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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第二章  だから、彼も彼女と諦める

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第七話  デュラ偵察部隊

 簡単な依頼をこなしつつ、デュラ偵察部隊出発の日を迎えた。

 二日前にこの港町にやってきたリットン湖攻略隊ロント小隊は、精霊人機三機と整備車と運搬車が一両ずつの五十人からなる部隊だった。内二十名が開拓学校を卒業したばかりの新人だが、新人のうち十名は整備班で戦闘への参加はほとんどしないという。

 ロント小隊の精霊人機は見る事が出来なかったが、今日中に戦闘があれば見る機会もあるだろう。

 問題なのは開拓者だ。

 開拓者の参加人数は三十名と開拓団が一つ。

 開拓団はギルドが声をかけて引っ張ってきた〝竜翼の下〟開拓団。付近で活動中の開拓団の中では戦闘力に秀でており、守備に関しては高評価を得ている開拓団だ。

 問題はその他の個別参加した開拓者である。

 三十名中二十七名がデュラ出身者で構成されており、士気が高い反面装備も実力も貧弱という扱いに困る集団となっていた。

 デュラ出身ではない三名のうち一人が俺で、もう二人は見るに見かねて参加した凄腕らしい。

 構成人員を見たギルドが慌てて部隊編成に取り掛かり、俺と芳朝を除いた十四名の部隊を二つ用意し、凄腕二人に指揮させようとしている。

 開拓村でデュラの避難民の態度を見た経験から言って、凄腕がいようと、ギルドの指示があろうと、命令をどこまで聞くかはわからない。

 竜翼の下開拓団も同様の見解で、参加を相当渋ったらしい。

 俺と芳朝が参加すると聞いて、何故か竜翼の下開拓団団長ドランが参加を決定したと聞いている。


「コーヒー淹れたぞ」

「のむー」


 やる気なさそうにソファで寝そべっていた芳朝が、力の入っていない声を出す。

 俺は芳朝にカップを渡して、自分のカップに口をつけた。

 芳朝は息を吹きかけて白いコーヒーもどきを冷ましながら、ちびちびと飲んでいた。


「食後のコーヒーは赤田川君の一杯に限るね」

「そりゃどうも」


 コーヒーを飲み干した俺は先にガレージへ入り、ディアとパンサーを起動する。

 昨夜、蓄魔石に魔力を充填しておいたので、三日はフル稼働できるだろう。

 精霊人機と違って小さいうえに攻撃用の魔術を使用しないため、精霊獣機はかなり燃費が良いのだ。

 芳朝がやってきてパンサーの頭を撫でた後、ひらりと騎乗する。

 ガレージの戸をあけてパンサーとディアを出した後、戸を閉めて施錠した。

 中ではいつも通り番犬代わりのプロトンが起動している。

 俺はディアに跨り、集合場所である門へ向かった。

 芳朝が文庫本を取り出して読み始める。

 普段通り町の住人から白い目を向けられながら、のんびりとディアたちを歩かせる。

 門にたどり着くと、意欲旺盛なデュラの避難民たちが集まって不満そうな顔をしていた。

 凄腕の開拓者らしき男二人がどうにか収拾をつけようとしているが、まともに隊列も組めていない。

 先が思いやられるな、と思いながら今回の指揮官であるロント小隊長を探す。

 しかし、ロント小隊長を見つけるよりも早く竜翼の下開拓団団長ドランさんが副団長リーゼさんを伴って声をかけてきた。

 俺たちを見ない様に視線を逸らしているリーゼさんに苦笑しながら、ドランさんは俺に片手をあげて挨拶してくる。

 無言で頭を下げて返すと、ドランさんは苦笑を深めた。


「うちの副団長がこんな態度で悪いね。今回の依頼ではよろしく頼む。お前たち二人が参加すると聞いて、お詫びがてら手を貸そうと思ったんだ」

「お詫び?」


 首を傾げて芳朝を見る。芳朝も心当たりがないのか、首を傾げていた。

 ドランさんはそんな俺たちを見て、参ったなと頭を掻く。


「開拓村に物資を運んでくれた時、うちの副団長が余計なことを言ったろう? 他所の連中の事に首を突っ込むなと言い聞かせてるんだが、世話焼きでね。余計なことまで言っちまう」


 開拓村、と聞いてリーゼさんの言葉を思い出し、納得する。

 確かに余計なおせっかいではあったが、別に間違った事は言われていない。この世界の価値基準では、という枕詞が付くが。

 芳朝が興味なさそうにパンサーの頭に肘を置き、ドランさんに声を掛ける。


「よろしくも何も、私のパンサーや赤田川君のディアを気持ち悪いって言うんでしょ? お互い近付かない方が良いと思うよ。不快になるだけなんだから」


 リーゼさんの口がゆがむ。

 冷めた目でそれを確認した芳朝が、やっぱりね、と肩を竦めた。


「赤田川君、行きましょう。ロント小隊長に挨拶くらいはしておかないと」


 芳朝が俺の服の袖を取って引っ張る。

 この場にいても意味はないと判断して俺がディアを動かそうとした時、ドランさんが口を開く。


「今のロント小隊長には会わない方が良い。あの素人どもを見て、精霊人機の後方に置くと判断するような奴だ。お前たち二人は使い潰される」


 ドランさんが素人と指差すのはデュラの避難民達だ。まだ隊列が完成していないように見える。横の仲間と話してばかりで動きもばらばらだ。

 精霊人機の後方とは、精霊人機で撃ち漏らしがちな小型魔物や中型魔物を押しとどめ、後方の整備車両や運搬車両に到達させないようにする人間バリケードだ。精霊人機と交戦している大型魔物の動きにも注意しながら中型魔物を優先して狩る技量が求められるため、広い視野と巧みな連携、確かな技量が求められる。

 そこに素人同然のデュラの避難民を配置するのは、よほどの馬鹿か、さもなくば冷血漢だ。


「ロント小隊の随伴歩兵はどこに配置されるんですか?」

「さすがに開拓学校の教科書を読みこんだというだけはあるな」


 リーゼさんから聞いたのか、ドランさんは感心したように顎を引く。

 爪先で地面に丸や線を描いたドランさんは、配置を説明してくれた。

 最前線にロント小隊の精霊人機が三機、その後方にデュラの避難民で構成された開拓者の歩兵部隊、その後方にロント小隊の随伴歩兵隊、その後方には整備車両や運搬車両があり、車両の左右には開拓団竜翼の下の精霊人機が一機ずつ、殿にはロント小隊の車両護衛隊という配置のようだ。

 実力のある竜翼の下は左右に分散配置して車両を守るための盾とし、使い勝手の悪い素人開拓者の一団は前線で肉の壁として扱って中型魔物の気を引いて足止めさせる。実戦経験の少ないロント小隊の兵は内側に配置して消耗を抑えつつ経験を積ませる。そんな布陣だ。

 小隊長は決して馬鹿ではない。確実に言えるのは開拓者を消耗品として配置する冷血漢だという事だけ。

 この布陣を悪びれもせずに竜翼の下団長に明かすくらいの冷血漢なら、生理的嫌悪感が湧くという精霊獣機を見た時の反応も想像がつく。

 俺や芳朝の場合、他の開拓者同様に前線に送られるのは非常にまずい。精霊獣機の長所である機動力が殺されてしまう。

 芳朝も目を細めて思案しているようだ。

 そこで、とドランさんが口を挟んでくる。


「お前たち二人を一時的に我が開拓団の指揮下に加えようと思う。そうすれば、車両横の警護と索敵が任務となり、お前たちは比較的安全だ。デイトロの奴も、二人の索敵能力は確かだと証言していたから、期待している。具体的な配置は――」

「いえ、信用できないのはドランさん相手でも同じなので、指揮下に加わるつもりはありません。竜翼の下の指揮下に入ったらロント小隊長の指揮下に変更できませんから、もしもの時に取り返しもつきません。今回だけとはいえドランさんの上官に当たるロント小隊長に断りもなく編入の話をするのもはばかられますから、まずは挨拶が先ですね」


 ドランさんの言葉を遮って、編入を断ると、ドランさんは驚いたように目を見開いた。

 リーゼさんがドランさんの隣でため息を吐く。


「悪化してますね」


 赤縁眼鏡の下の瞳を鋭く光らせて、リーゼさんが俺を睨んでくる。


「以前はまだ、二人きりの世界に閉じこもる事に罪の意識があったはずです。周囲に受け入れられようと言動にもある程度気を使っていた。それなのに、今の態度は何ですか?」


 俺がうんざりして言い返そうとすると、芳朝が先にリーゼさんを睨んで言い返していた。


「受け入れる気構えもないのに大層なことを言わないでください。気持ち悪いです」


 リーゼさんに言われたくないと思っていたのは芳朝も同じだったか。

 怯んだリーゼさんが悔しそうに顔をそむけると、ドランさんが苦笑した。


「だから他所の事に首を突っ込むなって言ってんだろう。気遣いってのは言葉と態度で取り繕いながらするもんだ。そうでないと押し付けがましいだけだろうが」

「しかし、団長――」

「あぁ、やめやめ。お前の仕事は団の内側、俺の仕事が団の外側、そういう分担だろうが。一回整備方法を教えたくらいでこの二人が団の内側に入ったと思ってんなら大間違いだ。依頼だったんだろ? 報酬も貰ったろう? なら、もう終いのはずだ。いつまでも引きずるんじゃねえよ。だから男に逃げられるんだ」

「それは、関係ないです」

「重いんだよ、お前。自覚しろ。婚期逃すぞ」

「お、重い……」


 ショックを受けた様子のリーゼさんにかまわず、ドランさんが俺をまっすぐに見てくる。


「断られておいて諦めが悪いと思うかもしれんが、編入はいつでも歓迎する。ひとまずロント小隊長に会ってくるのも悪くないだろ」


 そう言ってドランさんが指差す先には整備車両があった。開拓団が使うようなものではなく、軍用のがっしりした整備車両は、驚いたことに鱗状の遊離装甲で側面が覆われている。

 魔力を馬鹿食いする遊離装甲をつけた車両なんて初めて見た。めちゃくちゃ燃費悪いぞ、アレ。

 ロント小隊長はあの整備車両にいるそうだ。

 ドランさんに礼を言って、俺は芳朝と一緒にロント小隊の整備車両に近付く。

 見慣れない精霊獣機に警戒したらしいロント小隊の兵が剣の柄に手を掛けた。


「開拓者か? 何の用だ?」

「ロント小隊長にご挨拶をしようかと思ったんです。少々特殊な兵器を乗り回しているもので」


 ポン、とディアの頭に手を置くと、兵は眉をひそめた。


「得体のしれない精霊兵器を乗り回している開拓者がいると聞いたが、お前達か。少し待っていろ」


 兵は横柄な態度でそう言って整備車両の助手席に走って行く。

 ドア窓越しに兵が助手席の人物と二言三言会話すると、助手席から四十代のひげを蓄えた男が下りてきた。

 赤い髪に碧の瞳、象牙から削り出した彫刻のような整った顔だが、眉間には深いしわが刻まれている。


「ロントだ。この小隊を預かっている。事前に各門の状況を調べたという開拓者はお前達だな?」


 おい、係員、情報がだだ漏れてんぞ。

 肯定も否定もせずに流そうとしたが、ロント小隊長はディアとパンサーを一目見て舌打ちする。


「確かに不快な兵器だ。だが、たった二人で魔力袋を持ったギガンテスを振り切ったというからにはそれなりに使えるか。何が得意だ?」


 感情面では否定しつつ、有用性は認めてくれるらしい。かなり割り切った思考を持つ現実主義者のようだ。

 素人開拓者を前線に配置するのも頷ける。


「索敵の魔術式があるのでかなり広範囲の斥候ができます。ゴライアも一体か二体なら無力化が可能です」

「……かなり腕が立つな。索敵の魔術式というのは?」


 マッピングの魔術式は特許を取っているが、防犯上秘匿している索敵の魔術式は一般公開していない。

 詳細は伏せて、広範囲の動物や魔物を見つけ出す魔術だと説明する。

 ロント小隊長は顎髭を撫でて目を細める。


「それが本当なら、今すぐ一般公開しろ。軍人の死亡率が下がる」

「お断りします。穴を突かれて俺たちの家に盗みに入る奴が出るので」


 すでに、俺と芳朝が出かけている間に盗みに入ろうとして索敵魔術に引っかかり、番犬代わりのプロトンに取り押さえられた空き巣が三人いる。

 今は空き巣で済んでいるが、強盗や俺たちの命を狙う輩も出ないとは限らない。キリーの父親に水を掛けられたのも記憶に新しい。

 防犯と護身は徹底しなくてはいけない。

 ロント小隊長は俺を見下ろして腕を組んだ。


「自分さえ助かれば他の者がどうなろうとかまわないか。だから開拓者は信用ならん」

「どうとでも」


 俺も芳朝も、死ぬわけにはいかない。互いの存在は決して代わりが見つからないのだから。

 だから、他の人間よりも相手を優先することに躊躇いはない。

 交渉は無駄だと悟ったのか、ロント小隊長は忌々しそうに舌打ちして、素人開拓者の一団を見て鼻を鳴らす。


「お前たち二人は我が隊の精霊人機に先行して索敵に当たれ。戦闘への参加は最小限で構わない」

「了解しました」


 少なくとも、飼い殺すよりは使い潰す道を選んだらしい。

 やっぱり、ロント小隊長は現実主義者の冷血漢なのだろう。


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