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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第三章  彼と彼女は見つめあう

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第十五話  開拓団『飛蝗』

 フハハハハ、キタコレ。

 ボルス防衛戦から五日が経ち、俺たちは拠点にしている港町に戻ってきていた。

 借家に帰ってすぐガレージに籠った俺は道中でつらつらと考えていたこの超兵器を完成させたのだ。

 コレならギガンテスにもダメージ入るんじゃないか?

 さすがにガレージ内でぶっ放すわけにもいかないので試射はまだだが、威力は十分のはずだ。

 俺は圧空の魔導核を握りしめる。これが、これこそが先見の明。


「フフフ、フハハハ」

「――ヨウ君、朝ご飯できたよ」

「おう、いま行く」


 ミツキに呼ばれて、俺はすぐに無理やり上げていたテンションを戻してガレージを出る。

 腹ごしらえは大事だ。ミツキの料理ともなれば、食べないのは人生の損失である。

 リビングに行くと、ミツキの料理が並んでいた。


「いただきます」


 席に着いて手を合わせ、さっそく食事を開始する。

 海藻サラダに箸を伸ばすと、茹で卵を食べていたミツキが質問してきた。


「完成したの?」

「あぁ、完成した。試射をしたいけど、この辺りでぶっ放すわけにもいかないから午後に出かけるよ」

「私も行く」

「それじゃあ、帰りに市場に寄ろうか。今日は旧大陸からの船が来航するから、面白い物があるかもしれない」


 今日は新超兵器の試射以上に面白い物はないと思うけど。

 いやはや、楽しみだ。予定していた蓄魔石の出力上昇に耐えうる部品の自作は遅々として進んでないのが玉にきずだが、この数日は充実した開発生活だった。

 食事を終えて食器を洗った俺は、リビングのソファでミツキが読んでいる新聞を覗き込む。

 見出しにはボルスの英雄、過去を暴露と書いてある。


「ベイジルが当時の手記を公表したみたいだよ」


 ミツキが俺にも見やすいように新聞を持ち上げてくれた。

 小さな記事だ。


「――それでも慕う者は多い。それは彼が今までの人生で積み上げてきたモノが曲がりなりにも英雄としての条件を満たしていたからだろう、ね。いい感じに締めてるな」

「あくまでも美談にしておきたいのかもね。ボルスが大損害を被ってリットン湖の攻略が先延ばしになったから、攻略隊の士気を保っておきたいんだよ」

「さもありなん。とはいえ、周りが認めてるんならそれでいいか」


 結局、俺たちにとっては他人事でしかないし。


「それより、早く試射しに行こう」

「ヨウ君、新しいおもちゃを手に入れた子供みたいだよ」

「何と言われようと、楽しみにしているこの気持ちは嘘じゃないんだよ」

「家の中でゴロゴロするのもいいと思うんだけどなぁ」

「帰ってからなら付き合ってやるよ」


 そんなわけで、俺はミツキと一緒に町の外へ試射しに出かけた。

 ――結果、ディアが壊れた。



 最悪な結果を出した試射を終えて、俺はふらつくディアを操作しながら借家へ向かう。

 パンサーに乗っているミツキが苦笑する。


「落ち込み過ぎだよ。ディアが壊れたのは想定外だけど、威力は申し分なかったじゃない」

「一発撃ったらディアが壊れるようじゃ、実戦で使い物にならないだろ」


 まさか反動に耐えきれずディアの首がいかれるとは思ってもみなかった。

 ディアの首は対物狙撃銃の反動を軽減し、乗り手の俺に一切反動を伝えないほどのクッション性能を有する。それが一発でいかれたのだ。


「魔導鋼線で遠隔操作せずにヨウ君が直接引き金を引いていたら、肩を痛めていたかもね」


 ミツキの予想に頷く。

 それくらい、新兵器の反動が常軌を逸していた。


「ディアの首を直して、新兵器の反動軽減方法を考えて、場合によっては威力を抑えて……」

「先に私とごろごろしようね」

「おう」


 言葉を交わしている内に借家の玄関が見えてくる。

 俺たちは玄関に到着する前に足を止めた。

 玄関前に見慣れない集団が立っていたからだ。

 黒い革ジャケットを身に着けた、明らかに武闘派の集団だ。女一人に男が七人、男たちは刃渡り二メートル近い大剣を背負っている。どれも大男で、身長は軒並み二メートル超え、鍛えられた身体つきに、鋭い目つきをしている。

 そんな大男七人に囲まれた女は二十代の後半、茶髪をボブカットにしている。赤い革ジャケットの上からも分かるほど女らしい体つきをしていた。

 ただでさえ不気味がられて人が近付かない我が家の前にそんな集団がいるものだから、辺りに人気は全くなかった。

 集団が着ているお揃いの革ジャケットには赤いバッタが描かれていた。おそらく、名のある開拓団の紋章だろう。

 護身用の自動拳銃に手を伸ばしながら、俺は玄関前に立つ集団に声をかける。


「うちに何か用ですか?」


 正直、危なそうだから声を掛けたくなかったんだけど、玄関を塞がれては仕方がない。

 集団の中央にいる女が振り返った。


「鉄の獣の二人組ってのは、あんたたちであってるね?」

「その呼び名は知りません。あなた方は?」


 問い返すと、女は意外そうな顔をした。隣にいる男の背中に描かれている赤いバッタの絵を指差して、俺に首を傾げてくる。


「この紋章を見たことがない? 開拓者にも嫌われてるってのは本当みたいだね。まぁ、そんな気色悪い物を乗り回してれば当然か」


 女は俺のディアを指差してそう言って、ケラケラ笑う。


「開拓団〝飛蝗〟覚えておきな。あんたたちと同じ嫌われ者さ」


 やっぱり聞いたことがない。

 ミツキも同じく聞いた事が無いらしく、首を傾げていた。

 俺たちの反応が薄かったせいか、女は肩を竦めた。


「ちなみにあたしが団長のマライアだ。あたしらは今回のデュラ奪還作戦への参加を依頼されている。そこであんたらにデュラの様子を聞きに来たってわけだよ」


 デュラ奪還作戦なんか知らないんだけど。

 とりあえずケンカを売りに来たわけではないようなので、話を聞くことにする。


「俺たちがデュラに行ったのはロント小隊の偵察任務に同行したのが最後です。情報としては古い部類だという事を念頭に置いてください」

「構わないよ。あんたら以外の参加者はどうにも使えない奴ばっかりだったらしいからね。話を聞けるだけでも御の字さ」


 マライアさんが隣の大男の肩を叩く。すると、大男が石魔術ロックジャベリンを使って足元に石の丸太を転がした。

 マライアさんが石の丸太に腰を下ろして足を組む。


「デュラ出身者が足を引っ張ったと竜翼の下のメスガキから聞いてるよ。ほれ、あんたらもお小言を頂戴した口だろ。細いメガネかけた口やかましいあのメスの事だよ。名前なんつったっけ?」


 マライアさんが空を仰ぐと、大男の一人が口を開く。


「リーザです、姉御」

「思い出した。リーゼだよ、お馬鹿。人の名前を間違えるんじゃないよ」


 マライアさんもその名前、忘れてましたよね?

 マライアさんが俺たちを見て、話を続ける。


「足手まといだった素人共についての話も聞きたいね。奪還作戦にもデュラの足手まといが参加するかもしれないからさ」


 促されて、俺は偵察依頼での話を聞かせる。首抜き童子や二重肘の事も含めて詳細に話していると昼を過ぎ、小腹がすいてきた。

 話し終えると、マライアさんは腕を組む。


「戦い方がやや洗練された人型大型魔物の魔力袋持ちが二体。他のギガンテスも経験を積んでるみたいだね。バス、デル、使いっ走りだ。竜翼の下を引っ張ってきな。それとバカ弟もだ。どこほっつき歩いてっか知らないけど、首根っこ捕まえて引きずってきな」


 マライアさんは矢継ぎ早に指示を飛ばすと石の丸太から腰を上げ、凝りを解す様に肩を回す。


「よし、鉄の獣、あんたたちもおいで。ギルドに圧力かけて足手まといをはじき出さないと命がいくつあっても足りないみたいだからね」

「遠慮しておきます」

「遠慮? 聞いたことのない言葉だね」


 私の辞書にはありませんとばかりに作り笑いを浮かべたマライアさんが距離を詰めてくる。


「時間は取らせないさ。ちょこっと証言してくれるだけでいい。どうせギルドも足手まといがいると開拓者の参加者が少なくなることくらい理解してるんだ。少し突けば折れる。連中はただ、苦情があったから対応しただけだって言い訳の理由を探してだけなんだからね」

「その言い訳の理由に利用されたくないから行かないんですよ」

「強情だね」


 まぁ尊重するさ、とマライアさんは笑って、颯爽とギルドへ去って行った。後に続く七人の大男も合わさって、時代はずれのヤンキーにしか見えない。

 ずっと黙っていたミツキが、パンサーをガレージへ進めながら口を開いた。


「デュラの奪還作戦、参加する?」

「どうしようかな。俺はデュラに思い入れはないけど、ミツキはどうなんだ?」


 ミツキは少し考えた後、首を横に振った。


「いい思い出がないかな。昔の思い出も全部泥まみれって感じ」

「なら、参加は見送るか?」

「デュラ自体はどうでもいいけど、郊外にある私の家が気になるんだよね。この借家もいつ追い出されるか分からないし、家を取り戻しておきたいかな」


 ガレージに入ってパンサーを下りたミツキが壁を軽く叩きながら言う。

 いまのところ、俺たちの他に借り手もいないから、と継続してこの家を借りることができている。

 だが、デュラが陥落して以降の貿易港として賑っているこの港町は急速に整備され始めていた。比例して人口も増えてきて、新しい宿が立ったり駐車場ができたりしている。

 この借家を借りたがる者が今後出ないとも限らない。

 それなら、デュラの郊外にあるミツキの家に引っ越すというのも選択肢の一つではあるのだが――


「奪還作戦に参加するとなると、指揮に従わないといけなくなる。リスクが高すぎるぞ」

「そこが問題だね。いっそのこと、依頼を受けずに参加してみる?」

「邪魔だと言われるのが関の山だな。この町で様子見をしておけばいいんじゃないか?」


 勝手にデュラを奪還してくれるだろ、と他力本願な案を出すと、ミツキがくすりと笑った。


「それ、完全に引き籠りの思考だよ」

「なんてこった。ミツキに毒されたか」

「皿までどうぞ」


 ディアの首を直していると、玄関の呼び鈴が鳴った。

 いつも通りに自動拳銃を片手に扉越しに来客を誰何する。


「どなたですか?」

「ギルドの者です」


 聞き覚えのある声だ。精霊人機の部品の購入を代行するいつもの係員だろう。

 例によって、俺たちへの依頼交渉を回されたか。

 扉を開けてみると、係員が青い顔で立っていた。何故か後ろには革ジャケットの大男が立っている。


「開拓団〝飛蝗〟より要請がありまして、お二人の実力を見てみたいと依頼が発注されています」

「お断り――」

「待ってください!」


 断ろうとしたら、係員が食い気味に口を挟んできた。


「飛蝗は今回のデュラ奪還の主力なんです。前回の偵察依頼のごたごたが他の開拓者にも知られてしまって、他に依頼を受けてくれる相手もいないんですよ。いま飛蝗にまで依頼を受けてもらえないと奪還作戦が実質不可能になるんです!」

「そんなこと言われても、開拓者が参加しないと分かればマッカシー山砦なり、旧大陸の本国なりが増援を出すでしょ」


 言い返すと、係員が口ごもった。

 すると、革ジャケットの大男がポケットに手を突っ込んだまま、肩で係員を押しのける。


「防衛拠点ボルスが甲殻系の魔物に襲撃されて大損害を出してる。その関係で軍の方がごたごたしていて増援を出す余裕がない。というのは建前で、デュラの奪還作戦にギルドが参加しないと開拓者ギルドの発言力が低下するから、ギルドの連中はビビってんのさ。うちに声がかけられたのもその関係だ。ギルドはどうしても今回の奪還作戦に参加して、前回の偵察作戦の失態の穴埋めをしつつ成果を上げたいらしいぜ」


 係員が言いよどんだギルドの内情をさらっと暴露して、革ジャケットの大男は係員を横目に睨む。


「ギルドは焦ってるんだ。いまなら言い値で依頼報酬を出してくる。鉄の獣も一枚噛んだらどうだ?」


 やくざな商売に参加するよう勧めてくる革ジャケットさん。

 そんなこと言われても、もうギルド依頼の報酬には興味がない。


「マライアさんでしたっけ? そちらの団長は何で俺たちの実力をみたいだなんて言い出したんですか?」

「姉御の気紛れもあると思うが、鉄の獣が参加すれば索敵能力が大幅に向上するって兄貴が話しててな」

「兄貴って誰です?」

「デイトロだよ。回収屋のデイトロ。一緒に仕事したって聞いたけど?」


 デイトロさんか。

 ――ん? デイトロさん?

 俺は大男の着ている革ジャケットを見つめる。ちょっと悪ぶった高校生が買ったはいいものの着る勇気が無くてお蔵入りになってしまいそうな、量産品の割にイカした革ジャケットだ。

 目の前の筋肉質な大男が着ている分にはまぁ、問題ない。そこそこ似合っている。

 だが……。


「もしかして、デイトロさんもその革ジャケットを着てるんですか?」

「多分、姉御が無理やり着せてる頃だな。回収屋を始めるって言って飛び出してったけど、元は飛蝗の副団長だ。青の革ジャン、まだ持ってるんじゃねぇかな」


 何それ見たい。

 ミツキが口元を押さえつつ肩を震わせている。

 デイトロさんに革ジャケット。しかも青だと。何というミスマッチ感だろうか。そりゃあ逃げ出すよ。

 ぜひ見たい。二日はそれをネタに笑える自信がある。


「依頼内容は?」

「レイグを一頭、討伐してきてもらいたい。この町の近くで目撃されたらしくてな。そこそこ育った個体らしいから、魔力袋持ちの可能性がある。期限は二日だ」

「分かりました。死骸はギルドに届けます」

「おう、楽しみにしてるぜ」


 係員と大男を見送って、俺はディアの修理に取り掛かるべくガレージに戻る。

 ディアの修理に半日、レイグの発見と討伐で一日というところだろう。


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