、タラスクの甲羅が重さを感じさせない勢いで演習場の端まで吹き飛び、壁にぶつかって派手な音を立てる。

 観客席にいる俺たちの足元がぐらぐらと揺れた。


「……マジか」


 ちょっとやりすぎたかも。これでも例の兵器を搭載するのは自重したのだが。 必要な時に最大の力を発揮する、をコンセプトに進めた改造計画だったが、これほどの威力となると反動が激しそうだ。いくら三次元的な自由度が高い魔導チェーンでも断線したり、接続不良を起こすかもしれない。

 緊急で点検作業を指示して、魔導チェーンの様子を見るが、問題はなかった。

 その後、何度か同じように走り込んでからのハンマー攻撃をやらせてみたが、魔導チェーンが外れる様子はない。

 想像以上に魔導チェーンは衝撃に強いようだ。

 動作中の内部の様子でも見れればよかったのだが、映像記録装置もないのでは仕方がない。

 模型で再現してみる事にして、動作テストを終えた。

 スカイから降りたボールドウィンが俺たちへ駆け寄ってくる。


「すっげえって、これ! 頭の中で描いてる無茶な動きも簡単に再現してすぐに次の動作に移れ――」

「落ち着け」


 スカイを指差しながら興奮気味に乗り心地を語ってくるボールドウィンを宥める。

 この二週間、何度もスカイに乗ってきたボールドウィンだが、初めて的に対して動作確認し攻撃力を確かめたことで、興奮しているようだった。

 整備士たちがスカイを見上げて腕を組む。


「普段から戦闘時と同じ動きをするのは無理だが、ひとたび戦い始めると見違えるな。とんだ怠け者だ」

「酷い言い方だな。普段は力を抜いてここぞという時に備えるのは悪い事じゃないだろ」

「別に悪口じゃねぇよ。褒めてんだ」


 整備士長がむっとした顔でそっぽを向く。素直さのかけらもない奴だ。

 観客席の上の方で俺たちの成果を見学していたマライアさんたちが下りてくる。


「基礎スペックを下げたと聞いた時は何をするつもりかと思ったが、魔術格闘戦仕様に仕上げるとはね。この様子なら前衛を任せても大丈夫そうだ」


 マライアさんが革ジャケットのポケットに両手を突っ込んで、スカイを眺める。


「でも、ここまでのもんにしちまうとは、少し不味い事になったかね……」


 不穏な物言いに首を傾げていると、デイトロさんが説明してくれた。


「専用機との戦闘が可能なほど優秀な機体や乗り手は軍に目をつけられるからね。強力な開拓団ならともかく、青羽根程度の弱小だと軍に接収されかねない。反逆者扱いは嫌だろう?」


 それまではしゃいでいたボールドウィン達が真っ青な顔になった。

 確かに、今のスカイは強力な機体だ。普段の魔力消費量は少なく、ひとたび戦闘に入れば魔力を消費しながらも最新型の精霊人機よりも性能が良くなる。相手が専用機でも、場合によっては戦えてしまえる機体だ。


「つまり、やりすぎた?」


 ミツキがスカイを振り返りながら訊ねると、大人団長三人組が一斉に頷いた。

 ドランさんが演習場の監視官が詰めている監視塔を指差す。


「いまさら性能を落としても無駄だ。監視官に見られちまった。もうギルドに連絡がいってる頃だろう」

「ギルドは軍と仲が悪いし、こっちの味方をしてくれるんじゃ?」


 ボールドウィンの言葉にマライアさんが意地悪な笑みを浮かべた。


「失態の穴埋めにあたしを呼ぶような腰抜けギルドが何を守れるっていうんだい?」


 期待するだけ無駄だというマライアさんの言葉に、ほかの団長も異論はないようだった。

 ドランさんの横にいた、最近はめっきり大人しいリーゼさんが眼鏡を指で押し上げながら説明してくれる。


「専用機に迫る性能を持った精霊人機を開拓団が開発した場合にギルドがとる対処は大まかに二つです。一つは精霊人機の機体性能、使用している部品とメーカー、開発者や整備士の氏名年齢の一般公開と、過去から未来までのすべての整備記録、戦闘記録の公開義務付け、半年に一度ギルド職員及び軍の立会いの下での機体検査です。今回のように開拓団の規模が小さく実績もない時にはこちらが採用される可能性が非常に高いですね」


 開拓団としての情報を丸裸にされる内容だった。まともな神経ならこんな条件を呑まないだろう。

 相手が魔物であれば一切問題のない情報だが、世の中には盗賊団などもいる。すべての情報を明かした上で人間相手に戦うなど自殺行為だ。


「ちなみに、こういった機体は売却できません。購入者には先ほどの義務が適用されますから、誰も買いたがりません。軍はわざわざ買わなくとも機体の情報を手に入れる事ができる立場ですから購入を渋ります」


 なんてやくざな商売だ。これが公権力という名の魔の手か。

 ボールドウィン達も情報公開には乗り気でないようだった。

 そこで、リーゼさんがもう一つのギルドの対処を教えてくれた。


「参考にはならないと思いますが、極端な実績を持っていたり、規模の大きな開拓団の場合は情報公開を求められない事があります。代わりに、ギルドからの要請依頼を受けて仕事をすることが多くなりますが、こちらは報酬もかなりの金額になり、要請依頼を拒否することもできます」

「至れり尽くせりに聞こえますけど、どれくらいの規模が必要なんですか?」


 そんなうまい話があるはずないと思い、条件を尋ねると、リーゼさんがマライアさんを振り返った。

 マライアさんがにやりと笑う。


「大型魔物討伐数は十、さらに魔力袋持ちの大型魔物討伐数が七、開拓地の攻略戦を行って自前の開拓地を持ち、規模は戦闘員で三百、精霊人機は三機を所有。これはあたしが精霊人機グラシアを開発した時の実績と開拓団〝飛蝗〟の規模だ」


 マライアさんの口振りは、まるでスカイと同等の性能の精霊人機を開発した経験があるようだった。

 デイトロさんが頭を掻く。


「姉御の乗ってる精霊人機グラシアは専用機と互角以上に戦える、ギルド所属機の中でも一、二を争う超攻撃型の機体だよ。あの頃は手続きに奔走して酷い目にあったんだ」

「デイトロはあの頃から足が速かったね」


 ケラケラ笑うマライアさんにデイトロさんがため息を吐く。

 マライアさんは愛機グラシアを作った事でギルドから依頼を要請されることになったという。情報公開も提案されたが、突っぱねたそうだ。


「どんな機体なんですか?」


 興味を引かれて訊ねてみると、デイトロさんが疲れた顔で答えをくれる。


「広域殲滅魔術戦仕様、バカみたいに巨大な蓄魔石を積んで、団員百人がかりで魔力を込めてようやく稼働できる燃費を度外視した機体だよ」


 なるほど、マジックキチガイ精霊人機、マジキチ機か。

 マライアさんの機体の話は脇に置いて、今相談すべきは青羽根の精霊人機スカイの今後だろう。


「情報公開は嫌なんだろう?」


 青羽根の団長であるボールドウィンに問うと、絶対に嫌だという答えが返って来た。

 俺だってディアの情報を公開しろと言われたら全力で抗議するだろう。

 リーゼさんが精霊人機スカイを見上げる。


「独自技術の塊ですから、特許を出願して継続収入も見込めるのですが……」

「特許は鉄の獣が持ってるからね。青羽根には一銭も入らないよ」


 リーゼさんの解決案が一瞬でマライアさんに潰された。

 特許料は俺とミツキに入り、青羽根は情報公開をするだけで丸損だ。

 特許を譲渡することもできるが、さてどうしたものか。

 演習場の出入り口からギルドの職員が入ってくるのが遠目に見えた。


「足止めしてやるから、足元みられねぇ様に意見をまとめとけ」


 ドランさんがリーゼさんと一緒に職員へ歩いて行く。

 時間はもう残り少ない。

 その時、マライアさんが口を挟んできた。


「書類上、青羽根が飛蝗の傘下に入れば解決するけどね。ギルドに文句を言わせないだけの力をあたしらは持ってる」

「いいんですか!?」


 マライアさんの言葉に、ボールドウィン達が身を乗り出した。

 専用機に迫る戦闘力を持ったスカイを手放すのは惜しいと考えていたのだろう。

 だが、マライアさんは肩を竦めた。


「あたしに利益がないんだよ。困ったね」


 ボールドウィン達が顔を見合わせる。

 青羽根は立ち上げたばかりの開拓団だ。構成メンバーも開拓学校を卒業したばかりの若者で、マライアさんを納得させるほどの報酬を出せない。

 マライアさんはわざとらしく俺とミツキを流し見た。


「デュラ奪還作戦に鉄の獣が参加するっていうなら、青羽根の後ろ盾になってもいいね」


 ボールドウィン達が一斉に俺たちへ期待の篭った目を向けてくる。

 ミツキが俺を見て微笑んだ。

 答えは決まっている。

 俺は笑顔でミツキに頷きを返し、そのまま笑顔をボールドウィン達へ向けた。


「決まりだな。スカイをもとの状態に戻そう」


 結論を口にすると、ボールドウィン達は何を言われたのか分からないという顔をした。

 仕方がないので説明する。


「性能を落としたところで新型機と変わらないのでは情報公開を求められる。それなら、いっそ元の状態に戻してしまえば開発したスカイの機体情報を渡すだけで済むだろ」


 そうですよね、と話を振ると、デイトロさんはあいまいに頷いた。


「そうだね。元のスカイなら新型どころか少し古いくらいの機体だ。情報公開を求められることはないと、デイトロお兄さんも思うよ」

「やっぱり。では決まりです。スカイをもとの状態に戻しましょう。今回は縁がなかったという事で――」

「ちょっと待てよ!」


 ボールドウィンがストップをかけてくる。


「なんでそんなすぐに諦めるんだよ!」

「ずっと言ってるだろ。俺たちは奪還作戦に参加しない。二週間無駄にしたけど、青羽根の高く伸びた鼻っ柱も折れて丸くなったんだから、マライアさんも満足でしょう?」


 マライアさんが目を細めて青羽根の青年たちを見回し、合格だね、とだけ呟く。

 青年たちの教育が済んだ以上、副産物であるスカイの改造を無かったことにしても問題はない。

 マライアさんが俺を見る。


「強情だね。そんなに誰かの指揮に従いたくないのかい?」

「そうです。指揮下には入りません」


 マライアさんは腕を組んで空を見上げ、ふと思いついたように俺に視線を戻す。


「バランド・ラートについてはまだ調べてるのかい?」


 ……どこから情報を仕入れてきたんだ?

 警戒しつつ見返すと、マライアさんはにやりと笑う。


「あんたたちの事を調べたら、町でバランド・ラートについて聞き込みをしてた、と証言が上がってね。ずいぶん古い話だったからダメ元だったんだけど、その様子だと図星みたいだね」

「……だったらなんだっていうんです?」

「バランド・ラートの研究所の一つを知っている。昔、あたしの愛機グラシアを見に来たバランド・ラートに話を聞いたからね」


 よりにもよって、マライアさんは俺たちが初めて出会うバランド・ラートと面識のある証言者らしい。


「どうする?」

「……相談させてください」

「明日までに決めな」


 苦い思いを抱きつつ、俺はミツキと一緒に演習場を後にした。

 精霊人機スカイに関しては俺たちの結論を聞いてから決めるという事でギルドとも話がまとまったらしい。


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