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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第二章  だから、彼も彼女と諦める

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第十八話  戦力配置の会議

明日は私用で更新できないので、先に投稿しておきます。

 キャラバンと合流して、河原の様子を報告する。

 定期的に索敵と進路の模索をするように言われて、ミツキの予想が正しい事を悟った。

 キャラバンは相変わらず森の中を進むのに手間取っているが、朝日が昇るまでには河原に着けるだろう。

 キャラバンの最後尾に戻ると、随伴歩兵のリンデが駆け寄ってくる。


「どうでしたか?」

「河原は砂利に覆われてる。草はまばらに生えてるけど、河原自体は広い。馬車は手間取るだろうけど、森の中を進むよりは走りやすいだろう」

「やっぱり馬車が足手まといになりますか」


 リンデは難しい顔をするとすぐに随伴歩兵たちの下に戻り、いくらか言葉を交わして戻ってくる。同時に、糸目の随伴歩兵が整備車両へ走って行くのが見えた。

 戻ってきたリンデが糸目の随伴歩兵を指差す。


「整備士に知り合いがいる奴です。防衛拠点ボルスまで駆け込める距離まで来たら、整備車両と運搬車両が積んでいる荷物を捨てて馬車の積み荷を乗せるよう進言してもらいます。馬車を捨てれば少しは早くなるでしょうから」

「車両の中身は精霊人機の交換部品だろ。大丈夫なのか?」

「背に腹は代えられないですよ。逃げ優先です。ホッグス司令官には怒られるでしょうけど」


 旧大陸派のリンデたちにとって、新大陸派の司令官に怒られるのはかなり立場を悪くすると思うんだけど。

 しかし、決断したのはリンデたちだ。部外者の俺が口を挟む事でもないだろう。

 リンデが俺に頭を下げる。


「もうしばらく、我慢してください。お二人の足が速いのはさっき確認しましたから、このキャラバンに合わせて動くのはじれったいと思いますけど、どうかよろしくお願いします」


 俺が答える前に、ミツキがすっとパンサーを寄せてきて、俺とリンデの間に割って入った。


「はい、そこまで。私たちが受けた依頼は防衛拠点ボルスまでのキャラバン護衛であって、キャラバンのくくりに護衛部隊は入ってないの。だから、あなたたちは自分の身を自分で守って。私たちに頼らないでね」

「こら、ミツキ」


 押しとどめると、ミツキは俺を横目でにらんでくる。

 リンデを一瞬気にするそぶりをして、ミツキが日本語で俺に声をかけてくる。


「ヨウ君、実力以上の事を安請け合いするのはダメだよ。統率も満足にとれていない護衛部隊の面倒なんて私たちには見れないと分かっていたから、作戦会議でも直接提案するのを避けたんでしょう」


 ミツキの言う通りだ。

 護衛部隊内に発言力を得てしまうと最後まで面倒を見なくてはいけなくなる。だから面倒な思考誘導までして直接の提案を避けた。

 護衛部隊が全滅したとしても、キャラバンを防衛拠点ボルスまで送り届ければ依頼は達成できる。

 俺にとって最も重要なのはミツキと一緒に生き残る事であって、護衛部隊は二の次で良い。

 だが、それは俺にとってミツキが代えの利かない存在だからという後ろ向きな理由を起点とした考え方でしかない。


「安請け合いしなければいいんだな?」


 質問一つでミツキの言葉に逃げ道を穿つ。

 ミツキが唇を引き結んだ。


「……勝手にすれば」

「あぁ、そうする」


 俺とミツキが交わす日本語が分からずとも雰囲気を悟ったのか、リンデがおろおろしている。

 俺はリンデに心配するなと笑顔を向けた。


「絶対に助けるなんて言えないけど、気にしておくよ」


 今できる精いっぱいだ。

 リンデを含む随伴歩兵たちも精霊獣機に対して嫌悪感を抱いているようだが、それでも頼りにしてくれている。

 だから、手を貸す。ここで一歩引いてしまったら、誰の役にも立てない。それはミツキのためにもよくないだろうから。


「ありがとうございます」


 リンデがまた頭を下げて、随伴歩兵組に戻って行った。



 朝日が昇り、空が白み始めた頃になって、キャラバンはようやく河原に到着した。

 途中で一度だけ、後方からカエル型の中型魔物ヘケトが二匹で襲い掛かってきたが、随伴歩兵組が魔術を使って追い払った。

 索敵魔術を使って距離を測ってみたところ、一番近い中型魔物の反応まで五百メートルほどだ。もう距離はほとんどない。

 もう一度、足止めされていれば追い付かれていただろう。

 とはいえ、河原に出ればこっちのものだ。


「歩兵は川沿いに、随伴歩兵および精霊人機は森沿いに並べ。車両で馬車を前後にはさむ。急いで動け!」


 護衛隊長の指示が飛び、各々が持ち場に付く。

 俺とミツキは機動力を生かして援護しつつ、斥候役となった。

 川の上流に向けてキャラバンと護衛部隊が加速する。

 徒歩の歩兵部隊は十人ずつ交代で車両に乗って足を休めているが、リンデ達随伴歩兵は歩きづめだった。随伴歩兵は貴重な戦力である精霊人機を守るためには欠かせないため、休憩させていられないという理屈だ。

 ディアの背に揺られている俺やパンサーに乗っているミツキは体力的に余裕があるが、ヘケトの奇襲を受けた昨日の夜から動き続けているリンデ達随伴歩兵には苦しい道のりだろう。

 リンデ達を気にしていると、ミツキが自動拳銃を構えてパンサーを加速させた。

 俺の乗るディアが鳴き声を発する。

 はるか前方にザリガニに似た中型魔物が川から上がって来たのが見えた。

 俺も対物狙撃銃をディアの角に乗せて加速する。

 ザリガニに似た魔物は体高二メートルほど。しかし全長は四メートルを超えていた。

 ミツキがパンサーの向きを変えて森に入る。木々の間に姿が隠れる直前、ミツキが頭上を指差していた。

 木の上から攻撃を加える算段らしい。

 固い甲殻を持つザリガニ型の魔物を相手にするには、ミツキの自動拳銃は分が悪い。だが、木の上から飛び掛かれば、パンサーの爪と重量で十分なダメージを与えられるはずだ。

 つまり、俺の仕事は――


「動きを鈍らせつつ、気を引けって事か」


 ザリガニ型の中型魔物が頭上を意識しないよう、あるいは反撃が容易には出来ない様に攻撃を加えるのが仕事だ。

 俺はディアの足を止める。

 対物狙撃銃で魔物の鋏の付け根を狙う。胴体との接続部であると同時に関節でもあるそこならば、甲殻も薄いはずだ。

 だが、一発や二発で当てられるほど俺の腕はよくない。

 俺はディアの首の半ばにあるボタンを押して、マッカシー山砦に向かう前に刻んでおいた新しい魔術式を起動する。

 狙撃補助のために開発した魔術式、照準誘導。

 索敵魔術の改造版であり、俺が使う対物狙撃銃の銃口を任意の場所へ誘導するようディアが自動で頭を動かす魔術だ。

 走行中に使用するとディアがバランスを崩してしまう使い勝手の悪い魔術だが、こうして足を止めている間は命中率が大幅に向上する。

 俺が角に乗せた対物狙撃銃の銃口の向きが、ディアによって魔物の鋏の付け根に固定される。

 引き金を引くと、ディアの首が反動を殺すために一瞬縮む。

 発砲音とほぼ同時に、魔物の鋏が付け根ごと河原に落下した。

 青みがかった血が流れ出すのに構わず、ザリガニ型の魔物が威嚇のためにもう一方の鋏を振り上げる。

 露わになった鋏の付け根にディアが自動で照準を誘導してくれた。

 引き金を引けば、先ほどの光景をリプレイするように鋏が落下する。


「ミツキ!」


 声を掛けると、パンサーに乗ったミツキが樹上から飛び降りた。パンサーの前足から鋭い爪が伸びている。

 ザリガニ型魔物の背に着地したパンサーがドスンと重量級の物音を立てる。樹上から飛び降りる直前に重量軽減の魔術効果を弱めたらしい。流石ミツキ、樹上からの攻撃には一家言有るのだろう。えげつない。

 パンサーの着地で凹んだ甲殻とそれ以外の甲殻の間に出来た隙間に、パンサーの爪が刺し込まれた。

 ザリガニ型の魔物が抵抗しようにも、すでに武器となる鋏は地面に落ちていてなすすべがない。

 ミツキが操作すると、パンサーは爪を甲殻に引っかけて力任せに引き剥がした。

 赤い甲殻が転がり、白い身が露わになると、ミツキが太もものホルダーから自動拳銃を抜き放つ。

 三度銃声がして、魔物の体がびくりと震えたかと思うと力を失う。まだ頭のあたりが動いているところを見るに生きてはいるのだろうが、甲殻を引き剥がされて撃ち込まれた三つの銃弾で神経をズタズタされたのか、体に力が入っていない。

 ミツキがパンサーを操作して魔物の背から降りて戻ってくる。入れ違いに精霊人機が魔物に駆け寄って、瀕死の魔物を掴むと川へ無造作に放り込んだ。


「お疲れ」

「爪が錆びないといいんだけど」


 心配そうに愛機の前足を覗き込んで、ミツキが呟く。哀れなザリガニ型魔物の末路は眼中にないようだ。

 ザリガニ型魔物に遭遇したというのに一切減速しないまま、キャラバンと護衛部隊は河原を進む。

 ヘケトの追撃を警戒していたが、川に入ったヘケトたちは広範囲に散らばり始めていた。

 ミツキが木の上から双眼鏡でヘケトの分散を報告すると、商人たちが安堵の息を漏らす。

 それでも、街道から大きく外れてしまっている。地図も当てにならないため、遭難する前に街道へ復帰する必要があった。

 ヘケトとの距離が十分に離れたと判断されたのはマッカシー山砦を出発して二日目の昼だった。ヘケトの夜襲を受けてから十時間を軽く超えている。

 精霊人機の魔力残量が心もとなくなってきたため、小休止を挟み、その間に会議が開かれた。


「そろそろ、河原から離れて森を突っ切り、街道へ復帰しようと考えている。反対者はいるか?」


 護衛隊長の言葉に反論する者はなく、あっさりと街道への復帰が目標となった。

 随伴歩兵の代表として出席しているリンデがちらちらと整備士長を見ている。

 一方で整備士長は完全にリンデを無視していた。

 馬車の積み荷を車両へ移して馬車そのものを捨てて全体の速度を上げる提案は随伴歩兵から整備士長にも伝わっているはずだ。

 だが、状況が予想よりも良くなっているおかげで、危機感が薄れている。実際にヘケトの追撃はないため、危機は去った。

 だからこそ、ここで旧大陸派と新大陸派の派閥争いが表面化した。

 整備士長が腕組みをして、いかにも腹立たしいとばかりに鼻から息を吐き出す。


「実は河原に入る前に随伴歩兵から提案がありましてね」


 さっと、リンデの顔が青ざめた。

 整備士長はリンデの顔色に気付かない振りをして続ける。


「馬車を捨てて逃げるべきだそうで」

「なんだと!?」


 勢い込んで食って掛かったのは商人だ。

 整備士長は、本人から聞けとばかりに初めてリンデへ視線を移す。

 最悪だ。肝心のところをはぐらかしやがった。

 リンデの提案の骨子は馬車の荷物を車両に分散して積む事で速度を上げる事であって、馬車を積み荷ごと捨てるという意味ではない。

 だが、整備士長の口振りではまるで足手まといの馬車を積み荷ごと捨てろと言ったように聞こえてしまう。

 そもそも、河原を走りにくい馬車を捨てるという提案だ。これから森に入る今の段階で捨てるべきはむしろ車両である。

 もっとも、それを主張しても状況は変わらない。商人たちにも車両を一両持っている者がいるのだから。

 知らぬ存ぜぬを通そうにも立場が弱い旧大陸派の随伴歩兵たちへの飛び火は避けられない。

 当面の危機が去ったとはいえ、街道に戻るまでは安心できない今の状況で、一応の中立である商人からの心証も悪くなるのは随伴歩兵にとっても困る。

 商人がリンデを親の仇でも見るような強い視線でにらむ。


「どういうつもりだ。我々が運んでいるのは軍に納入する物資だぞ。それを捨てればあんたら軍も困るはずだろ。考えて物を言え!」

「ち、違います!」

「何が違う!?」


 商人に問い詰められ、リンデが悔しそうな顔をする。

 リンデが、提案の内容を細かく説明すると、商人は眉を寄せた。


「今もその提案を推しているわけではないんだな?」

「もちろんです。今は魔物の襲撃もありませんし、ヘケトの追撃もおそらくありません。危険な状況ではありますが、損をしてでも速度を上げる緊急性はありません」

「当たり前だ! あんたら軍人にとっては足手まといの馬車でも、我々にとっては財産だ。捨てるわけにいくものか」


 吐き捨てるように言って、商人がイライラと足をゆする。

 整備士長の思惑通り、これで随伴歩兵たちはいざという時に商人たちの損に目をつぶってでも逃走を選択すると商人たちの意識には刻まれただろう。

 護衛隊長が商人をちらりと見て、口を開く。


「随伴歩兵は最後尾に付けて森を進む。それでいいか?」

「まとめて同じ場所に配置すると逃げ出すんじゃねぇの」


 精霊人機の操縦士が口を挟むと、商人がじろりとリンデを見て、同意するように無言で頷いた。

 リンデの顔がさらに青ざめる。

 しかし、リンデが反論するより先に整備士長が口を開いた。


「ヘケトに追撃の気配がないとはいえ、絶対がない以上後方の警戒は怠れません。しかしながら、進行方向に何が潜んでいるか分からないのもまた事実、ここは随伴歩兵をぐるりと一回りに配置して斥候役にしつつ、歩兵部隊を左右二手に分けて、前後の守りをそちらの開拓者に任せてはどうでしょう。河原での一戦を見る限り子供ながら腕は立つようですからね。それに、精霊人機を二機とも遊軍として使えます。何しろ全方向に随伴歩兵が最低でも一人はいるのですから、ヘケトに遭遇しても最低限の援護ができるでしょう」


 リンデが口を挟めない様に長広舌をふるった整備士長に、護衛隊長や商人、精霊人機の操縦士が頷く。

 どうも、この整備士長は派閥争いもさることながら随伴歩兵から提案された、精霊人機の交換部品を捨ててキャラバンの積み荷を乗せる案が腹に据えかねているようだ。

 軍の予算など俺には知る由もないが、精霊人機の部品が高額だというのは知っている。精霊獣機にも一部流用してるから、身につまされる話でもある。

 だが、整備士長の提案は受け入れられない。


「その提案は却下します。整備士長がご存じないのも当然ですが、俺とミツキは二人一組での運用が大前提です。前後に分けての配置? 承服できませんね」


 真っ向から否定すると、整備士長は眉を寄せて険しい顔になり、何かを思い出したように目を細めた。


「なるほど、一人では役に立たない、という事ですか。しかし、随伴歩兵を分散配置する事には異議を唱えないんですね。そちらの代表者と仲良く話しているのを度々見ましたが」


 整備士長の言葉を聞いて、商人が鋭い目つきで俺を見据えてくる。お前も随伴歩兵たちの仲間か、と問いたそうな目だ。

 俺は気にせず、肩を竦めて整備士長に応じる。


「その通り、俺もミツキも一人では役に立ちませんし、役に立とうという気もないです。あくまでも分散配置にこだわるというのなら、皆さんを見捨てましょう」

「……依頼を破棄するつもりか?」


 護衛隊長に問われて、俺は笑顔で頷く。


「ここで死ぬよりずっとましですからね」


 ミツキが小さく日本語で「やるじゃん」と呟いたのが聞こえた。そんなんじゃない。黙ってろ。

 俺が譲る気がないとみて、護衛隊長は随伴歩兵たちを見回して疲労の度合いを確認する。


「開拓者二人が断るのなら、分散配置は無理だな。随伴歩兵は殿として最後尾に配置、開拓者二人も同じ場所だ。精霊人機は左右に配置、歩兵は交代なしの二十人で最前列だ」


 新大陸派ながら、護衛隊長は派閥争いで馬鹿な配置をする人間ではなかったらしい。そうでもなければ隊長職なんてできないだろうけど、見直した。

 しかし、整備士長と商人は不満そうだ。

 不満を持つ者もいる中で曲がりなりにも配置が決まったその時、精霊人機の魔力を補充し終えた整備士の一人が、いつでも出発できます、と報告に来た。

 護衛隊長は頷きを返す。


「すぐに持ち場につけ。出発するぞ」


 護衛隊長の宣言で、キャラバンは再び動き出した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 氷純さんの小説は雰囲気が好きでいつも楽しく拝読させて頂いております。 [気になる点] 長広舌と云う表現をされてらっしゃいますが、古代インドでは「自分は隠すものが無い=正直者」である証として…
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