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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第三章  彼と彼女は見つめあう

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第十三話  二機の猟犬と一機の猟師

 この世界における魔物との戦闘は、精霊人機を核として歩兵、または車両の速度に合わせて行われる。

 ボルス周辺の湿地帯では車両の通行が不可能な場所も多く、歩兵の動きも悪くなる。生息している魔物も防御力が高いだけで動きの遅い種類が多い。

 必然的に、ボルス周辺での戦闘は機動力よりも火力が重視される傾向にあった。

 随伴歩兵の支援を受けながら大型、中型の魔物を精霊人機が仕留めていく。陣取った場所の魔物を討伐し終えたら、次の戦場へ移動する。その繰り返しだ。

 だが、俺とミツキは精霊獣機に乗っている。速度は折り紙つきだ。

 歩兵の速度に合わせて動くロント小隊を置き去りに、俺はミツキと共に湿地帯を走り抜ける。

 俺たちの後ろにはベイジルが操るアーチェが走っていた。

 正面に魔物の集団が見えてくる。

 俺はすぐに対物狙撃銃をディアの角に乗せて引き金を引いた。

 ザリガニ型の中型魔物ブレイククレイの頭が銃弾を受けて弾け飛ぶ。

 俺が次弾を装填している間に、ミツキが自動拳銃の引き金を立て続けに引いて、近づいてきていたエビ型の小型魔物アップルシュリンプを三体始末する。

 走り続けるディアの上で装填を終えた俺は、生き残っているブレイククレイを撃ち殺して対物狙撃銃を背負い直す。

 太ももの自動拳銃をホルスターから抜いて、後方を走っているアーチェに乗っているベイジルに一時停止の指示を出す。

 アーチェが急停止した直後、ミツキがパンサーを操作してアーチェの膝や胸を足場に高く跳躍させ、空中で素早く周囲を観察してから地面に降り立つ。


「南西方向にブレイククレイの群れ」


 アーチェを足場に跳躍する事で周囲の状況を目視したミツキが短い報告をくれる。

 俺は即座にディアの進路を南西に向けた。

 フルスロットルで湿地を駆ける。

 ディアが鳴いて索敵魔術に反応があったことを知らせてくれた。

 即座に、俺は後方を走っているベイジルに次の指示を出す。


「弓で狙撃、二射」


 アーチェが走りながら長弓を構える。大型魔物の腱で作られた太い弦を引き絞り、弓がしなる。

 次の瞬間、アーチェの魔導核に刻まれたロックジャベリンの魔術式が作動し、長弓に矢を模したロックジャベリンが番えられた。

 アーチェが一瞬立ち止まり、弦を摘まんでいた右手を開く。

 次の瞬間、ドンというとても弓から発せられたとは思えない巨大な音が響き渡り、ロックジャベリンが射出される。

 回転しながら飛んでいくロックジャベリンの矢が俺たちの頭上を飛び越え、前方の地面を盛大に弾き飛ばした。ブレイククレイの物と思われる白っぽい肉片や赤色の甲殻片が土砂に混ざって四方へ飛び散っているのが遠目にも確認できた。

 アーチェが再び走り出して長弓を引き絞り、急停止後にロックジャベリンの矢を放つ。

 再度、前方で土砂と魔物の死骸がまき散らされた。

 俺とミツキが群れのいた場所に辿り着いた時、ブレイククレイの生き残りは恐慌状態に陥っていた。

 三キロ以上先からミサイルのようなロックジャベリンを正確に撃ち込まれたのだ。一射目で死んだブレイククレイには何が起こったのかも分からなかっただろう。

 同情はしない。死ね。

 俺は容赦なく生き残っているブレイククレイを対物狙撃銃で狙撃する。

 俺とミツキに気付いたブレイククレイがようやく反撃に転じようとこちらに駆けだすが、ミツキが自動拳銃で端から順に目玉を撃ち抜いていった。

 ミツキが撃った弾には外れた物も多かったが、赤字覚悟で撃ち尽くした端から弾倉を入れ替えて連射するため、ブレイククレイは次々に視力を無くしていく。

 俺も自動拳銃を抜いてミツキとは逆の端からブレイククレイの目玉を撃ちぬいた。

 無事なブレイククレイが近付いてきたのを皮切りに攻撃をやめ、離脱する。

 視力を失ったブレイククレイが右往左往しているが、止めは刺さない。

 どうせ無力化したのなら、放置して別の魔物を倒した方が戦略上有利になる。

 一瞬にして速度を上げるディアとパンサーを、アーチェがぎりぎりで追いかけてくる。

 ミツキを乗せたパンサーが俺の前に出た。


「こっちの方角」


 ミツキが指差す先に、俺も視線を向ける。

 アップルシュリンプとタニシ型の中型魔物ルェシの混成群が見えた。


「近付くまでもないな」


 対物狙撃銃をディアの角に乗せ、流鏑馬のようにルェシを狙撃する。

 距離があったために俺たちへの警戒を怠り堅固な殻に籠らず頭を出していたルェシが銃弾を受けて即死する。


「アップルシュリンプは無視してこのまま先に進もう」


 小型魔物程度であれば、後から来るロント小隊が瞬殺してくれる。ロント小隊の精霊人機はハンマーを装備しているため、甲殻種だろうが小型の魔物程度は軽々と粉砕するだろう。

 生き残りの魔物を無視して駆け抜ける。

 ディアとパンサーは高機動の精霊人機であるアーチェでさえ追い駆けるのがやっとという速度を平然と出していた。

 ベイジルでなければとっくに音を上げて、速度を緩めるよう言ってきただろう。

 それでもベイジルは文句も言わずに俺たちの後を追ってきていた。

 進路を塞いでいるアップルシュリンプの群れを見つけて、俺は自動拳銃を太もものホルスターから抜き放ち、引き金を引く。

 ミツキと並んでの連射でアップルシュリンプに手傷を負わせたのを確認して、自動拳銃をホルスターに収め、俺はアーチェを置いてけぼりにする勢いでディアに加速を命じる。


「ミツキ、俺の後ろへ」


 俺の意図を察したミツキが一度頷いてディアの背後にパンサーをつける。

 俺は衝撃に備えてディアのレバー型ハンドルを両手で握り込み、重量軽減の魔術効果を一時的に切る。

 次の瞬間、ディアが角を突き出す様に頭を下げた体勢でアップルシュリンプの群れに突っ込んだ。

 高速で走り込んできた鋼鉄製の獣にそのままの重量で体当たりされ、アップルシュリンプが宙を舞う。

 俺はすぐに重量軽減の魔術を最大出力で発動させ、ディアの背中に俺自身の胸をつけるように姿勢を低くする。

 いつもポケットに入れている圧空の魔術式が刻まれた魔導核へ魔力を流し込み、発動させた。

 圧縮された空気がディアの二本の角の内側に発生する。刹那に圧縮された空気が解放され、暴風となってディアの角を、体を押し出した。

 最大出力で発動した重量軽減の魔術により極端に軽くなったディアが俺の発生させた追い風を受けて急加速する。

 一瞬で、アップルシュリンプを弾き飛ばす直前と同等の速度に到達したディアが群れを抜ける。

 重量軽減の魔術を通常の出力に戻す俺の後ろで、ミツキが乗るパンサーの尻尾が左右に振られ、無事だったアップルシュリンプを次々に斬り殺した。

 アップルシュリンプの群れを突破した俺とミツキを追おうとした生き残りも、ベイジルが操るアーチェに踏み殺される。

 あっという間に全滅したアップルシュリンプの群れは気に留めず、俺はまっすぐ前を睨む。


「――ベイジル、やれ!」


 俺が命じた直後、アーチェが急停止し、長弓を引き絞り、ロックジャベリンを矢として番え、放った。

 矢の形をしたロックジャベリンが大気を切り裂き、標的に向かって突き進む。

 標的は魔力袋持ちのカメ型大型魔物タラスク。

 アーチェが放ったロックジャベリンは砲撃タラスクが今まさにボルスに向けて放とうとしていた火の玉を突き破って爆散させる。

 砲撃タラスクは寸前で飛来するロックジャベリンに気付いて周囲に魔術で生み出した石の壁を張り巡らせていた。

 しかし、瞬時に生み出された石の壁すらもアーチェの放ったロックジャベリンは射抜き、砲撃タラスクの右前脚に浅く突き刺さる。

 砲撃タラスクが口を空に向け、痛みに吼える。

 砲撃タラスクの周囲にいた中型、小型の魔物たちも俺たちに気付いて動き出した。

 その間にも、アーチェが第二射を放つ。

 砲撃タラスクが生み出した石の壁を貫いたロックジャベリンが砲撃タラスクの右後ろ脚を浅く抉った。

 軽傷ながら二度も傷を負わされた事で、砲撃タラスクは甲羅の中へ頭や手足を引っ込め、防御態勢を取る。もうボルスへ攻撃する余裕はないらしい。


「周囲の魔物が寄ってくる。三射目の後、砲撃タラスクの後方へ移動する」


 アーチェが三射目を放ち、砲撃タラスクの引っ込めた右後ろ脚にロックジャベリンを突き立てる。砲撃タラスクの足を覆う鱗ではアーチェの矢を防ぐことができない。

 砲撃タラスクの後方に向かってディアを加速させながら、様子を窺う。

 砲撃タラスクは甲羅の隙間を石の壁を生み出す魔術ロックウォールで塞いだ後、更に俺たちとの間にロックウォールを展開する防御態勢に移行した。

 小型や中型の魔物に任せればアーチェの動きを封じることができると判断したのだろう。

 だが、甘い。

 俺はミツキと共に索敵魔術の設定をこまめに変更し、魔物がいない空白地帯を探し当てる。

 あとは空白地帯までアーチェを誘導するだけだ。

 砲撃タラスクの後方に、どれほど訓練された部隊でも不可能な速さで駆け、進路をふさぐ邪魔な魔物を対物狙撃銃と自動拳銃で無力化する。

 あり得ない速さでの精霊人機の運用を、ディアとパンサーの索敵魔術と俺とミツキの広い射程で可能にする。

 ボルス周辺の動きの遅い魔物が対応できるはずもなく、魔物が反撃に転じようとした時その場に俺たちはいない。

 空白地帯に到着してすぐ、俺はベイジルに攻撃指示を出す。


「砲撃タラスクの尻尾を射抜け」

「了解です」


 俺たちがあまりにも速く移動したためか、砲撃タラスクは後ろに回り込まれた事にも気付いていないらしい。甲羅の隙間はロックウォールで塞いでいるが、それ以外の壁はない。

 アーチェが長弓をきつく引き絞ってロックジャベリンを放つ。

 ロックジャベリンは狙い過たず尻尾を射抜き、衝撃で砲撃タラスクの巨体をわずかに浮かせた。

 込められた魔力がなくなって消滅したロックジャベリンの突き刺さっていた尻尾の傷口から、砲撃タラスクの鮮血が噴き出し、近くの木々を真っ赤に染める。


「ヨウ君、魔物が東から来るよ」

「それじゃあ一時離脱で」


 砲撃タラスクがロックウォールを周囲に張り巡らせて完全に引き籠ったのを確認した俺はすぐに離脱を決断する。


「砲撃タラスクの警戒が解けるまで周辺の魔物をリットン湖方面に誘導しつつ、適度に始末する」

「それなら東の魔物から釣り出すね」

「そうしてくれ。ミツキ、誘導を頼む」

「頼まれた」


 ミツキの誘導に従って東に転進する。

 動きの鈍い甲殻系の魔物が追いつけるはずもないが、今回は魔物たちを戦場から遠ざけるための誘導が主目的であるため、ディアの速度を少し落とす。

 牧羊犬のように魔物たちの周りを動き回って、少しずつひとまとめにしてリットン湖方面へ誘導していく。

 砲撃タラスクの周辺にいた魔物をひとまとめにした時、それまで籠城を決め込んでいた砲撃タラスクがロックウォールの魔術を解いて顔を出した。

 すかさず一か所にまとめた魔物から距離を取って魔物のいない場所へアーチェを誘導する。

 危険は去ったと安心してボルスへの砲撃を再開しようとしていた砲撃タラスクに、アーチェの放った矢が飛来する。

 しかし、矢に気付いた砲撃タラスクがすかさず頭を引っ込めた。それまで頭があった位置に矢が突き立つ。もう少し早ければ砲撃タラスクを仕留めていただろう。

 再び籠城を始めた砲撃タラスクを放置して魔物の誘導を再開する。

 その時、ロント小隊が到着した。


「砲撃タラスクを仕留める。精霊人機で三方から囲み、ハンマーで甲羅を破壊しろ」


 ロント小隊長が整備車両の拡声器で精霊人機に指示を与えた。


「アカタタワ、この場はロント小隊が引き受ける。小型中型の魔物をそのまま釘付けにしておいてくれ」


 嫌なこった。


「ヨウ君、悪い顔してるよ」

「お互い様だろ」

「考えることは同じだよね」


 ミツキと笑い合って、ひとまとめにした魔物から距離を取る。

 アーチェを操作するベイジルが疑問を投げかけてきた。


「魔物を釘づけにしろとの指示はどうするつもりでしょう?」

「従う理由がない。ベイジルはいま俺とミツキの指揮下だ。なら、魔物を殲滅した方が早い」


 距離が開いたのを確認して、俺はアーチェを見上げて魔物の群れを指差す。


「俺とミツキが同時にファイアボールを打ち上げたら、その度に魔物の群れの中心に矢を放て」


 命じておいて、俺はミツキと一緒に魔物の群れに向かう。

 アーチェに合わせる必要がなくなり、俺達は精霊獣機を最高速で走らせる。

 対物狙撃銃を背負って、自動拳銃を取りだし、構える。


「俺は右回りで行く」

「私は左回りだね」


 魔物の群れの左側面に回り込んだ俺は、ブレイククレイを優先的に狙って自動拳銃の引き金を引く。

 挑発と受け取ったブレイククレイが動き始めると、周囲の魔物もつられて動き始めた。

 速度に緩急をつけて群れの周りを半周し、ミツキと合流する。

 俺とミツキを追ってきた魔物たちの列がぶつかり合い、極端に密集した。


「せーの」


 ミツキと一緒にファイアボールを空高く打ち上げ、その場を離脱する。

 直後に轟音を伴って魔物が密集していた地点がはじけ飛んだ。アーチェの放ったロックジャベリンの矢が魔物ごと地面を抉ったのだ。

 ばらばらになった魔物の死骸が降り注ぐ。

 離脱していた俺たちは再び群れに向かった。

 左右二手に分かれて恐慌状態の魔物を挑発し、タイミングを合わせて追いかけてきた魔物たちの列をぶつけて密集地帯を作り出す。

 ファイアボールを打ち上げれば、直後に矢の代わりのロックジャベリンが高速で飛来して渋滞していた魔物の群れを粉砕する。

 比較的動きが早いブレイククレイを始末し終えた俺とミツキはアーチェと合流した。

 横目で見ると、ロント小隊が砲撃タラスクを精霊人機の巨大なハンマーで滅多打ちにしている。


「浦島さんがいたら怒るだろうね」

「タラスクがかわいそうに見えてくるからやめろ」


 ミツキに言い返しながら、俺は対物狙撃銃をディアの角に乗せる。

 狙いは俺たちに向かってくる魔物たちの群れの中でも後方にいるタニシ型の中型魔物ルェシだ。

 スコープを覗き込んでルェシの頭を狙う。

 動きを読む必要もないほど動きの遅い魔物だ。垂直な壁を平気で登ってくるような奴だが、平地で相手をする分には的でしかない。

 引き金を引いて、前から順に倒していく。

 いち早くこちらにやってきたエビ型の小型魔物アップルシュリンプはミツキが森に誘導して好き放題に蹂躙していた。

 木を利用した三次元の機動に加え、パンサーの爪や尻尾の刃の攻撃力、ミツキが使う自動拳銃の射程と連射速度の前に、動きの遅いアップルシュリンプは対応できずにバタバタと倒れていく。

 ミツキがアップルシュリンプをあらかた始末したころには、俺もルェシや生き残っていたブレイククレイを片付け終えていた。

 撃ち過ぎて熱くなった銃身を冷ましながら、砲撃タラスクを見る。

 ロント小隊の精霊人機に滅多打ちにされていた砲撃タラスクが体の周囲に巨大な火の玉をいくつも発生させて反撃に転じようとしていた。

 近接戦闘主体のロント小隊の精霊人機相手ならばそれでいいだろう。だが、


「――ベイジル!」


 俺が名前を呼ぶと同時に、アーチェが弓を引き絞った。

 ギシギシと音を立てる長弓に矢の代わりのロックジャベリンが番えられた。

 放たれたと思った刹那、砲撃タラスクが反撃に使おうとしていた火の玉の一つを爆散させた矢が砲撃タラスクの頭を貫き、そばの崖に突き立った。



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